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雨宮塔子のパリ通信#3「日本だけではない“#KuToo”」(後編)

女性へのヒール・パンプスの着用強制に反対する「#KuToo」運動。#3では前回に続き、“職場での女性の服装規定”についてとりあげます。

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#KuToo 運動を受けて、朝日新聞デジタルが去年6月に制服での接客がある業界の主な企業22社に対して、靴に関する規定などを問う取材を行った。それによると、靴の指定をとくにはしていない企業が2社あった。三越伊勢丹ホールディングスと、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)だ。後者においては「靴は個人の裁量」だと回答したそうだ。

ファッションやデザインの分野では、衣服は創造性を伝えるものでもあるから、靴の制約からも解放されているのかもしれない。でも、まったく異なる業界である三菱UFJFGが「靴は個人の裁量」だとしたのには、日本にも成熟した企業があるのだと嬉しく思った。

靴を含めた服装規定は、各自が自分の仕事を進めるにあたり、場に応じて調整するのが理想的だと思っている。例えば私の職業では、スタジオでの放送は比較的ヒールの高い靴を履いても(個人的には、高いヒールは“オン”状態に自動的にスイッチの入る必須アイテムだ。そういう意味では私にとってヒールは「性差別」にあたるというより、むしろ90年代にジャケットがパワーアイテムになったニュアンスに近い)、一方で外での取材は歩きやすく、時には走れるローヒールか、上品なフラット靴がマスト。スタジオか外かでは、化粧や服装も変える。屋外の自然光の下では化粧が濃いのは不自然だし、かといって自然災害などの突発事を除いては、化粧っ気がまったく無いのは取材対象者に失礼だったり、また充分にプロフェッショナルに見えないリスクがある。服装も、外では取材対象者や取材場所に応じてふさわしいものを選ぶのが普通だ。いずれにしても清潔感が大事で“過度の女性らしさ”、つまり性的指向に行き過ぎないように気をつけている。

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前回書いたニコラ・ソープさんのように、レセプショニスト(受付係)という顧客と対面する職務では、会社のイメージを確実に良い形で示すために、服装規定を課す企業が多いのもわからなくはないが、そこには「こうしていれば無難」といった安易な考えも潜んでいるのではないか。ましてやそこに“過度の女性らしさ”を求めれば性差別にあたるだろう。ヒール靴はとくに、人によっては身体的苦痛を伴うから、安直に規定にいれられるものではない。ソープさんはBBCのインタビューで次のように話している。

“I think dress codes should reflect society and nowadays women can be smart and formal and wear flat shoes.”
(服装規定は社会の動きを反映すべきだと思うし、今どきの女性は平らな靴を履いてもきちんとフォーマルに装うことができる)

まったく同感だ。きちんと見えるかどうかは、今どきフラットかヒール靴かで決まるものではないし、仮にフラットな靴がフォーマルには見えないとしたら、では他の要素でフォーマル度を足してみようと、今の女性はさじ加減のバランスを考えることができるから。

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“服装規定は社会の動きを反映すべき―”


ソープさんの言葉は根本匠前厚労相の「(ヒールの着用強制は)社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」という答弁と、社会を反映するという意味では一見、似通って見える。が、根本前厚労相の言う“社会通念”とは、日本社会の底にフジツボのようにいつの間にか深く根付いてしまった価値判断に拠るものではないのか、またその価値判断は今一度、見直されるべきではないのか、立ち止まって考える必要があると思う。



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雨宮塔子 TOKO AMEMIYA(フリーキャスター・エッセイスト)

’93年成城大学文芸学部卒業後、株式会社東京放送(現TBSテレビ)に入社。「どうぶつ奇想天外!」「チューボーですよ!」の初代アシスタントを務めるほか、情報番組やラジオ番組などでも活躍。’99年3月、6年間のアナウンサー生活を経てTBSを退社。単身、フランス・パリに渡り、フランス語、西洋美術史を学ぶ。’16年7月~’19年5月まで「NEWS23」(TBS)のキャスターを務める。同年9月拠点をパリに戻す。今後は執筆活動の他、現地の情報などを発信していく予定。趣味はアート鑑賞、映画鑑賞、散歩。2児の母。


【#2「日本だけではない#KuToo」(前編) はこちら】