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重症患者治療の最前線、聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター・森澤健一郎医師インタビュー(未放送分)

クルーズ船、ダイヤモンド・プリンセスの集団感染でコロナ患者の治療にあたった聖マリアンナ医科大学病院の救命救急センター(神奈川・川崎市)。現在は重症の患者だけを受け入れています。予期していなかった「疑似症」への対応、医療スタッフの使命感に頼らざるをえない体制をどう維持していくかなど問題は山積しています。コロナ専門チームの指揮をとる森澤健一郎医師に聞きました。放送に盛り込めなかった内容も含めて記します(JNNニュース4月30日放送)。

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Q.ほかの病院で受け入れを拒否された方を受け入れることはありますか

森澤医師:
幸いなことに、川崎市は市の調整本部が消防と連携をして割り振りを一定程度やっているので、そこまで「たらい回し」はないと思うが、隣接する東京都、稲城市、町田市、大和市から収容先がないので受け入れ要請は一定程度あり、可能な限り受け入れています。一方で陽性とも陰性ともつかない、まだ検査すら行っていない、でも状態が悪い方を疑似症と呼んでいるが、そういう方を引き受けて、PCRの結果がでてくるまでの1日から1日半、受け入れるという医療機関=システムが乏しいのが実情なんですね。これが、救急車の「たらい回し」につながっている可能性が高いと思います。

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Q.疑似症の受け入れの問題は関東地方共通の課題なのでしょうか

森澤医師:
そう思います。誰も手をこまねいていたわけではないので、準備はされていたんです。つまり、陽性患者が重症化して、人工呼吸やECMOが必要な方はこの病院、酸素投与までの中等症はこの病院、酸素が必要なければ自宅というシステムが作られていた。しかし、システムの裏をかくような形で、陽性が確定していない人がぐっと増えてしまった。これはみんなが予想外だったんです。いま目の前にいる重症な方が陽性なのか陰性なのか、すぐに調べるすべがない。PCR検査の結果は10分、15分で出るものではないので、結果が出るまでの間は誰かが受け入れないといけない。そこは現場の気持ちに依存しているのです。結果として、中等症をみる病院のなかで、ある程度、重症患者さんをみられるようなところ、もしくは、人工呼吸器やECMOが必要な患者さんをみるような高度医療機関が、本来の役割分担ではないけれども、引き受けてなんとか回している、そこが受け手がなかなか見つからない理由だと思います

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Q.医療スタッフへのケアは

森澤医師:
幸い現時点ではなくて、うれしいことにかつて働いてくれていた方が集まってくれて、助けてくれて、という状態。ただ、それが人の気持ちに乗っかっている状態で、システムとして存在するのではない。懐かしい顔が来てくれて「手伝うよ」と言ってくれるのはうれしいが、彼ら彼女らがここで感染をしてしまって健康を害してしまうのはいけないし、どこかで心が折れてしまいますので、それまでの間に、なんとか対応策を考えたいと思っています。当院の精神科医をはじめとして、スタッフのメンタルケア、カウンセリングをしています。地道なことではあるが、ひとつひとつできることをして、現場の人間を支えるという気持ち、素地が我々の病院にはあるので、時間は経っているがスタッフの脱落なくやっていけている。

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Q.重症患者の治療の難しさとは

森澤医師:
今、多くの治験薬や新薬がでてきています。ですが、投与を始めてすぐに回復するものではないので、そうした薬をいくつも使いながら、患者さんの状態に合わせて使う必要がありますが、特定の臓器が悪い患者さんにはこの薬を使えないとか、この薬を使っている時はこの薬を使えないとか、しばりがあって調整をしながら使っています。

医療崩壊はすなわち、需要と供給のバランスが崩れてしまったということになります。通常、我々がみている患者さん以上の数が来れば受け止めきれなくなります。今まさに、そのときだと思います。
というのは、ちょうど今、重症化して、我々のところで入院をしなければならない方はだいたい2週間ほど前に、感染をしてしまう環境にあった方です。いま、外出を自粛であるとか社会をあげた動きがあって、これが功を奏して、2週間後、1ヶ月後というのは少し光が見えるのかも入れない。ただ、今このときも、社会のなかでみんなが同じことをしているのであれば、それは1ヶ月も同じでしょうし、その積み重なっていく、増えている患者を受け入れることは僕らはできないと思います。

