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【実録ホラー短編】『心霊写真が笑う』

※これは私が体験した話ではなく、友人が体験した話を物語風に整えて発表するものです。

※友人の職業はフリーのwebライター兼カメラマンで、この話はとある不動産系webサイトの依頼を受けて、取材旅行をした際の出来事が発端となっています。

※この話は現在も続いている現象と思われるので、念のため、関係者の氏名・場所・依頼サイトの名称などは全て伏せ、友人の仮称はAとさせて頂きます。



Aが依頼を受けて取材に行った場所は、ある県の郊外にある、再開発されて綺麗に整美された新興住宅地でした。Aはその街の住みやすさ――例えば、交通の便は良いのか? とか、駅前の様子は? とか、病院や公園があるのか? とか、そういったものを現地で調べ、その街の主要な場所を写真に撮って帰って来る、という依頼内容の仕事を請けていました。
 
Aはその街に到着するなりすぐ仕事に取り掛かり、丸一日がかりで取材を終え、夜はその街の民宿に一泊し、翌朝すぐに自宅に戻ったそうです。
 
自宅で写真のチェックをしている最中、Aは撮った写真の中に、おかしなものが混ざっていることに気付きました。

その写真には、謎のオレンジ色の光が写り込んでいました。

それはまるでフィルムを感光させてしまった時に写る光のようでしたが、使用したカメラはフィルムカメラではなくデジタルカメラだったので、当然、感光現象などは起きません。写真自体は、街を囲む緑地と、そこから見える点在した建物を写したもので、それ以外、特に変わった物は映っていません。正体不明のオレンジの光は、その緑地の写真の右上に、横長の楕円が大きく尾を引くような感じで写っていました。
 
「ファインダーに指が入ったのか? 」
 
そう考えたものの、その光は明らかに指ではありませんでした。太陽光が反射して出来たハレーションでもありません。
 
Aはしばらくその光の正体について考えてみたものの、さっぱり原因が分からなかったので、もうその写真についての詮索はやめることにしました。
 
「画像補正して、とにかく使える写真にしよう」
 
Aは写真を画像補正ソフトに読み込んで、その写真の色調補正や加工などをしてみましたが、いくら色々やっても、そのオレンジの光を目立たなくする事は出来ませんでした。
さすがにもう、Aはその写真については諦めることにして、その日の作業は終わりました。
 
翌日。
Aは写真の選定作業の続きをやるためにパソコンを立ち上げ、昨日の画像フォルダの写真を一枚ずつクリックで送りながらチェックしていると、例のオレンジ色の光が写った写真がまた表示されました。
Aはその写真を飛ばそうとクリックを押そうとした時、異変に気付きました。
 
 ――光の形が変わっている。
 
光が写っている箇所は写真の右上で、そこは昨日あった場所と同じです。ですが、光の形が、昨日見た時は彗星のように横に尾を引いた細長い楕円のような形だったのに、今写っているのは縦長に伸びた光なのです。横と縦では形状が全く違います。見間違えようがありません。
 
「なんでだ? 」
 
昨日、画像補正ソフトでいじくったからこんな形になったのか? とAは考えようとしましたが、その考えはすぐに却下しました。なぜなら、光をそんな形になんて加工しなかったからです。ソフトをいじっていたA自身が、そんなことは分かります。
 
しばらく考えてみたものの、やはり光の変化の原因は分からず、Aはその写真について考えるのを止めて、次の写真のチェックに取り掛かることにしました。
 
写真の選定を終え、次は記事を作成しようと、Aは文章作成ソフトを開きました。

カタカタと文字を入力していると、次第にミスタッチが多くなってきました。大して指も疲れていないのに、何度も同じ打ち間違いを繰り返すのです。しかもそれだけではなく、文字が入力される場所がランダムに飛びます。例えば、五行目の文章を作成していると、不意に一行目の端っこに文字が打たれたり、という現象が頻繁に発生するのでした。
 
「おかしいな」
 
Aは入力する際に画面をよく観察してみました。すると、ポインターが勝手に移動していました。マウスなんか何も触っていないのに、ポインターがパッ、パッ、と自動で動いていたのです。
 
