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「心残りを6本ください」
「すみません。心残りはあと2本しか残ってないんです」
「じゃあ2本お願いします」


「良かった、2本だけだけどあったね」
「希少部位だから仕方ないな」


 その日、僕と息子は大阪の焼き鳥屋にいた。

 息子が小1の時にサッカーキャンプに参加する為に大阪に来た際に立ち寄ったこの焼き鳥屋で、初めて『心残り』という部位を食べた。鶏の心臓と肝臓をつなぐ大動脈で1羽から1つしか取れない超レアな部位らしい。息子はそれをとても気にいって売り切れになるまで5,6本食べた。

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 今回再びサッカーキャンプ参加の為に大阪に行くと決まった日から、「またあの焼き鳥屋さんに行って心残りが食べたい」と言い続け、遂に念願叶って戻ってくる事ができた。

「うぉぉぉぉぉ、やっぱ美味しい!」

息子は2年ぶりの心残りに大興奮。

「ダディ、お店の人に、僕たち2年前にここで食べた心残りが忘れられなくてまた来たって言おうよ」
「ああ、そうだな。ダディがタイミングを見て言うから、お前は言うなよ」
「うん、わかった」

 それから、他の物も頼んで食事を楽しんでいる間、息子は何度も「ねえなんで言わないの?」と聞いてきたのだが、僕はずっと「良いタイミングになったら絶対言うから」と言って息子をなだめた。

 2人とも満腹になって店員さんにお会計を頼んだ。支払いを済ませてお釣りを受け取ったタイミングでその時は来た。


「僕たち広島に住んでるんでるけど、2年前息子のサッカーキャンプで大阪に来てここでご飯食べて、初めて心残りを食べた息子がすごく気にいって、今回また大阪に来る事になったので絶対行きたいと言うんで連れて来たんです。心残り食べられて良かったです。他のものも全部美味しかったです。ご馳走様でした」

 そう言うと、店長さんは「そうだったんですか!それはありがとうございます!早く言ってくれたら何かサービスしたのに」ととても嬉しそうに笑った。


 ホテルまでの帰り道。

「ダディ、なんで最後に言ったの?早く言ったらサービスしてもらえたのに」
「だからだよ。俺らがそんな事言ったら、なんかサービスしなきゃとか、しっかり仕事しなきゃとか変なプレッシャーがお店にかかるだろ。でも最後に言えば、お店の人は俺らがサービスして欲しいとかじゃなく純粋に本心で心残りが食べたくてやって来て、楽しい食事ができてありがとうという気持ちが伝わるじゃん」
「Daddy, you are so cool.(ダディ、超カッコいいね)」
「こういうのを日本語で『粋』って言うんだ」



 あれから5年の月日が流れた。

 あの日以来、焼き鳥屋に行く度に、息子はまずメニューに心残りがあるかどうか探して、あろうが無かろうが、「ダディ、大阪の焼き鳥屋さんでダディに粋の意味を教わったよね」と嬉しそうに話してくれる。

 何気ない普段の会話が息子にとっては宝物の思い出になっている事に、生きてていて良かった、親になって良かったと思う。


 今日、息子が学校から帰って来たらこのnoteを見せて、ハグしよう。


 それから、自分の事を粋と言うヤツは粋じゃないって事を教えるのだ。


※英語子育て、留学してた頃の話、子育てについて、人生について、などなどnoteに綴っています。ここをクリックしてもらえたら目次が開きます。

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