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「まさに大混乱の中で受け入れを開始」コロナ治療最前線の医師が語る神奈川の今

新型コロナウイルス患者の病床を確保するため、神奈川県は今月、集中的にコロナ患者の対応にあたる「重点医療機関」に3つの医療機関を指定しました。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船していた確定患者を受け入れ、先月までに14人の治療にあたってきた神奈川県立足柄上病院もその一つです。「自分たちの身を守りながら全力を尽くす」「(院内は)まさに大混乱の中で受け入れを開始した」コロナとの戦いの最前線にいる岩渕敬介医師に聞きました。(4月11日取材)

感染症の専門医がひとりもいない・・・

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岩渕医師:
当院は第二種感染症指定医療機関ではあっても感染症を専門にしている医師は誰もいなくて。現場はそれこそ感染症専門医の先生方はたぶんもう、なんといいますか、忙しいという言葉では片付けられないぐらいの毎日を過ごされているんではないかと思います。自分の病院全体の感染管理ですとか、あるいは地域について私たちも感染症専門医の方から、いろいろなゾーニング等々についてアドバイスを受けている。やりながらでないと私、不安でできないんで。まず専門の先生方は非常に今大変なところにいらっしゃる。誰が持っているかわからないウイルスを最前線で診なきゃいけないドクター。私たちは今まで(クルーズ船の確定患者の受け入れなど)比較的最前線に近いところにいましたけども、今度は神奈川県で軽症中等症の重点医療機関ということで入院が必要なコロナウイルスの患者さんを重点的に受けるために通常診療を抑えていく。コロナの患者さんを入れるための病棟を作って、もうまもなくそれを開始するという状況です。しかし、そこはそこで、当然自分たちの病院のシステムを変える、大きく変える、しかも感染症の専門医が1人もいない状況でアドバイスを受けながら。ナースも感染症を普段から見ているナースばかりではもちろんないので。まさにその大混乱の中で患者さんの受け入れを開始していく、と。だから受け入れながら、試行錯誤しながら、それでも職員の安全を保ちながらやっていくという非常に難しいミッションを課せられている。

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地域の先生方は、(ウイルスを)持っているか持っていないか分からない人たちを最前線で診ると。そのなかからこのわかりづらいコロナの患者さんを拾い上げて、陽性を確認して、肺炎の方がいれば一時的には診てもらって検査の結果を見てというような。自分たちの感染の危険性を冒しながら診療を続けていかなくちゃいけない。すると、どの立場のドクターであってもこの新型コロナウイルスに対していろんな側面での苦労を抱えながらやっていかなくちゃいけない。ですので、そういったところをつなぐような県とか国とかでいろいろなことを今検討してくださってはいますけども、そこをできるだけ円滑に、情報共有しながら一体となってこのコロナウイルスに対する治療、医療を維持して、できるだけ崩壊が食い止められるようにみんなで努力していかなくちゃいけないというふうに思います。

医療崩壊を食い止めるために医師会などでは「かかりつけ医で一回判断してもらいなさい」という指針が出され、一方で医療スタッフを守るマスクや防護服が足りなかったりして感染の危険を冒しながら診ざるを得ない現状があるが?

岩渕医師:
私も本当に一番心配しているのは前線の先生方ですね。ただ医療をある程度維持しないとコロナウイルス以外の患者さんが路頭に迷ってしまうことになるし、当然、今の状況ですとコロナウイルスで肺炎を起こした方も受け入れ先が見つからないという状況になっている。これは非常に難しい問題で、完全ないわゆる丸腰といいますか、防護をつけない状態で診療をすることに対する、いわゆる前線の先生方の心配、あるいは看護師さんですね、というのはこれは並々ならぬものがありますから。いかに適切に防護服を配分して、諸外国ですとそれこそ発熱や上気道症状がある方は、ニューヨークなんかはセントラルパークにテントを立てて、そこで臨時診療所なんかを開設したりしてますけど。ですから症状として疑われる方をいかに動線をわけて診療して、少しでも分けて診療した上で、分けたところにしっかりと防護具を配置するですとか。それでもやっぱり引っかからない人もいるかもしれないですけど、少しでもリスクを減らせるように何らかの方法がとられるといいかなと思います。当然ひとつひとつの医療機関の自助努力だけじゃなくて、もっと大きななにか指針というか方針が、当然今そういったことをしてくださっていると思いますけど、それがしっかりと進められるように願っています。