Aはそれをパソコンの誤作動だと思い、再起動しようと考えました。そしてその時、自分の書いた文章を何の気なしに眺めました。その文章には、ミスタッチした文字も含まれていました。
 

『~駅前にはスーパーゆや商業施設のほかに広々とるした広場さがあり、付近になはベンチもい多く設置されゆているので、小さるなお子ささんを連れての買いな物の際にそこいで一時休憩することゆもでるきます』
 

Aはその文章をしばらく見て、あることに気付きました。常に同じ文字を誤入力しているのです。その誤入力した文字を拾うと、
 

『~駅前にはスーパーや商業施設のほかに広々とした広場があり、付近にはベンチも多く設置されているので、小さなお子さんを連れての買い物の際にそこで一時休憩することもできます』

 
ゆ・る・さ・な・い
 
Aはその文字を、知らず知らずのうちに何度も打ち込んでいたのです。
 
さすがに不気味に思ったAは作業を止めて、依頼主である不動産系webサイトの運営に連絡を入れることにしました。
 
「信じてもらえるか分かりませんが、〇〇の取材先で心霊写真を撮ってしまったかもしれません。自宅での作業中に心霊現象みたいなことが起こっていて、現在作業を中断しています。こういった場合の対処法などについて何か知りませんか? 」
 
といった内容のメールを送ると、通常ならば馬鹿にされて終わる話ですが、今までのAの真面目な仕事ぶりや人柄が考慮され、Aが冗談や納期を延ばすためにこんなメールを送るとは思えない、と運営は判断してくれたらしく、「その写真を持参して、一度こちらに来て下さい」との返信が来ました。
 
翌日。
さっそくパソコンを持って運営会社に向かったAは、社内の一室に案内されて、そこで従業員に例の写真を見せました。
その時、写真の光はまたしても変化していました。縦長だった光が、今度はほぼ球形になっていたのです。
 
「これ、昨日までは縦長だったんですよ! 撮ったばっかりの時は横長で・・・・・・、見るたびに形が変わっているんです! 」
 
Aはそう従業員に訴え、文字入力すると勝手に『ゆるさない』と何度も打つことや、ポインターが勝手に移動することも伝えました。
従業員――仮にBさんとします。BさんはAの話を笑わずに真剣な顔つきで聞き、例の写真をじっと観察していました。
 
「今、ポインターはこの位置で動いていませんよね」
 
Bさんが言う通り、ポインターは画面上でピタッと静止していました。その静止している位置は例の光の真上でした。
 
「ここに何かありますね」
 
見ると、そこには建物が写っていました。

街を囲む緑地の奥に、まばらな木々に囲まれてポツンと建っている一軒家。と言っても、普通の住宅のデザインではなく、巨大なコンクリートの塊が二段に積まれているような、そんな無骨なデザインの家でした。外壁の色はもともと白だったようですが、経年劣化で塗装が色あせて、明るい灰色のような色に変化しています。その一軒家の上に謎のオレンジ色の光が被り、さらにポインターがその家を指しているのです。
 
「ちょっと拡大してみますか」
 
Bさんはそう言うと、その家の真上に被っているポインターを動かしてどかし、写真を拡大しました。
 
拡大してその家を観察したものの、特に気になる所はなく、さらに写真を縦に横にスクロールさせてチェックしてみたものの、やはりコレといった異常は見られませんでした。
 
写真の大きさを元に戻すと、キーボードから手を放して、二人はディスプレイ上の写真をただ黙って観察しました。
 
「ん? 」
 
気付いたのは、二人同時だったそうです。
 
ポインターが、光の中にあるその一軒家の上に表示されていました。
 
Bさんは何も言わず、マウスを操作してポインターをディスプレイの左下――つまり、一軒家の正反対の位置まで移動させました。移動したポインターは、その場で小刻みに振動するとパッと消え、次の瞬間、一軒家の上に移動していました。
 
「見ましたか? 」
 
Aが聞くと、Bさんは「はい」と答え、もう一度、ポインターをどかしました。ポインターは、さっきと同じように、またも一軒家の上に勝手に移動しました。
 
「これ、やばいですね」
 
Bさんがディスプレイを直視しながら言いました。
 
「この家に何かあるんじゃないんですか? Aさんに『ゆるせない』ってメッセージを送るってことは、霊はAさんにこの家のことを伝えたいのかと――」
「だからって、俺に何をしろってんですか? 俺、お祓いとか出来ませんよ? 」
「とにかく、一度この家に行ってみません? ていうか、行かないことには、この現象はずっと続くような気がするんですが・・・・・・」
 
