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「妊婦健診を遠隔で」最前線で戦う産婦人科医・亀井良政教授が語る課題

妊婦と医療従事者、双方を新型コロナウイルスの感染リスクから守るために注目されているのが「遠隔診療」です。埼玉医科大学病院産婦人科の亀井良政(かめい・よしまさ)教授は妊婦検診を遠隔で行う実証実験を行っています。オンラインで現状を聞きました。(取材:4月27日)

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(写真:亀井良政教授)

◆妊婦と赤ちゃんのための遠隔医療システム「melody i」とは?

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(写真:melody i)

胎児の心拍などを図ることが出来る遠隔医療システムが注目を浴びていますがいったいどんなものなんでしょうか。

亀井教授:
メロディインターナショナルという香川県のベンチャーが立ち上げた会社のシステムで、リモートでワイヤレスで胎児の心拍と子宮の収縮の程度をリアルタイムで送信できます。ですから、在宅であっても、たとえ離島であっても、リアルタイムで胎児の状態を客観的に心拍で評価できるというシステムになっています。

遠隔診療は妊婦の感染リスク低減にもつながるといいます。

亀井教授:
そうですね。特にこういう時期になかなか妊産婦が皆さん怖がって病院には来られませんから、そういった際に自宅で胎児の状態を自分でも音を確認できますし、我々の方も胎児の状態を客観的に評価することができるので、非常に有用なツールだと思っています。

自宅にいながら妊婦検診を受けることができるこのシステム。亀井教授は、今後の新型コロナウイルスの感染拡大に備えて、違うシステムの使い方も考えています。

亀井教授:
都内も含めて、我々の施設もどんどんコロナ用の患者さんの病床が増えてきている状況で、いつ新型コロナウイルス陽性の妊産婦、あるいは陽性疑いの強い妊産婦が来るかわからないので、そのためのベッドは別途用意したんですね。ただ、そういった場合に通常我々が使っている配線が接続された形の胎児心拍を確認するためのモニター自体はなかなか持ち運びができない。そのため、「melody i」の1台をそういった妊産婦さん専用に隔離した部屋でつけられるようなシステムにできないかなと考えています。

妊婦の自宅だけでなく、病院内でも応用が可能になります。

亀井教授:
(病院内での利用も)非常に有用だと思いますね。実際に今も試験的に入院している患者さんに使わせてもらっているんですけれども、かなり確実に心拍を拾えるし、患者さん自身が自分でつけてくれるので、それでほぼ100%データがとれるのも確認しましたから。いざ、新型コロナで入院される患者さんがおられても、有用だと思います。

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(写真:melody i を使用する妊婦 )

◆新型コロナウイルス感染拡大で注目を浴びる“遠隔診療の課題”

場所にとらわれることなく、診療や検診が行える遠隔診療ですが、課題もあります。「診療報酬を得られるような仕組みがまだできていない」と亀井教授は指摘します。

亀井教授:
産婦人科関係でいわゆる遠隔医療、オンライン診療と呼ばれているもので、保険収載されているものがないんですね。通常ですと、配線などで接続された形の胎児心拍陣痛図のモニターに関しては適用があればちゃんと保険収載されている。今回のメロディさんのような遠隔の自宅でモニターをつけてくださっても、我々病院側、医療側には全く収益がないので。完全な持ち出しになるので。そこが広まらない理由かなと。

いろいろな形で保険収載にむけていろいろ動かなければいけない。その収載にむけての基礎的なデータは出さなくてはいけないので、それが今回我々のそもそもの実証研究の理由です。それはおそらく2年3年かかるのかな
と。

亀井教授:
なかなか一般の施設で購入するということは、難しいときもありますかね。1台あんなに小さな機械ですけど、やっぱり120、130万円くらいですか、しますから。それが今回約30台を全国の医療機関に無料配布をしてメロディさん(メーカー)のご厚意で貸してもらっている、それも相当な支出ですよね。

亀井教授:
全科的に皆さん、保険収載してもらいたい項目はどの科もあると思うんですね。
こういった状況なので、コロナ関係になってはくるんですけど、なかなか財政も大変でしょうから、どこを優先するのか、政府の考え1つかなと。

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(写真:melody i を使用する妊婦 )


◆双方にリスクの高い“無症状妊婦の受け入れ”

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(写真はイメージ)

亀井教授が勤務する埼玉医科大学病院は埼玉県西部の医療を担う指定医療機関です。亀井教授は「新型コロナウイルスに感染している妊婦を受け入れる」ことを想定して準備を進めていると話します。

