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「やっぱり俺、唐揚げ食べれない」


平凡な人生に、突き刺さったことばたち⑧

平凡なサラリーマンの私にも、人生の中に、忘れられない強烈な言葉たちがある。それを、エピソードと共に書いていくnoteです。書き溜められたら、記念の本にしよう。


【やっぱり俺、唐揚げ食べれない】


私が大学2年生か3年生の頃の話だ。
私には好きな子がいて、告白をしようと思っていた。以前一度フラれていて、今回は2度目の告白だ。1度目の告白は大学1年生の頃で、それからしばらく忘れようとしていたが、どうしても惹かれてしまい、もう1度だけ気持ちを伝える事にした。
気持ちの全部を直接はうまく言えない気がして、手紙にして、その子に渡した。

返事はまた今度でいいよ、と伝えて1週間経った頃、彼女から連絡があり、大学の空いている教室で落ち合った。
彼女からは「一緒にテスト勉強しよう」と言われて集まったのだが、たぶん、返事をくれるのだろうとなんとなく感じていた。

空が見える、お昼前の教室。誰もいない場所で、二人で勉強出来ることが、とても嬉しかった。
しばらく勉強して、今日は終わりにしようか、という話が出て、片付けをしていると、彼女が言った。
「この前の返事、私も手紙に書いてきたよ。」
「え。」
「直接だと、なかなか思ってること言えないと思ったから。だから、これ。私が行ったら読んでね。」
彼女から、色々なキャラクターのシールが貼られた手紙を受け取る。
「これスポンジボブのシール、ダイソーに売っててさ、かわいくない?」
その台詞が、かわいいと思った。
「テストがんばろうね!」
彼女はそういうと先に出て行った。
もうすぐお昼休みになる時間で、この教室にもお弁当などを食べに誰かが来る可能性もあったので、私は手紙を持ってトイレの個室へ移動した。

急いで封を開けて、中身の文字を、貪るように読む。

「この前は気持ちを伝えてくれてありがとう。何となく、ちょっと前から気持ちは分かってたよ。でも、ごめん。どうしても、友達以上の関係が想像出来ない。誰かにハッキリと好きと言われたのははじめてだったから、嬉しかったよ。ごめんね。
今度皆で行く焼肉、楽しみにしてるね。テスト頑張ろうね。私はフランス語がやばいかなぁ。じゃあまたね。これからもよろしくね。」
要約すると、そんな内容だった。色々気を遣って書いてくれたことが分かる文章だった。

あ、フラれた…。

フラれてる…。

まだ大学内にいるから、泣いてはいけないというセーブがかかり、何となく、悲しみきれない。悲しみ全開モードに入り切れない。
そのまま同じ学部の友達とお昼を食べる時間になり、トイレの個室にこもりっぱなしでも、悲しみ切れないし、みんなに話して、気を紛らわそうか…。そう考えて、私は、売店で一番好きなチャーハン唐揚げ弁当を買ってみんなと合流した。

「返事もらえたわー。」
告白した事を知っている友人たちに伝える。みんな、おー、そうかー、おつかれー、など、口々に相槌を打つ。
「ダメだったわー。」
軽い感じで言ってみる。
「いやー、まぁねぇー。」
言いながら、チャーハン唐揚げ弁当を取り出す。
「ダメかぁー。」
割り箸を出して唐揚げを掴む。
目線は唐揚げに落ちる。顔が少し下を向く。突然涙がこぼれてくる。あ、泣いちゃった…。悲しみ全開モードが、心に入ってくる。綺麗な透明の水に、絵の具の付いた筆を入れた時の様に、一気に悲しみに侵食される。あっという間に広がっていく。

止めどなく、何粒もこぼれてくる。

「く…。」

言葉にならない声を漏らす。

私は静かに箸を置いた。
「やっぱり俺、唐揚げ食べれない…。」

そう言いながら、私は号泣した。
大学内の広場で、タオルを顔に被せながら咽び泣いた。
唐揚げが冷めていく。
チャーハンと唐揚げ。
男なら誰でも大好きな二品。
どちらも食べられない。
悲しみでいっぱいで、入る余地がない。
何とか、どうにかならないか、ならないだろう。気持ちは、伝わったのか、伝わった。食べられるのか、食べられない。
唐揚げよりも、あの子が好きだった。大学内の、気怠い雰囲気。誰かの笑い声。全ては悲しみの中に包み込まれていく。

あの子が好きだった。色んな場所に行った。二人で行く事もあったし、メールだって何度もした。同じ授業を受けるのが、一週間のうちで、どんなに楽しみだったか。
授業の終わりに学内のジムで一緒に筋トレやバドミントンをした。帰りに自販機でジュースを買って飲んでいる時が、一番楽しかった。涼しげな夕暮れに、好きな子と二人で飲むジュースより、美味しいものなんてこの世にない。
だけどこれ以上、近くには行かれない。

唐揚げが、食べれない。
チャーハンも食べれない。
ただ、ずっと泣いていた。
帰りの電車でも泣いてしまった。周りのひとがひそひそ車内で心配しているのが分かった。
家でも泣いていた。浸りに浸りまくった。

大きくなってあんなに泣いたのは、たぶんあの時くらいだ。もうおそらく、経験しないだろう。本気でぶつかって、本気で返事をもらって、本気で悲しかった。
思い出をありがとう。そういう気持ちでいっぱいだ。

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