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搬送を受け入れる受け皿が無いということ、人工呼吸器の台数が足りなくて受け入れられない、ECMOの台数も限界がある、受け皿が無い、重症度にあわせて治療をしてあげたい、受け入れてあげたいけど、対応できないことが起きてしまう。つらいことだが、悲しいことだが、人工呼吸器を使わないという選択、ECMOを使わない選択、それを考えなければいけないのが、決して遠くない未来にあると思います。

医療資源を使い切った先には、患者に十分な医療、平時であれば提供できたはずの医療が提供できないことが起こります。どうすればいいのか、という質問に我々は答えを持っていません。言えることは、できることは最大の努力を継続する。ただ、限界に来たときに、患者さんや家族にどう伝えるか、その方法すら持っていないのが現状です。

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Q.医師の感染リスクは

森澤医師:
初期のころは患者さんに対応する時に徹底すれば大丈夫だと思っていたが、どこに感染経路があるか分かりませんから、自分たちが病院の外で行う社会生活でどこまで防ぐことができるか。1人が院内にウイルスを持ち込んでしまえれば、崩壊してしまいますから、そちらの方を気にしています。

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Q.社会全体でみると「3密」が守られていない場所もあります

森澤医師:
なかなか人それぞれの考えがありますし、そうも言っていられない理由、できない理由があるのだと思います。ずっと家にいろといわれても、こういった理由があって難しい、できない。だからこそ、外出の自粛は徹底はされないのだと思います。ただ、僕らがやらなければいけないのは、できない理由を探すよりかは、できるための方法を探すことなので、みんなが同じ方向をみて、気持ちを持てれば時間はかかると思いますが、このウイルスに勝てるのではないかなと思います。

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休憩室のホワイトボードには患者の家族からの手紙。「自分たちがやらなければいけないことを自覚させてくれるものです」

Q.それぞれできることがある

森澤医師:
新型コロナ感染症は病気なんです。医学者や医療者が、戦うものかもしれませんが、実はそうではなくて、社会全体で戦わなければいけない対象なんです。これは、外出するしないもそうですが、自分が今これからやろうとしている行動が、自分が社会の中で、担っている、歯車としての立場として自分の行動がどんなことにつながるのかを考えて行動をしてもらいたいと思います。もう少し言葉を補足するならば、報道の方々がやるべき行動があり、家に居ることが事実上できない立場の方が振る舞う方法があって、頑張れば自宅に待機できる方が行動すべき内容があって、それは、ご高齢の方も子どもさんも10代の方も30代の方も、それぞれできることがあって、それを探す、考えるということなんでしょう。我々医療者がやる事は当然治療の分野です。そこで最大限の治療活動をしていきますから。同じように皆さんも自分の立場で最大限のことをしてみてください。

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取材:赤川 史帆 カメラマン

取材後記

「自分がやるべきことをどれだけ出来ているのか?」森澤医師のインタビューを撮影しながら、浮かんだ想いが今も心に残っています。
私が報道カメラの仕事で大切にしてきたのは、取材現場に立ち、自分自身が、「見たり」「聞いたり」「感じたり」したことを、映像と音声に反映して記録し、残すことです。しかし、新型コロナウイルスの蔓延によって、私たちの映像取材は、大きく様変わりしました。感染拡大リスクの懸念から、インターネット経由の会見・インタビュー取材が増え、現場に行けないことも少なくありません。そのために、新型コロナの現場でいま何が起きているのか、見えにくくなっていると感じることもあります。

赤エリア

今回の取材でも、私たちが撮影できたのは、コロナ治療の最前線であるICUの手前まで。わずか3m先にある「赤エリア」と書かれた扉の先がどういう状況か、自分自身の目で見ることはできませんでした。そこで私たちは、扉のその先 、ICUの中にいる森澤医師と電話でコミュニケーションを取りながら、医師の目線で「赤エリア」をスマホで撮影してもらうという新たな取材方法を取りました。
新型コロナの影響で様々なことが制限される中、どうにか現場を「見て」「聞いて」「感じる」ことができないか。今までにない取材方法を模索し、
現場で起きていることを伝え続ける努力をすることが、報道カメラに求められているのではないかと考えています。今回の取材が、皆さんの「目」や「耳」の代わりとなり、コロナから命を守る現場で戦う人々の姿を想像する一助になることを願っています。

プロフィール

2009年TBS入社。報道カメラ、「Nスタ」ディレクター、厚生労働省担当記者を経て2014年にニューヨーク支局にカメラマンとして赴任。「トランプ大統領誕生」や「アメリカで進む社会の分断」、「人種差別」などの現場を取材。現在は報道カメラデスク。趣味は、釣りと野球、美味しいものを食べること。お酒少々。

【放送されたVTRはこちら】