それはAも同意見だったため、Bさんを伴って、Aは再び、取材した新興住宅地へ向かうことにしました。
 
前回泊った時と同じ民宿にまた泊ると、Aはその民宿の従業員に、「あのコンクリの建物は何なんですか? 」と聞いてみました。従業員は、「あれは解体出来なくてほったらかしになっているだけの、ただの空き家です」と簡単に答え、詳しい説明は何もしてくれませんでした。が、次の質問をした時、その態度が豹変しました。
 
「こないだ来た時にあの建物を撮ったら心霊写真みたいなのが撮れたんで、ちょっとあの建物を探検してみようと思っているんですけど――」
 
その言葉を聞いた瞬間、従業員の表情が一気に真剣なものに変わりました。
 
「行かないで下さい」
 
従業員は力強く言い切りました。その急な変化にAもBさんも戸惑ったものの、やはりあの一軒家には何かがあるんだと気づき、今度はBさんが質問をしました。
 
「なんで行っちゃダメなんですか? 」
 
民宿の従業員は少しためらったものの、二人にあの家の曰く因縁について話してくれました。それは、次のような話でした。
 
もともとあの家には、父親と娘だけの家族が住んでいました。その娘の母親とは別居していたのですが、その原因は母親の方にありました。母親が若い愛人を作って浮気していたのです。
 
父と娘はそろそろ母親との縁を切ろうと、離婚するための手続きに取り掛かろうとしました。ちょうどそのタイミングで、不運にも父親が体調を崩し、入院する事になりました。まだ高校生だった娘は、入院の手続きや生活費の工面を一人でする必要に迫られましたが、やはり未成年の学生には難しく、仕方なく別居中の母親に頼ることになりました。
 
恩着せがましくやって来た母親と、娘の看病もむなしく、父親はしばらくして息を引き取りました。問題はそのあとに起こりました。父親の生命保険の受取人が母親の名前のままだったのです。
 
娘は、母親には受け取る資格が無いと保険会社に訴えましたが、聞き入れられず、保険金は母親が受け取ることになりました。そしてそのあと、母親は若い浮気相手の男を連れて、娘の家――あの一軒家に住みつくようになりました。
 
しばらくすると、新たな不幸が娘を襲いました。
父親の娘と名乗る人物が現れたのです。
 
その人物の言い分は、父親は籍を入れていないものの、長年自分の母親と夫婦生活を続けていた。近々、昔の女とは離婚して、自分の母親と再婚する予定だった。あなたは昔の女の娘で、父親の財産は私たち本当の家族の物で、あなたには受け取る権利はない。というものでした。
 
つまり父も母も、娘に内緒でどちらも浮気をしていたのです。
 
それ以来、その父の浮気相手の女と娘も、たびたびあの一軒家に顔を出すようになりました。その目的は明らかに、父親の遺産を乗っ取ることでした。
 
何も知らされないまま、全ての財産と父親を奪われた娘に、さらなる恐ろしい事実が発覚しました。――父親は毒殺されていたのです。入院中の父親の主治医が、父親の体調不良に不自然さを感じて遺体を調べたところ、毒物が検出されたのでした。
 
警察の捜査の結果、犯人は保険金の受取人だった母親と、その若い浮気相手でした。つまり、父親の死は、その二人による計画的な保険金殺人だったのです。
 
母親たちの逮捕の日、父の浮気相手の家族も、あの一軒家に来ていました。

逮捕に来た警官から全てを聞いた娘は茫然となり、キッチンにあった包丁で、警官の見ている前で、娘は母親と若い男を刺し殺しました。
警官たちは娘を取り押さえようとしましたが、包丁を持って暴れ狂う娘になかなか近づけず、娘はその勢いで父の浮気相手の女と娘にも襲い掛かりました。

