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Vket6 NGシーン集 ー βテストは大事だよという話

昼下がりのPhilips Sheep。量子転送エレベーターには8本、いや10本の手足を持った異形が誕生していた。

アンドロイドの店員はため排気をつく。

「新型テレポート・エレベーターは少々、元気が過ぎるようだ。よもや、店内にいる誰も彼もを同時にワープさせてしまうとは。」

エレベーターに重なって転送されてしまったのは、有志のβテスターたち。この新店舗のシステムが「ちゃんと」動くかどうか、事前テストを行っているのだ。
テスターたちは何事もなかったかのようにバラリと分かれて、2本の足(あるいは1本の足)で歩きだすと、今度は手すりや壁に向かい始めた。

Boom!

そしてテスターは吹き飛ばされた。手すりに向かってジャンプしたら手すりの物理障壁(コライダー)が誤作動を起こしたようで、天井のさらに上へとすっ飛んでいったのだ。

店員がカウンターの端末を見ると、もう新しい「イシュー」、つまりバグ報告レポートが上がっていた。

「修正しなければ。このまま開店していたらえらいことになっていたなぁ。」

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βテスターさんありがとう

ななななです。Vket6ではβテストのサポートとか色々をしていました。
この記事では、ともすれば日の目を見ない「βテスト」の工程にスポットライトを当てて、テスト段階での様々な「NGシーン」をご紹介します。

バーチャルマーケットのワールド開発は、大量かつ複雑な要件、無数のアセット、そして何人もの腕利きモデラーたちが携わる、かなり大規模な開発案件です。

つまり、バグや不具合は必ず出ます。

バグが出ること自体は問題ではありません。不可避です。バグが多いということは、それだけ複雑な案件だということです。しっかりとテストして、最終的に解消すれば、大丈夫なのです。

テスト工程はどんな開発案件でも大切なもので、ワールド制作においてもそれは同じこと。「Vket6」でも、数十人からなる有志の「βテスター」に公開前のワールドに事前に入ってもらって、「おかしなところ」が無いかチェックをしてもらいました。
βテスターさんたちが逐一発見して、報告してくれたおかげで、問題の多くを解消することができました。目立つ不具合などがなかったとしたら、それはテスターたちのおかげでもあるのです。

Flying T-posing Cat

砂漠に囲まれたオアシス、カラヨル。
「太陽の市場」と呼ばれるこの地は、夏になると風化しかけた祭壇が火を吹き、年に一度のお祭りが開かれます。
それはまだお祭りが始まる前の時期。太陽が高く高く昇るようになった頃。キャラバンとは違った佇まいの集団が、この地を訪れます。古の祭壇ではちろちろと火の粉が舞い散り、オオカミやカラスなどの動物たちも心なしかそわそわとしているようです。
そうして、カラヨルのあちこちを散策し始めたのは、世界各地から集まったβテスターたちです。オアシスで釣りをしたり、岩場の周りを何度も往復したり、崖から飛び降りようとしたり崖に突っ込んだりしています。

そんな彼らの視界の端に入る青い者たちは、かの名もなき神の残滓でしょうか。じっと佇んで、やって来た人間たちを眺めています。

テスターたちは口々にささやきます。
「なんだなんだ」
「猫様が我々を見下ろしている」
「おお神よ、Tポーズの猫に囲まれている」
「開発陣はどうにかなってしまったのかしら。ワールドじゅうに猫を置いてる。」
「かわいくないですか????」

青い者たちは身じろぎもせず、右手を右に、左手を左に真っ直ぐに突き出したポーズを保っています。

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やがて、テスターたちは神々への祈りを捧げ始め、そして青い者たちの元に「イシュー」が届きます。
空飛ぶTポーズの猫
「空飛ぶ猫が天に昇っている。力を付け過ぎる前に地上に降ろさなくてはならない」
どうも、この両手を広げるポーズは、お祭りを訪れる人間たちを動揺させてしまうところがあるようです。デフォルトがどうとか、十進法がどうとか。

そうして祭壇が火を吹いて、お祭りが始まった後。来場者たちがこの青い残滓たちを見るときには、歩いていたり、手を合わせたりなどのポーズになっていました。テスターたちの声を聞いて、Tポーズをやめたのです。

