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【エッセイ風連載小説】Vol.6『その謎はコーヒーの薫りとともに夕日に解けて』

teaまるお

Vol.6
四回表「睡眠を制する者が会話を制す」

 
 
その日、カレはカフェに行くことを迷っていた。今週は残業続きであまり寝ていないせいか、カラダもだるいし何より眠い。

カレにとって「会話を巡る」カフェの旅は刺激的だが、心身の充実あってこその趣味である。
 
カレはココロの中でつぶやく。
カフェに行くべきかいなか、それが問題だ・・・そこでふと、ハムレットのセリフを思い出す。

「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」

ところでハムレットってどんな物語だったっけ?気になりだしたら眠れなくなるのがカレの悪い癖。観念してベッドから抜け出した時は、時計の太い針が既に右側の時間を指し始めていた。
 
眠気ねむけの余韻を残しつつも天王洲のカフェ『E』に到着したカレは、いつものようにまず周りを見渡し、女性ふたり組を探してその近くの席に陣取った。
 
眠気覚ましにはやはりコーヒーだろう。
アタマの栄養に今日は砂糖とミルクを多めにしようかと考えていたその時だった。
 
「で、どうだったの?」
「髪型が七三なのはいいんだけど、会話まで七三だったからそこが残念だったかな」
 
カレはすぐさま「会話の七三」と検索してみる。なるほど、会話術としての7:3が次から次へと出てくる。

───これは使える!

どの記事でも「会話の7:3」はモテテクとして紹介されていることに思わずテンションが上がり・・・かけたが、いや待て。カレは思考を止め、落ち着いてカノジョの言葉を反芻はんすうする。
 
「残念」・・・その言葉がカノジョの会話の七三についての評価なのである。

その理由が明らかになる前に、カレは目の前のコーヒーに砂糖とミルクを多めに投入し、寝不足で少しボーッとしている自分のアタマにかつを入れた。
 
リスニング体制が整ってすぐ、カノジョの次の言葉が流れてきた。
 
「大事なのは会話の内容であって、お互いが盛り上がればそれでOK、七三なんてどうでもよくない?」
 
カノジョの話に耳を傾けつつ、カレの中に疑問が生まれていた。カノジョはなぜ髪型七三オトコとの会話を会話術の7:3と思ったのか?その疑問を見越したかのようなタイミングでカノジョからその理由が明かされる。
 
「会話七三の人って、みんな判を押したかのように質問攻めじゃん?趣味は?血液型は?好きな食べ物は?好きな色は?って」

質問に答えたあと、そこから話を拡げていくのかと思いきや「そうなんですね」「なるほど」で次の質問へ。
 
「きっと女子との会話に慣れてないから、誰かの入れ知恵かどっかから情報引っ張ってきた『7割相手に喋らせるのがいい』的なことやろうとして質問ばっかになるんだろうけど、それじゃまるで会社の面接か、刑事の取り調べだよ」
 
今やネット検索するだけでたいていの情報は手に入る。それは恋愛についても同じ。どうしたらモテるか、デートプランや会話術、モテ服など、これでもかとネット上にあふれている。
 
「仕事や勉強や趣味で忙しくても、カノジョ欲しい人はきっとみんなせっせと情報収集してるんだと思う。それこそ寝る間も惜しんで」
しかし、ネット上に溢れている情報だからこそ、たいていの恋愛テクニックは相手に見透かされる。今回の会話の7:3のように。

では、どうしたらいい?
 
「まずは寝ること。それも、できるだけたくさん」
「ん?果報は寝て待て、みたいなこと??」
 
───しっかり睡眠を取ったベスト状態時の能力を100%とすると、睡眠不足時、場合によってはその能力は30%程度にまで落ち込むという。「話す」には「相手の話を聞いて理解する」「自分の中でその情報を整理する」「言葉を組み立てて話す」という多様かつ複雑な作業が必要になる。個人差はあれど、わずか30%程度の能力でそれらをこなそうとするとどうなるか?
 
「寝不足でアタマ回ってない状態だと、相手の話を理解するのに時間かかるし、そこから話すとなるとさらに時間がかかるわけだから会話のテンポは悪くなるし、逆に会話のテンポについていこうと相手の発言をロクに理解しないで見切り発車すれば失言しかねない」
「会話のテンポも悪くて失言までついてきたらサイアクだわ」
「けどさ、多くない?そういうオトコ」
 
少し前までは「成功者は睡眠時間が短い」という説が広く信じられていたが、時代とともに情報はアップデートされていく。
 
「近くにいない?顔を合わせれば寝てないアピールしてくるオトコ。遅くまで仕事してて寝不足なオトコもいれば、飲み屋で会社の愚痴やら不満やらを毎晩遅くまで飽きることなくぶちまけてるオトコもいるけど、寝不足によるパフォーマンス低下で、日本が年間16兆円ほどの経済損失出してることなんか知らないんだろうね。デキるオトコなら残業しないよう仕事を効率化させるし、愚痴や不満しかないならさっさと会社辞めろっつーの」
 
寝不足で回転が止まり、情報の上書きなど出来ないオトコたちのアタマの中では、未だナポレオンは毎日3時間しか寝なかったという化石のような説が生きているのかもしれない。
 
「誰かの言葉で『快い眠りこそは自然が人間に与えてくれたやさしい懐かしい看護婦である』って名言があるんだけど・・・誰だったかな」
しばらく考えている様子だったが、思い出せず諦めたようだ。
 
「とにかく、睡眠が凄く大事ってこと。でね、もう一つもっと大事なのが、ネット記事とそのコメント欄を読むこと」
 
多くのネット記事には、その記事(出来事)に対して数多あまたのコメントが書き込まれている。

まずは記事を読み、そして自分の思いや考えを踏まえた上でコメント欄を読んでいく。自分と同じような思いを持つ者もいれば、自分と真逆の考え方の者もいるだろう。そして、自分では思いつかないような発想に出会うこともある。
 
最初のうちは自分と同じようなコメントは好意的に、反するコメントには否定的な思いを抱きがちだが、それを繰り返すうちにいつしかわかってくること。それは・・・

                    つづく

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