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大学中退して独立したら独立なんて必要なかった話⑦

午前3時。新聞配達のスーパーカブのエンジン音が聞こえる。走り出すエンジン音とサイドスタンドを出す音が繰り返され小気味よい。午前3時は深夜というのか。早朝というのか。きっとその表現の違いは、それぞれのメンタルによるものだろう。起きて今から何かをするなら早朝になり、何かをやり終え寝るのなら深夜になるのだろう。

僕たちは早朝3時にいつもの手芸店の駐車場に集まろうとしていた。僕は一足早く手芸用品店の駐車場に到着して皆が来るのを待っていた。

ここ数年の間で僕たちはバイトをして、それぞれバイクを買った。白田はCB400sfスーパーボルドール。はぎはイントルーダークラシックというアメリカンバイク。鳥部はバルカン400というアメリカンバイク。僕はSR400という400ccのバイクの中では小さな車体のバイクを買った。末石は免許を撮るのがめんどくさかったのか、免許を取らず皆のバイクの後ろに乗っていた。そのバイクに乗って皆で様々なところにツーリングに行くようになった。地元で有名なツーリングスポットである志賀島から始まり、佐賀県唐津や熊本県阿蘇そして大阪。みんなで時間を合わせてバイクを走らせていた。

そして、ついに今日みんなで行くのだ。バイクで東京に。

今までのツーリング先の中で一番遠い。福岡~東京まで1000キロを超える。1000キロ超えのツーリングは大学生の僕たちにはロマンがあった。僕の家で皆で日本地図を広げて

「遠っ!!大阪の倍やん!」とはぎ。

「大阪でも結構きつかったけん、相当ヤベェーんじゃない?」と白田がいう。

「いやいや!余裕余裕!!大体この距離が2時間として」と僕は親指と人差し指で6センチぐらいの間を作り、ぽんぽんと福岡から東京までの距離を簡単にはかって見せた。

「ほら!あっという間や!」

「いやいや!大阪の時もそれやって全然違ったやん!」と末石がつっこんだ。

「確かに大阪より辛くはなるやろうな。白田とはぎのはまだ新しめのバイクだから良いけど、俺と尾崎のバイクは結構古いけん、途中でぶっ壊れるかもな」と鳥部。

「ぶっ壊れてたら置いて行こう!俺のしかばねを超えていけで行こう!」と僕が言った。

そのようなことを思い出しながら、早朝3時の手芸用品店の駐車場で、一人たばこを吸っていた。すると携帯電話がなった。鳥部からの電話だった。出てみると開口一番

「バイクが動かんごとなった!!!」


えっ。まだ出発もしてもないのに。




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