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なんとなくスターバックス


スタバが「なんとなく」苦手だ。
 
今でこそスタバは全国どこにでもあり、イオンモールとかアウトレットモールではあって当たり前のような存在だが、スタバが日本に上陸した1996年当時、既にオトナ年齢だった私はコーヒーを飲む習慣がなかったこともあり、スタバデビューの機会を完全に失っていた。
 
初めてスタバに行ったのはおそらく2000年代に入ってからだったと思う。
 
その時には世間的にも私的にもスタバのイメージが定着していた。

「おしゃれ、コーヒー通、センスいい、意識高い系」
 
そのすべてにハマらない自分にとって、スタバは完全なアウェーの地だった。

そしてダメ押しだったのが、注文の仕方がよくわからない。
 
それまで、ドリンクのサイズといえばSかMかL。突然、ショートとかトールとかグランデと言われても、と戸惑うばかりか極めつけにベンティって・・・
 
なんとなく」いけ好かないのだ。
 
初めてスタバで注文したメニューが何だったのか、今となっては全く思い出せない。
 
人間、初めての経験というのはなにげに覚えているものだが、スタバに関しては見事に記憶から抜け落ちている。それはきっと、自分にとってあまりいい体験にならなかったからだろう。
 
「なんとなく」苦手で「なんとなく」いけ好かないヤツだけど、どんどんその数(店舗数)は増えていき、そして周りでは「アイツ、いいヤツだよな」みたいな人が増えていく。
 
私はどんどん孤立感を増していった。つまらない意地など張らず、カレ(あるいはカノジョ)のふところに飛び込んでいけば、もしかしたら友達、いや親友にだってなれたかもしれないのに、私は頑なにカレをこばみ続けていた。
 
そんなある日、友人から「コーヒー飲みたくない?ちょうどスタバあるし」とさそわれた。
 
親しい友人だったので「俺、スタバちょっと苦手で・・・それにコーヒーもあんまり・・・」正直に告白した。
 
いい歳したオッサンの告白に失笑しっしょうが漏れることを想像していた私だったが、友人は一言「任せて」と超イケメンに答え、私をもれなくスタバへといざなった。ちなみに友人は女性だ。
 
お店に入るなり躊躇ちゅうちょなくカウンターへ向かい「コーヒー系で一番甘いものって何ですか?」カノジョが訊いてくれた。
 
店員さんは少し考えたのち「ホワイトモカ、ですかね?」と回答。
 
「・・・じゃ、それで」
 
私は消え入りそうな声でただそれだけ言って、商品が出てくるのを待った。
 
だが、いくら甘いとはいえ結局コーヒーでしょ?どこかでそんな風に苦々しく思いながらも、恐る恐る一口飲んでみた。
 
なんじゃこりゃ!

ビックリするほど美味しかった。そして感動するほど甘かった。ビターなのに甘いという、私にとっては「奇跡のコラボ」みたいな味だった。
 
それに、その後もし一人でスタバを訪れる機会がやってきたとしても、次回からは「ホワイトモカ、ホット、トールで」ととなえさえすればいい。まるで魔法の呪文じゃないか。
 
おしゃれでコーヒー通、センスがよくて意識高い系、非の打ちどころのないカレを勝手に敬遠していたけど、いざ話してみたら、カレの渋くて甘い言葉にメロメロになってしまった、そんな感じ。
 
でも・・・そんなカレのそばには常に、おしゃれでコーヒー通、センスがよくて意識高い系の人が集まっていて、やはり私には近寄りがたい場所なのである。
 
ホワイトモカ、ホット、トールで」

次にその呪文を唱えるのはいつの日か。
きっと、自分にご褒美をあげたくなるような、なんか「ちょっと」いいことがあった日だろう。

なんとなく」そう思う。

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