世界中からβテスト

Vketのβテストは、英語圏など非日本語圏からもテスターが参加しています。様々な文化や風習のバックグラウンドを持って、それぞれの視点からワールドをチェックしてくれるため、カリングのような技術的な問題のみならず、シンボルやポーズが与える意味やタブーなどについても確認が入るのです。

上の例では、モデラーや3Dに関わる人たちを動揺させる「Tポーズ」について指摘してもらって、青い残滓たちにポーズを修正してもらうことができました。いえTポーズは誰でもおかしいと思うかもしれませんが、他にも、過去に南米で起きた事件についての指摘などもらっています。世界中から来場者が集まるイベントですから、世界中からの視点を入れる必要があるのです。

日本語圏のテスターたちとは日本語、非日本語圏のテスターたちとは英語でコミュニケーションを取っていますが、テストのissue管理にはシステムやツールを活用しているため、言葉の壁があっても円滑に連携を取れています。

グルメなメモ

貧困街からアジア屈指の歓楽街へと成長した「九蛇之市」。様々な勢力がしのぎを削るこの街では、この頃ガラの悪い者たちがストリートに目立つようになり、緊張が増していた。何か事件があったようで、渦巻く陰謀の気配に街が殺気立っている。

まだ観光シーズンには早い頃。電車に乗って、見慣れぬ観光客たちが姿を現した。いかにも普通の観光客を装って、屋台の食べ物を楽しんだりしているが、その一方で木箱の上を飛び跳ねたり、通行止めに突っ込んだり、屋台の裏の階段から屋根の上に登ったりと怪しげな振る舞いをしている。
彼らは「βテスター」だ。九蛇之市の仕組みがうまく回っているかどうか、監査をしに来たのだ。

やがて、ベルナテッドの内部システムに一通のメッセージが送られてきた。「イシュー」の報告だ。ベルナテッドが企んでいたある陰謀についての計画書。テスターたちはそのすべてを集め、内容を精査していた。

日本語の方の計画書は、問題なかった。しかし、どうも英語の方の計画書がおかしいらしい。

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聞くと、計画書の英語への翻訳作業が終わっていなかったという。仮で置いていたのが、このIwashiだったようだ。
なぜにIwashi?なんでもこの計画書をしたためた幹部は、グルメらしい。

かくして、観光シーズンに入る頃、計画は実行に移された。計画書は英語も含め完璧に揃っていたが、その陰謀がうまく行ったかどうかは、また別の話だ。惜しむらくは、九蛇之市の屋台にはイワシ料理は無いようだ。

一方その頃、八獣連合もまたテスターから「イシュー」を受け取っていた。彼らの支配領域にある屋台では、青い色をした危険な飲み物が売られている。普通の人間がこの飲み物を飲むとしばらく動きが遅くなってしまうのだが、その効果が続いている間に2杯目を飲むと、戻らなくなってしまうらしい。
八獣連合の獣人たちの基準でも、この飲み物は「強すぎる」。観光シーズンの前には調合が調整され、2杯連続で飲んでも戻れるようになった。

テストは大変

テスターはときには体を張ってテストをしないといけないこともあります。ガラの悪い連中が通せんぼしているところに突っ込んだり、怪しい陰謀の計画書をかき集めてチェックしたり、危険な飲み物を何杯も連続で飲んだり。

つまり、普通にワールドを周っていたら気づかないような問題点まで見つけているのです。コライダーのチェックやカリングのチェックなど、普通はやらないような操作を何回も繰り返して。

もちろん、Vket6で起きていた不具合はこれだけではありません。たとえばアイスのワゴン車が地面に埋まっていたり、花壇に絨毯が刺さっていたりと、様々な小さな問題がありました。βテストではそういった小さな問題も大量に報告され、最終的には300以上のissueが登録。その多くが開会前には解消していました。

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このように、けっこう大変なことも多いβテストですが、「VR慣れ」、「VRChat慣れ」、そしてVRChatのワールドの知識を活かすことができる場でもあります。Vket2021でもおそらくそのうちテスター募集を行いますので、良かったらぜひ、参加してみてください!

写真提供:sheru、Flower Of Good、xantos

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