見出し画像

大学中退して独立したら独立なんて必要なかった話⑨

僕たちは地元の駐車場を出発して福岡ICへ向かった。まだ日が上がってきてないが、あともう少しで日が昇ることを知らせるように、空はほのかに明るくなってきていた。地元の駐車場から出発する時に、九州を出て山口県に入った一番近いSAで一旦皆で休憩しようと約束した。

早朝の高速道路はまだ車は少なかった。僕、鳥部、はぎ、白田の順番で走っていた。白田のバイクの後ろに末石が乗っていた。この順番には理由があった。性能が悪い順である。性能が良い順で走ってしまうとどうしても性能の悪いバイクが遅れるとってしまうし、僕と鳥部のバイクははぎや白田のバイクに比べると、古くトラブルが起こる確率が高い。万が一トラブルにあった時一人取り残されたら辛い。高速で走っていく車。動かない鉄屑化したバイク。仲間に電話しても運転中で電話に出ない。先に進んでいく仲間。一人途方に暮れる。考えただけ寂しい状況が目に浮かぶ。できるだけ人員を集め対処できるよう性能の悪い順で走っていた。

僕は10年落ち振動が強いSR400のブルブルと震えているサイドミラーをみると、まだ少し暗い中に3つのヘッドライトが見えていた。バイクに乗る際離れたバイク同士話せるヘルメットにつけるインカムが売られている。大学生の僕たちにはそんな高価な代物は買えなかった。インカムを持たない僕たちにとってはそのヘッドライトの灯りがちゃんとついてきている確認できる唯一のものだった。

緑の看板に山口という文字が見えてきた。もうすぐ関門海峡だ。

「やっとここからが本番だ。」そんなことを思っていた。やっと地元の福岡県から出るからだ。ここから10回県境を越えていかなければならない。やっとイチなのだ。でも確かなイチだ。心を引き締め関門海峡にある関門橋へアクセルを少しばかり開けた。ドドドとバイクの排気音が速まった。

九州と本州をつなぐ関門橋を走らせる。少しばかり磯の香りを感じる。車では感じられない。バイクだから感じることができるのだ。海の近くを走れば磯の匂いを感じることができる。山の入り口に入れば、温度が下がったことがあたる風から伝わってくる。バイクは五感を使って乗る乗り物なのだ。しかし大きな橋は慣れない。高所でなんだか股間がゾクゾクするし、海風が強くバイクが風にあおられる。きゅっとタンクを足でしっかりと挟みながら僕は橋を渡り切った。

橋を渡り切りサイドミラーで後方を確認してみると何か変だ。ヘッドライトが2つしか見えない。一旦視線を前に戻しまたサイドミラーをみる。やはり2つしか見えない。バイクが重なって2つに見えていたわけではなさそうだ。

何かあったのではないかと不安になる気持ちもあったが、高速道路でバイクで走行中やれることは何もなかった。できることと言えば約束したSAに行くことしかなかった。何があっても後戻りはできない。心配しても何もできることはない。できることは自分の前に続く道を前に進むことしかできない。何か人生の教訓めいたものを感じながら、SAへ急いで向かったのだった。



この記事が参加している募集

自己紹介

スキしてみて

最後まで読んでいただきありがとうございました。記事が気に入ったらシェアやいいねをしてもらえると嬉しいです。