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2020年10月の音楽(とか)のこと

10月17日、ROTH BART BARONの野外ライブ「THE CAMPFIRE」へ。7ヶ月ぶりの生演奏のコンサートがROTH BART BARON!しかもPALACEのLive Produce Team主催のイベント!開催が発表されてから毎日楽しみでしかたなかった。何といっても前回、PALACE Live Produce Teamが初めて企画した多摩六都科学館プラネタリウムでの公演は、今でも生涯ベストの一つとして心に焼き付いている。

いや、本当にすごかったんだよ!!

実はYou Tubeにもひっそりとアップされているので、未聴の方はぜひ。私は今でも定期的に見ています。

THE CAMPFIREのコンセプトは「星空の下で火を囲み、ロットの音楽に包まれる」。早い時間から外でゆるっと始めて、2ステージ制、だんだん日が落ちてくるのをキャンプファイヤーと共に楽しむというタイムテーブル。

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東京の最果て秋川渓谷の山奥の会場も素晴らしいロケーションで、思いがけずフジロックの"あの"感じを感じられて最高でした。一日中雨だったからかな。

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ロットのステージの前に行われた岡田拓郎のソロアンビエントセットは雨と共演するようなスピリチュアルなステージだった。岡田拓郎にしてはけっこうサービス精神あるフレーズが多かったように思う。中盤あたりちょっと盛り上がってきたかなというところで、遠くからエコーが聴こえてくるようなエフェクトに切り替えたところが抜群に気持ちよくとても印象に残っている。

ロットの1st ステージは『小さな巨人』から。久しぶりの音のデカさにただただ感動する!!毛穴から身体が喜んでいる!!続くは『Homecoming』と音のデカさが気持ちいい序盤に映えるタイプの曲を持ってきて完璧な開幕。

そう、PALACEのメンバーのプロデュースする公演はセットリストも言わばファンが基本的には考えているので、コンセプチュアルであり、聴きこんだファンらしいちょっと遊びの効いた面白いセットリストが聴けるのです。この日も期待以上、完璧なセットリストだったなー。

開始2曲に続いて『盆ダンス』や『Metropolis』と私はライブで初めて聴くような過去曲ゾーンもあり、山場は2部に残しておきつつ、1曲1曲、皆での再会を喜ぶように丁寧に演奏する姿が感動的な1stステージだった。そんな1部で一番染みた曲は『ATOM』です。れっきとしたリード曲だけど、この日みたいに中盤くらいでゆるっとやるのが、実は曲に合っている気がして好きです。グロッケンの響きによってじわじわと祝祭の波が広がっていくのが、美しかった。

やはり本当の山場は日が落ちて炎がみるみる存在感を増していく2nd ステージ。

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1部が終わって、友達と「最後『fireman』だったねー。『Campfire』も『Skiffle Song』も『焔』も『炎』も今日炎関係全部やるでしょー」と話していたら、三船さんがおもむろにバンジョーを構えてこの日のテーマ「Campfire」から2部スタート、間髪入れず『Skiffle Song』が来て『焔』が来て (これは次は『炎』!?) と期待しましたが、『春と灰』。この日ついぞ『炎』が演奏されることはありませんでした。あそこまで行ったら絶対最初は『炎』セットリストに入ってた、入れずにはいられないと思うんだけどな。バンド側で何かしらの事情があったと推測しています。

この日のハイライトはここから『Speak Silence』→『ウォーデンクリフのささやき』→『BLUE FALL』→『氷河期#2 -Monster-』→『化け物山と合唱団』と続くブロック。

ここ数年定期的にライブを観ていますが、別格でした。

『Speak Silence』は去年のプラネタリウムの時とかから、ロットの楽曲群の中では珍しい溜めたリズム、細やかなフレーズのドラミングや、岡田拓郎の鮮烈なギター(サビで音源ではベースが担っているフレーズをガンガン弾く!!)が観るたびに化けていっていて、非常にライブ映えするライブで欠かせない曲。この日は新ドラマーの工藤さんの持ち味が炸裂していて、さらにネクストステージへと進化を遂げていた。『NEVER FORGET』を最初に聴いた時から思っていましたが、工藤さんはしなやかなドラミングが最高に上手い。

続く『ウォーデンクリフのささやき』→『BLUE FALL」で完全に涙腺が決壊する。この2曲がMVPです。『Speak Silence』の流れを継いだ、しなやかで優しい最高の演奏だった。ウォーデンクリフ、前回のツアーで確か演ってなくて、こんなにライブ映えする曲だと思わなかったんだけどなー。去年アルバムが出たときも言いましたが、"誰にも気づかれることなく 生きることなんてできやしないよ"というフレーズが本当に好き。

