見出し画像

就活失敗して頭に来たので独立したが就活の方が楽すぎて草ww③

「一緒にやろうぜ~」


尾崎が自分に声を掛ける。


声の掛け方は、
“もうそれ以上負け確定のパチスロ続けるのは、
 いい加減もう辞めたら?”的な言い方だ。


あたり一面は真っ暗で、


小学校のグラウンドが見渡せる
ほんの少し高い位置の公園の
入り口の階段に腰掛ける。


両者は片手に缶ビール。


まだ買ってきてすぐなのか、
手がヒンヤリする。


「そやねー。んー。」


相変わらず、決まりの悪い生返事は
自分の悪いところかもしれない。


あれだけ散歩に夢中な芝犬が
散歩に出かけた途中で嫌がり、
散歩自体を拒絶するかのような事象にも似ている。


ここでいうところの”散歩”は、
 “就活”に当たる。


当初の状況とは異なり、
自分の友人知人らは内定をもらうも、
自分は、内定1社すら取れないポンコツなのだ。

“まだ就活した方が良いのでは?”病とでも
命名しても良いかと思う。


それくらい、普通に会話しているつもりが、
たまに、会話のキャッチボールすらロクに返せない
一種の”鬱状態”だったのではと今では思う。


“考えること”に疲れたのだ。


以前にも書いてきたが、
就活結果は散々なものである。


企業分析や自己分析シートの設計,
業界動向も学生ながらにきちんと行っても、


結果は惨敗なのだ。


30数社から否定をされると、
落胆を通り越して、
怒りすら覚えてくる。


だんだん面接を重ねるにつれて、
人事担当者の”仕事してますよ!”感に
大層イラついていた。


元々、不合格を言うのであれば、
なるべく早く、可能なら出会って
即最初に言うべきだと思う。


「お前は使えなさそうだから、却下。
右向け右で故郷に帰れ。お疲れさん。」


そう言われた方が、
逆に”優しい人”だなとさえ思う。


「あなたが当社に入って、
 貢献できることはなんですか?」


企業モノのAVにでも出てきそうな女性が
こちらを優しくも冷たく,ジットリ見ている。

「そうですね!私が御社にできることは、
 OOな点かと思います!(震」

もう無理しながら喋っているのが
自分でも分かる。


いつもとは違うキャラ設定で
懸命に話す“じぶん”を認識して、
 惨めに思う、その繰り返しだ。


人は二面性を持つと言われているが
本当にそうだと思う。


他者から見た”自分”と
自己が選んでいる”じぶん”は、
違うのである。


だからこそ、いろんな質問を通じて、
 対象とする人間の”じぶん”を見抜くゲームなのだ。


そして、色んな企業から
きっと見抜かれていたのだろう。


“多分コイツ(鳥部)は、ウチ(当社)には合わない”と。


そして、ある時の言葉が蘇る。


「君、無理して思ってもないことを
言わなくても良いよ」


もう、”ぷっつん”と何かが切れた。


「そうですね。やめときましょう。
 こんなことは。」


合わせることに限界を感じたというよりも、
ハナから”異臭のする空間”にいたくもないとでも言おうか。


そんなことを考えていた矢先に、
たった一つの内定を出してくれた人物がいた。


小中高の同級生の尾崎である。


良くも悪くも、鳥部個人を
下手したら親よりも長い期間見ているのである。

それも承知の上で、
「一緒にやろう!」と
内定を出してくれたのだ。


“我らは独立した。
企業名はまだない。”


どこぞの文豪の書いた書物の
冒頭部分に似ている。


心得てはいるが、
そこには、まだ何もない。


少し目線を上げると、
電柱の光が眩しく輝く。


顔を上げて、
少し、深く息を吸って
沈黙を裂く。


「せやな! やろう!」


「一緒にやろうぜ!」


「もう就活は辞めだ!!!」


見る見る笑顔になる尾崎は、
少し大きい声をあげた。


「ありがとう!っしゃぁ! 乾杯やぁぁ!!!」


勢いよく、缶をぶつけて、
飛び散る液体を気にせず、
 一気に飲み干す。


手に持っていた缶ビールは、
極限までぬるくなっていたが、


いつもとは違う、
旨さがあった。

就活完了。


就職先は、
社名も理念も何もない。


“これからずっと続くような道”


職でもない、理念のような言葉に
自分の人生を捧げると決めたのである。


続く・・・



この記事が参加している募集

自己紹介

最後まで読んでいただきありがとうございました。記事が気に入ったらシェアやいいねをしてもらえると嬉しいです。