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院内で感染を広げないことが一番に近い重要なこと

岩渕医師:
やはり自分たちの身を守らないと、診療を提供することすらできなくなってしまう。自分たちの感染防御が崩れてしまうと、職員も減りますし、職員の士気も下がりますし、私たち一体となってコロナに立ち向かっていこうっていう意欲がそがれるし病院自体の活動が止まってしまう可能性があると。コロナウイルス自体が非常に把握しづらいウイルスでもあるので、(病院の)中で感染が起きるかもしれないし、市中での感染を職員がもらうという可能性もゼロではない。蔓延期になった場合、院内で広がってしまうことが一番怖い。

人工呼吸器が足りなくなったら・・・

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岩渕医師:
当然患者さんが中等症であっても、肺炎をおこしている患者さん、私がクルーズ船の初期で経験した、次から次へと重症化していくというような場面もやはり怖いです。そうなると当院も当然人工呼吸器を追加で発注したりしていますが、それが足りなくなったときに呼吸器自体をつけるかつけないかという選択をしなければならない。呼吸器がない、しかも転院先もないということになると次に重篤化した人の治療をすることができなくなってしまう。今まで、例えばいろんな患者さんの条件はあると思いますが、やれるだけの治療をしっかりやるということが可能な状態ではなくなるということなので。ですから現場にもおそらく疲労感が蓄積するでしょうし、様々な意味で感染が拡大してしまうことで患者さんが増えて、我々のストレスが増えて、院内感染のリスクが増えるというところがやっぱり心配ですね。

感染は違うフェーズに入ってしまった

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岩渕医師:
最初は私たちはそれこそクルーズ船という特殊な環境から患者さんをお預かりしましたので、そのクルーズ船の方々というのはご高齢であったりとか合併症、持病をお持ちであったりとか比較的一般的な方々のグループとは違いはあると思いますが、一時期、本当に一時的に、クルーズっていう特殊な状況があったので1回患者さんが来て1回おさまった時期があって。そこから今度また違う段階に入ってきて、肺炎の起き方とか患者さんの症状、あるいは治療への反応とかそこら辺に関しては少しずつ体感で「こういう感じで進んでくるかもしれない」「ここでこういうふうになるとちょっと危ないかもしれない」とかそういうことは少しわかってきている。ただ感染の拡大するスピード、あとはクルーズ船以外、たとえば若い人の発症の経過とか、あるいはこれからどうなっていくかとかに関しては全く読めないところが多い。それに対して今までとは違う知見を僕らもアンテナを張って集めていかなければいけないと思っています。できるだけいろんな情報がこれからもいろんなところで出てくると思うので、それをしっかりと把握しながら対処してい
けるようにというふうに思っています。

今後、原則、新型コロナ感染者以外の患者は受け入れられなくなり地域病院としての役割は果たせなくなる

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岩渕医師:
私たちは今はとにかく与えられたミッションですけど、そのなかで自分たちの身を守りながらもとにかく全力を尽くす。いろいろな難しさを抱えていて、患者さんに100%満足してもらえる医療が提供できるかというと、感染防御という観点上さまざまな制約が出てしまう。そこのバランスを取ることがやっぱり難しい。そんななかでも、私たちはできるだけ様々なことに注意を払いながら全力を尽くしてこの診療に当たっているので、ある程度たとえば地域の皆さんに一般診療を提供できなくなるとかそういうことに関してはちょっとご協力・ご容赦をいただきながらやっていきたい。頑張らなきゃいけない気持ちとちょっと申し訳ない気持ちが混ざったような、ただこういう状況なので自分たちのできることを自分たちの場所でやっていくと、そういう気持ちでいます。

足柄上病院は病床確保のため神奈川県が指定した、中等症患者を集中的に受け入れる重点医療機関3か所のうちのひとつ。岩渕医師らは「ダイアモンド・プリンセス」の感染者の受け入れから2か月にわたり新型コロナの治療にあたる。肺炎を発症している感染者にぜんそくの吸入薬「シクレソニド」などを使用するなどして治療方法を模索している。

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