もう細かいところは忘れてしまいましたが、今年の春、前のクラウドファンディング出資者だったかそのくらいの範囲の人たちに新曲としてダウンロードコードが配られた『BLUE FALL』。ロットでは珍しくアシッドでちょっと危ういくらい儚げな曲。楽しみな出来事が一斉に立ち消え、先行きが全く分からなかった春、日々の支えの一つであった三船さんの自宅生配信弾き語りでこの曲が歌われた日を思い出してさめざめと泣いてしまった。

前回のプラネタリウムに続いてあまりにスペシャルなライブ体験を演出していただいたPALACEのライブプロデュースチームの方々への感謝と尊敬は尽きない。次も楽しみにしていようと思う。


このライブの数日前にはフライングでニューアルバム「極彩色の祝祭」の配信が開始されていたんだった。

時間的な断絶や繋がりを歌ったアルバムだと思う。自分の中で新作はちょうど5曲目くらい(レコードでいうA/B面)を境にスパッとイメージが分かれていて、どちらかというとこれまでのロットからの継続路線的なニュアンスがあるA面、プロダクションが分かりやすく変わったB面という認識を持っている。

例えば、『ひかりの螺旋』はリリック、アレンジからして「けものたちの名前」にすんなり収まりそうな曲だし、『dEsTroY』はロットの十八番みたいなスタイルの曲。(『dEsTroY』とか『MΣ』みたいな曲、飽きる気がしないのでこれからもずっと作って欲しい。結局新作で一番好きなのも『dEsTroY』かも。)

対してB面。バンドのアレンジ、演奏面の変化は制作時からこのアルバムの核だったという『NEVER FORGET』を中心に顕著だ。

『NEVER FORGET』が主にリズム面ならば、『000Big Bird000』、『BURNHOUSE』、『ヨVE』の3曲はいずれもギターワークがこれまでのロットからするととても違和感があって面白かった。ギターリフが前面に出てくるような曲ってこれまでほとんどないように思うんだけど、この3曲でループを意識させて流れを作ってからのインパクト抜群の仕掛けがあって『NEVER FORGET』という流れが息つく暇もなくて目が覚めるほど興奮してしまう!!

小話ですが『BURNHOUSE』みたいな曲、しょっちゅう聴いている気がするんですが、一向にこれ!というのが思い出せなくてモヤっとしています。

もう一つ小話ですが、今回のアルバムっぽい曲って過去曲であんまりない気がするんですが、『dying for』はけっこうそれっぽい曲だなと思っています。歌詞までそれっぽくて面白い。最後のフレーズ "僕らはずっと踊り続けていよう"。いい曲だ。

さらにもう一つ小話ですが、最高峰すぎて比べるのもいささかしんどい上であえて比べると、前作「けものたちの名前」の方が実は好きです。半年延期になって、アルバム発売からは1年越しとなった「けものたちの名前」ツアーファイナル めぐろパーシモンホール、本当に本当に楽しみです。


10月はROTH BART BARON以外にも、数多くの名作に出会えて充実していた。最も夢中になったのは、Silent River Runs Deep (以下SRRD) というディスクユニオンが2018年に興したレーベルの諸作品で、現在カタログは4枚しかないのだけど、その全てのレコードが私が今まさに求めていたオブスキュアで室内楽的な質感を携えている。Mono Fontana「Ciruelo」は去年SRRDからアナログ化されたときに聴いていて存在は知っていたんだけど、その時はレーベル気にしてなかったんだよな。

このタイミングでSRRDを意識するきっかけとなったのは武田吉晴が2018年に出した1stアルバム「Aspiration」のLP化。ディスクユニオンで面出ししているのが気になって、家に帰って試聴してみたらあまりに気に入りすぎて即LPを買った。

音響空間の作りこみが好きすぎる。クラリネットやオルガンが演出するオブスキュアな空間を、解像度の高いピアノやパーカッションが切り裂いていくようなアンサンブルの組上げ方に感動しっぱなし。


これとMono Fonatana以外にはEdson Nataleというブラジルの音楽家が90年に残した「Nina Maika」という作品のリイシューと、濱瀬元彦というコンテンポラリー/アンビエント ミュージック畑の作家の88年作「樹木の音階」の初LP化された作品がある。

Edson Nataleの方も信じられないくらい良かったので、我慢できずLPを注文してしまった。開放感のあるギターが本当にいいんですよねー。DJ人気が高いらしい曲もあったりして、SRRDの4枚のカタログの中で多くの人はこれが一番聴きやすいと思う。



Mono Fontana「Ciruelo」も今聴き返してみると、去年聴いた時より数段しっくりくるようになっている。「Cirurelo」は1stアルバムですが、2ndアルバム「Cribas」をそのまま冠したフォルクローレ/ジャズバンド CribasのピアニストJuan Fermin Ferrarisのソロアルバム「35 Mm」は「Ciruelo」と多くの要素を共有していることに気付く。(内容がややこしいな??)

