見出し画像

心拍数の回復過程(Heart Rate Recovery)と健康

【追記】
2023/09/04 事例追加「肺疾患患者の退院後の自宅回復状態の研究」

今回は、「回復力(レジリエンス)に関するお勉強」というテーマで書かせていただきました。

 TechDoctor のデータサイエンティストの杉尾です。
 どんな小さなことであれ、人は誰しも失敗や不幸を経験し、落ち込み、悔み、それでも前を向いて立ち上がり、生きています、という方が多いですよね。その人生の過程を一括りに表現することは難しいですが、その過程の一つにある立ち上がる際に必要な力を「回復力(レジリエンス)」というのかな、と私は思っています。
 その回復力(レジリエンス)に関して調べていくと、回復力とは言っても、「心肺機能強度としての回復力」と「こころの回復力(レジリエンス)」というものがあることがわかりました。
 まずは「心肺機能強度としての回復力」に関して、noteとして書き留めさせていただきました。よろしければどうぞご一読ください。

 あと、冒頭に失礼いたします。弊社へのお問い合わせはコチラになります。「こんなことはできないか?」、「こういうサービスまたは研究をしたいんだけどサポートしてくれないか?」など、何なりとお申し付けください。


1. 心拍数の回復過程

 心拍数の回復過程は、"Heart Rate Recovery(HRRc, HRrecov)"と呼ばれる指標で表現することができます。Heart Rate Recoveryは、運動終了直後の心拍数と1分後の心拍数を比較し、どれだけ回復したか(下がったか)で評価することができます[1]。

Heart Rate Recovery = 運動終了時心拍数 - 1分後の心拍数

 この値が大きくなるほど、回復力が高く、心肺能力が高い、言い換えれば体力があるということになります。また、運動強度によって値が大きく変わるため、一定以上の心拍数での計測、さらに運動強度を揃えるとなお正確です。

 運動強度(%)は、最大心拍数との比率を利用して設定します。または、自覚的運動強度(RPE)を元に設定することも可能です。

運動強度(%) = 心拍数 / 最大心拍数

図1. 自覚的運動強度と心拍数のマッピング[2]

Heart Rate Recoveryは、通常で20 - 50程度、60bpmを超えるとかなり良いと言われています。また、12bpmを下回るような場合、心肺機能に欠陥がある場合があるともいわれています。

2. Heart Rate Recovery で何がわかるのか

 この Heart Rate Recovery を定量的指標として計測することで何がわかるのかの事例を以下に簡単にまとめます。

体力を定量化する
 
主にアスリート向けの使い方になります。むしろ、読者の方に高度な運動教育・指導を受けた方がいらっしゃれば、この指標を既にご存知である可能性は高いです。

死亡の予測因子になりうる
 
Coleらの研究[3]によれば、このHeart Rate Recoveryの小ささが何らかの原因による死亡の強力な予測因子の一つであることが明らかにされています。
 仕組みはと言うと、死亡の危険因子の一つに、迷走神経の活性の全般的な低下があります。そして、運動に伴う心拍数の増加の要因の一つは迷走神経の緊張が低下することによるものであり、さらに、心拍数の回復(Heart Rate Recovery)は、迷走神経の再活性化に伴う作用の一つです。
 つまり、運動後に起る心拍数の減少の遅延(Heart Rate Recoveryが小さいこと)が重要な予後マーカーの一つになりうるという内容です。
 手法としては、年齢,性別,薬物治療の有無などで補正済みしたHeart Rate Recoveryを用いた単変量解析(2428例)によって算出しています。

その他研究事例
 また、他にも、呼吸器疾患で入院した(小児)患者の退院後の完全回復までの回復期間をデジタルバイオマーカーで計測・解析した研究があります。
その仕組みにより、心拍の回復過程をリアルタイムに把握することができ、さらに従来の研究結果と同様の回復期間を確認することもでき、ウェアラブルデバイスによる遠隔モニタリングの有用性が示せるということがわかっています。詳細は、以下の記事にまとめています。

3. 今後の記事に関して

 次回以降は、「こころの回復力(レジリエンス)」について整理したいと思います。

 今後も、継続的にこの領域に関してキャッチアップした上で、発信をしていきたいと思います。ご興味を持っていただけたならば、「スキ」していただけると中の人が喜びます。

 弊社㈱TechDoctorではウェアラブルデバイスデータを主軸に人々のメンタルヘルスを計測・可視化、さらには分析していき、より健全な社会にしていくことをモットーに調査・研究・サービス開発を進めております。エンジニア・データサイエンティスト、医学的バックグラウンドを持つ方など多様な人材の採用を実施しております。お気軽にご連絡下さい。

■エンジニア向け採用ピッチ資料はコチラ
設立の経緯、課題、使用技術等を随時更新しています!

■ご応募はコチラ

参考文献

  1. Flask LLP:回復心拍数について, https://flaskapp.com/ja/ zones/help-03.html, 閲覧日2022年1月10日

  2. 日本健康運動研究所:運動強度の設定の仕方と測り方, https://jhei.net/exer/walking/wa02.html, 閲覧日2022年1月10日)

  3. CHRISTOPHER R. COLE etc, "HEART-RATE RECOVERY IMMEDIATELY AFTER EXERCISE AS A PREDICTOR OF MORTALITY", New England Journal of Medicine, November 1999, 341(18):1351-7

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?