見出し画像

そろそろ”医療の正義”の話をしよう⑧

信念はいらない。まず、命を救え。

 これは、アフガニスタンで1600もの井戸を掘り、2019年に凶弾に倒れた、私が尊敬する中村哲医師の言葉です。一見過激に感じられますが、私が医者として心の支えとしている言葉です。中村先生の言葉をお借りして、少し真意を読み解いてみたいと思います。

 「信念はいらない」について。「自分が出て行けば何とかなるのではという状況の時に、そこで引き下がるかの問題で、引き下がらなかったものですから続いてきたのが実際で、別に私に立派な思想があったわけではないのです。」「『セロ弾きのゴーシュ』という宮沢賢治の童話があります。セロが下手だから練習しろと言われたゴーシュが、一生懸命練習していると狸が来たり、野ねずみが来たりして、『子供を治してくれ』だの雑用をつくるわけです。『この大事な時に』と思うけれど、『ちょっとやらんといかんかな』とそれに応えるうちにセロが上手になっていくのです。それに近いでしょうね。」
 困っている人が目の前にいて、自分が出て行けばなにかできそうだと思うとき、「自分にとって大事な時期だから今は面倒だな」と思ってもそこで出て行くかどうか、それだけだ。特別に立派な意思や思想が必要なわけではない。という意味が「信念はいらない」という言葉に込められているのだと思います。

  次に、「まず、命を救え」についても中村先生の言葉をお借りします。「多少は人の身になって考え、仕方がねえなと思いながらも、なんかちょっとでもいいからこうやったらいいのだろうなという気持ちがあるかないかでずいぶん違うのではないかと思います。」「ある事情におかれた時に、こうしてあげたらこの人達にいいのではなかろうかと温かい気持ちをもつ、それが大事ではないかと思いますね。」
 「まず命を救え」には、人に対して温かい気持ちを持つことが大切だ、医者であればどのような環境に置かれていても命を助けてあげたいと思うことが大切だという気持ちが込められているのだと思います。

画像1

 中村先生は、「遭遇する全ての状況が、天から人への問いかけである。それに対する応答の連続が、即ち私たちの人生そのものである。」ともおっしゃっています。私にとって人生の意味を考える上で最も納得できる言葉です。

 実は、「信念はいらない。まず、命を救え」は、2022年9月10-11日に開催される第6回日本在宅救急医学会学術集会のメインテーマとさせて頂きました。ご興味を持っていただけましたら、是非、水戸にお越しください。

参考文献:
中村哲 著
わたしは「セロ弾きのゴーシュ」NHK出版2021年発行
医者よ、信念はいらない。まず、命を救え!羊土社 2003年発行

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?