去年の作品ですが今年2ヶ月おきくらいに紹介している気がする。それだけ大好きな音楽です。Cribas本体より好き。今年の私の気分を決定づけた作品と言っても過言ではないかもしれない。

室内楽というかジャズというかその辺の境目に位置する音楽への興味が止まらない。Andrew Wasylykというスコットランドの作家の新作もよく聴いていた。多彩な楽器が入れ代わり立ち代わり主役をとって、時にはキャッチーな曲展開を見せながらも、静謐でアンビエント的なニュアンスを常に持ち合わせているのがよく分かるアンサンブル。これは巧みだなと思った。


新譜ではSSW作品も充実していたように思う。The Natinal印のドラムがあまり鳴らないところでMatt Berningerの歌を聴くのもそれはそれですごく良かったし、これまで何故かあんまり刺さらなかったAdrianne Lenker・Big Thief周りでしたが、Adrianne Lenkerの新作は好きでよく聴いています。

そんな中、特に面白かったのはSam Amidonの新作で、トラッドなフォークソングと現代的なプロダクションの融合というところでみて、非常に面白いバランス感覚の作品だと思います。平たく言ってロック畑の人らがどれだけ最新鋭のプロダクションを取り入れるかみたいな話はちょっとあんまり乗れない内容に行き着くことが多くて、ROTH BART BARONの新作出たときの感想みていても違和感を感じるようなものもあったんですが、それこそSam Amidonは今ロットとかなり近しいことをやろうとしているんじゃないかとも思います。あとヴォーカルがアーサー・ラッセルに似すぎているのも最高です。


今月のレコードは2枚。1枚目は J.Jasmine名義でも活動しているマルチパフォーマー/シンガーのJacqueline Humbertと実験音楽家David Rosenboomの共作作品のリイシュー版。ソフトロックとかけっこうメインストリーム寄りの往年のピアノ系SSW的な曲がベースですが、再生環境にバグが起こったかと思うような強烈なエクスペリメンタル展開が突如ぶち込まれるのが、面白いです。一見破綻してるようでも、相当展開が練られていて、音響感覚も素晴らしい結果、実際は破綻していない、聴いていて気持ちいいのがすごいですね。


もう一枚はMarcia Marie RhoadsというSSWの自主制作盤。

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ここまでネットに情報のないガチガチの自主制作盤は久しぶりに買いましたね。ジョニ・ミッチェル直系(ジョニ・ミッチェルとジュディ・シルの中間くらい?一番近いのはローラ・マーリングかな?)のボーカルの超正統派SSWアルバムです。もうこういうのは狭い狭い愛好家用ですね。別にSSW、クラシックフォーク作品の中でこれにこだわる必要は全くないし知らなくて損しているということも断じてないですが、それでもこれは相当にいいですよー。「The Valley and the Mountain」というタイトル通り、どことなく高地っぽさを感じるのが効いている。「SOMEWHERE OVER THE RAINBOW」をカバーしていたり、クレジットによると "appreciated friends" にコーラスさせている曲があったりなんだか可愛い。こういうレコードに出会うと心が豊かになった気がします。永く大事にしようと思う。


三体Ⅱを読了。最っ高に面白かったなー。


赤い公園の津野米咲さんが死去。今でもふと思い出すたびにとても悲しい。ただのファンでこれならば、家族やメンバー、スタッフ、友人、より近しい人ならどれほどか。すでにメディアにコメントを出してくれたメンバー、本当にすごいと思う。

津野さん書いた曲、好きなものが山ほどあるな。特に佐藤千秋さんとのタッグは奇跡だと思っている。

透明、血の巡り、交信、体温計、贅沢、NOW ON AIR、いちご、風が知ってる、カメレオンと書きだせばキリがない。

中でも津野さん自身が所信表明のような曲と当時よくコメントしていた『KOIKI』。

どこまでも繊細で優しく、可愛らしい世界を描いた作家、詩人。どうか安らかに。

どうぞお気軽にコメント等くださいね。