浮気相手の女を刺し殺し、その娘に襲いかかろうとした瞬間、警察が後ろから娘を取り押さえました。が、それでもなお娘は包丁を持って暴れ、警官にも切りかかりました。思わず警官がひるんだその一瞬の隙をついて娘は警官の手を振りほどくと、
 
「よく見ろ! 」
 
と言って、持っていた包丁を自分の首に突き立てました。
 
娘は笑いながら、何度も何度も自分の首を刺し、笑いながら警官たちの目の前で死にました。娘は狂い死にしたのです。
 
唯一生き残った父の浮気相手の娘は、気味悪がってあの一軒家から出て行きました。
 
やがて、誰も住む者がいなくなったあの家を解体してほしいという声が、市に多く寄せられるようになりました。その声に応え、市が解体業者を雇い、あの家を解体することになりました。
 
作業を開始した途端、異常なことが起こりました。解体用の重機が横転したのです。それ以外にも、ダンプカーのタイヤが脱輪したり、作業者が一斉に体調不良になったり、通常では考えられない現象が頻発しました。

とりあえずその日の作業は中止になり、翌日に再開することになったのですが、その翌日にも異常なことは続きました。
 
解体作業が遅々として進まないある日の朝、業者の人が現場に来ると、あの建物の中で首を吊っている死体を発見しました。その首吊りの主は、出て行ったはずの父の浮気相手の娘でした。その娘がなぜあの家の中で首を吊っていたのかは、誰にも分かりませんでした。
 
 あの建物は呪われている。
 あの自分の首を刺して自殺した娘の霊が取り憑いている――。
 
人々はそう考え、解体作業を中止し、お祓いをして清めることにしました。
 
さっそく近くの寺院から僧侶を呼んでお祓いしてもらったのですが、その僧侶は「この建物に取り憑いている呪いの力は強く、完全に浄化することはできません。その呪いをこの建物に縛り付けておくだけで精一杯です」と言い、霊への戒めを解かないためにも、今後は誰もこの建物に入らないように、と告げ、完全な除霊は出来ないという結論をもって、あの一軒家は放置することになりました。
 
それから現在まで、あの建物の中に入った者はいないし、街の住人は誰もあそこに近づかない、だからお客さんも絶対にあの家には入らないように――というのが、民宿の従業員が話すあの家の因縁話でした。
 
AとBさんは、とりあえず「分かりました」と返事をしたものの、やはりあの家に行かなくては、自分たちの身にすでに降りかかっている心霊現象を止めることが出来ないと判断し、翌日の朝、民宿をチェックアウトしてすぐに、街の人たちにバレないようにこっそり行くことに決めました。
 
翌朝。
早朝に二人はチェックアウトを済ますと、歩いて例の一軒家に向かいました。近づいたり、中に入ったりしてはダメな建物のはずなのに、一軒家の前には「立ち入り禁止」などの看板は立っておらず、普通に、無防備にポツンと建っているだけでした。
 
 あの心霊写真の霊は、この家にある何かを自分達に伝えようとしている――。
 
そう考えていたAとBさんは、意を決してその家の玄関のドアノブに手を伸ばしました。玄関の鍵は、なぜか掛かっていませんでした。

恐る恐る中を覗くと、拍子抜けするくらい、ごく普通の家でした。殺人事件が起きたと言われているのに、壁や廊下に血の跡などは全然ありません。
 
二人は家の中に入り、ゆっくりと各部屋を見て回りました。キッチン、リビング、書斎・・・・・・何もありませんでした。
次に二階にも行ってみました。どの部屋にも荷物がほとんど無く、空っぽになっていました。
 
「何もないですね」
 
Bさんが言いました。Aも同じ感想でした。
 
 ここには何もない・・・・・・。俺たちの勘違いだったのか? 
 