亀井教授:
つい最近のニューヨークの報告では、200人あまりの妊産婦さんをみたデータだと、呼吸器の症状がある人はほぼ100%陽性で、全く症状がない妊婦さんでも1割は(新型コロナウイルス)引っかかるんですね。要するに無症状の陽性妊産婦がいるということです。
そうなった場合、我々全く無防備の状態で患者さんをお受けしていると、院内感染が広まってしまう心配はありますので、今は我々が考えているのは、今後入院してくださる患者さん・産婦さんも含めて、水際でPCR検査なりさせて頂いて、陽性なのかどうか、なるべく速やかに判断をした上で対応していきたいと考えています。結果が出るまでは、基本「陽性扱い」で対応させてもらうというようなことで準備を進めています。

ただ、この動き自体はすでにほかの施設とか、県によっては、自治体に全てやっていただいているところもあるようですから、決して我々の施設が早いわけではありません。対応としては適切な方向に向かいつつはある。ただ、その場合の費用を誰が負担するのかという問題はありますね。今のところは今後病院としては、入院して頂く患者さん・手術の患者さんには病院負担という形で対応することも可能ではないかなという話はでていますが、まだ結論はでていません。

亀井教授:
先週も、日本産婦人科学会の集会がありまして、国立国際医療研究センターの大曲医師が我々に講演をしてくれたんです。その中でおそらく20代・30代・あるいは40代前半まで入れてもいいかもしれませんが、そういった若い方の場合はあまり重症化しないということが1つ。それから感染をしても8割はほとんど軽い症状で終わってしまう。のこり2割くらいしか症状がでてこない。おそらく妊婦さんもほとんどはそうなんじゃないかと思っていますので、基本的に今回のPCR検査を全ての妊産婦さんにやらせて頂きたい、妊婦さんそのものリスクもありますけれども、むしろ我々医療者側の院内の感染を防止したいということが主な目的ではないかなと僕はとらえています。この病院で院内感染が広がってしまう、閉鎖になるとたぶん、埼玉県の西半分はつぶれるんですね。(患者さんの)送り先がなくなりますから。そういった事態だけは避けたいと思っていますので、なんとか感染が広まらないように、水際でとめたいというのが我々の希望です。なるべくそういったことが起きないような対策は、もちろん我々自身もマスクをしたり、ゴーグルをしたり、ガウンを付けたりということで、最大限努力はしていますけれども、やはり(PCR検査の)陽性陰性の可能性に関しては、はっきりとしてから、対応させてもらえれば、ありがたい。

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(写真はイメージ)


◆「里帰り出産」の対応策は?

亀井教授:
多くの病院では里帰り出産をお受けするのはかまわないけれども、里帰りする前2週間、里帰り先でご自宅でいて下さいというお願いをしているとことが多いようですね。そういう対策をできればどこでも可能だと思いますし、あとはまあ搬送元ですね、来られた病院で特に問題がないのであれば移動のリスクを考えれば安全なんでしょうけど、いろいろ個人個人で妊婦さんのほうで事情もあるでしょうから、我々決して全く受け入れないというつもりもない。必要があれば仕方がない。ただし、まあ最大限感染のリスクを下げるために自宅にいて頂く、あるいはうちの施設のように来て頂いた段階でPCRの検査をさせて頂きますというようなことは話すと思います。

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(写真はイメージ)

◆「もちろん逃げない」 最前線で戦う医師の心境

亀井教授:
もともと皆、産婦人科に勤務する人間、全科的にそうでしょうけど、みな一生懸命助けたいと思って病院に来るんですけど、やっぱり今回ほどやはり無症状の妊婦さんが結構おられるのがわかってきて以来、我々産婦人科、皆おびえるようになりましたね。今回ほど病院になるべくいきたくないなって思うことはあまりないですね。それぐらい怖いと思っています。

だからなるべくはっきりと陽性・陰性をはっきりさせてその上で自らの身を守ることも最大限して、対応していくしかない。もちろん、我々逃げません。戦いますから。


【取材後記

私が今回取材を始めたきっかけは、4月に「フェムテック=女性の生活を豊かにするための技術」を放送したことでした。フェムテックとは、女性=Female と技術=Technologyを組み合わせた造語で、不妊治療、更年期障害など女性の体をめぐる悩みを解決するために様々な商品が開発されていることを知りました。市場規模は2025年に5兆円とも言われ、今後世界的に多くの需要が見込まれる分野です。今回、産婦人科の現場で活用されていた胎児の心拍を図る機械、melody iもフェムテック取材の過程で知りました。

亀井先生には新型コロナウイルス対策でひっ迫している周産期の最前線から取材に応じていただきました。逃げません、戦いますからー技術が医療の選択肢を増やしていく中、試行錯誤を重ね、現場で戦う亀井教授のメッセージが深く印象に残りました。

【フェムテックに関する動画はこちら】


小森谷さん顔

小森谷 槙  記者

1996年生まれ、神奈川県湯河原町出身。学生時代は大学で化学工学を専攻。今でも科学全般が好きで、最新技術や科学、ITなどをこれからも取材していけたらと思っています。


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