二人はその家から出ると、自分達の街に帰ることにしました。
 
「心霊写真とあの家は関係なかったんですかね? 」
「何だったんですかね? 帰ったらまたあの写真を調べてみましょう」
 
BさんとAは帰りの電車の中でそう話し合い、街に戻るなり、すぐに運営会社の一室に向かいました。そしてパソコンを置いてある部屋に入った瞬間、Aの携帯電話が鳴り響きました。かけてきた相手は、Aたちが泊った民宿の従業員でした。
 
「あのー。つかぬことをお聞きしますが、もしかしてあの建物の中に入りましたか? 」
 
なんでそんなことを聞くんだ? と思いながら、Aはバレたらまずいと思い、つい嘘をついてしまいました。
 
「いえ。チェックアウトしたあと、まっすぐ帰りましたよ。あの建物で何かあったんですか? 」
「あそこのお祓いをしたお坊さんの寺の仏間に、娘の霊が現れたらしいんですよ。それで、もしかして、お客さん達があそこに入っちゃったのかな・・・・・・と思いまして」
 
Aはそのあと、さらに適当な嘘をついて従業員との電話を早々に終わらすと、Bさんに今の話を伝えました。
 
「娘の霊が寺に出た・・・・・・? 」
 
Bさんは半信半疑な顔でそう聞き返し、とにかく写真をチェックしてみよう、ということになりました。
 
Aはパソコンを開き、例の写真をクリックしました。
画像は、またも変化していました。
球形だったはずのオレンジ色の光が、人型になっていました。それは明らかに女で、しかも笑っていました。
 
「うわあ! 」
 
Aは写真を見るなり思わず悲鳴をあげ、Bさんは言葉を失っていました。
 
「Bさん、もうこれの記事、破棄しちゃっていいですか!? 」
 
さすがにBさんもこの写真と記事は使わない方が良いと判断し、この街の記事は無しということになりました。さらに、Aはパソコンのバックアップを数日前に取っていたので、その場でパソコンを初期化してしまうことにしました。その写真のデータの痕跡を全て消去してしまいたかったのです。
 
自宅に戻ったあと、Aは今後どうすればいいのか考えました。パソコンのデータを消したくらいで霊がいなくなるとは思えなかったのです。
 
 ――正直に民宿の人に話そう。そして、寺の人にお祓いしてもらおう。
 
Aはそう思い、民宿の人に電話をかけました。しかし呼び出し音にはならず、ツーツーという通話中の音が聞こえます。
Aは一旦電話を切り、十分後にもう一度かけました。が、またしても通話中でした。
早く全てを正直に打ち明けたいAは、もう一度切って、数分後にすぐまたかけ直しました。しかしそれでもやはり、耳元に聞こえて来る音は通話音でした。
 
Aは通話音を聞きながら、電話は明日するか――と考えていると、ツーツーという通話音の中に、何か別の音が混ざっていることに気付きました。始めは、ザザザザというノイズのような音に感じていました。
Aはその音を拾おうと、耳を澄ましました。
ザザザザという音は次第にクリアになっていき、甲高い高音になりました。
それは、人の声でした。
女が笑っている声でした。
けたたましく笑いながら『・・・・・・っちゃ・・・・・・め』
 
何かを早口で連呼していました。
笑い声に混じって、その言葉がだんだんとハッキリ大きくなっていきます。声のボリュームは増幅し、ついに通話音よりも狂った笑い声の方が大きくなりました。
 
『言っちゃダメよぉーっ! アハハハハハハハハ……』
 
常軌を逸した笑い声に、Aは咄嗟に携帯電話の電源を切りました。
 
 ――人間の声じゃない。
 
Aは震えながら家を飛び出し、藁にもすがる思いで近所の寺に駆け込みました。事情を話して、即お祓いしてもらい、その日はネットカフェに泊りました。
 
翌日。
Aはパソコンと携帯電話をリサイクルショップに売りに行きました。かなり安い値段しか付きませんでしたが、霊が取り憑いた物なんてさっさと手放したかったので、即決で売り飛ばしてしまったそうです。
このリサイクルショップに売ったパソコンと携帯電話は、Aが後日気になって見に行ったら、すでに誰かに買われて無くなっていました。今では、どこに流通しているのか分かりません。
 
何はともあれ。こうして、Aの元からあの娘の霊はひとまず離れました。新しいパソコンと携帯電話を購入した今は、特におかしな現象は起こらず作業を行えています。しかし、Aはその後も民宿の人に電話をかける事が出来ていません。それは、そこに電話をかけるのが怖いからです。電話をかけたらまた取り憑かれる、と今でも怯えています。Aが解き放ったあの娘の霊は、今もどこかをさまよっているはずなのです。


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