日本に足らないのは「公約を守る」という「常識」
こんにちわこんばんわ。
全ての増税に反対し、全ての減税に賛成する自由人、七篠ひとり(@w4rZ1NTzltBKRwQ)です。
今日はこちらのポストから。
イギリスで来月に行われる総選挙に向けて、
与党の保守党が3兆4000億円規模の減税や福祉分野の歳出の削減を含む公約を発表した
というのがこちらのニュースです。
一方で、対する野党の労働党の公約も発表されて
その内容は
私立学校への課税や大手エネルギー企業への臨時税を導入しながら、グリーン投資や国営医療サービス事業の運営拡大、学校朝食プログラムへの補助などを行う
といったいかにも左派らしい選挙公約となっています。
さて、今日言いたいのはこれらの公約のどちらが良いかという話ではありません。
知ってほしいのは他国の「公約に対する姿勢」についてです。
日本でも選挙のたびに各党が選挙公約を出します。
でもそれらの公約に対し、財源などを踏まえた実現性や問題点を分析したレポートを目にしたことはあるでしょうか?
私はありません。
おそらく皆さんも同じでしょう。
しかし他国にはそれが当たり前のようにあります。
今回のイギリスにおいても、二大政党である保守党と労働党の公約が出揃ったということで、早くもそれに対するレポートが税制と公共政策を専門とするシンクタンクである「財政研究所」から上がっています。
せっかくですので両党の公約の分析を触りの部分だけ翻訳してご紹介しますが、とても長いので興味の無い方は最後まで飛ばしてもらっても結構です。
でも最後に言いたいことを書いてますので、そこだけは読んでください笑
保守党の公約について
保守党は年間約170億ポンドの減税と防衛費の大幅増額を約束している。
その財源は、福祉予算の120億ポンド削減、脱税の取り締まり、公務員削減、そして「準政府機関の効率化」による数十億ドルの削減で賄うとされているが、それらは不確実で具体性に欠ける削減案だ。
もちろんこれが懐疑的な見方であることは重々承知している。
2015年のマニフェストにおける「福祉支出を120億ポンド削減する」という約束についても、当時の私は同様に懐疑的だった。
しかしそれは公約で約束した時期よりも2年遅かったとはいえ、それはおおむね達成された。
だが今回は前回とは違う。
医療関連の給付の支出は膨れ上がっており、障害者給付の新規請求件数は2019年と比べて毎月倍増している。
だからこそ福祉予算の削減が取り組むべき課題とするのは正しい。
問題は、そのために示された政策が年間120億ポンドの削減という課題に見合っていないことだ。
いくつかはすでに発表され、公式の財政予測に含まれているが、それらの政策は保守党が主張する時間枠では実現できそうにない。
障害者手当への支出が急増しているので、単に「障害者手当を改革」して支出を抑えればよいと考えているようだが、障害者手当の申請数を現在のレベルから半減させるのは容易ではなく、難しい決断が必要となるだろう。
しかし肝心のそれが明言されていない。
一方で、国民保険料の主要税率をさらに2パーセント引き下げる減税が公約されている。
これにより平均年収が約35,000ポンド(700万円)の人の場合、年間約450ポンド(約10万円)の減税となるが、これには100億ポンド以上の財源を要する。
また所得税と国民保険料のしきい値凍結の継続で、150ポンドの増税状態にあることも忘れてはならない。
さらに自営業者の国民保険料の主要税率を完全に廃止するという公約は、自営業者には間違いなく歓迎されるだろうが、雇用されるより自営業の方が税制面で有利な状況をさらに強化することになる。
そしてマニフェストで明らかにされてない最大の問題は、公共サービスへの支出の100億~200億ポンドの削減をどこから行うのかに触れていない点だ。
マニフェストで言及されている公務員数を減らすことによる数十億ポンドの削減分は、追加の防衛費に充てられることになっている。
したがってこのマニフェストは、中核的な公共サービスが直面しているより広範な問題については何も語っていない。
これらの計画は3月に発表された予算案よりももさらに厳しい指摘を受けるだろう。
労働党の公約について
労働党の公約は大きな数字を求める人たちのためのマニフェストではない。
約束された公共サービス支出の増加はごくわずかで、取るに足らないものだからだ。
増税はさらに取るに足らないものだ。
最も大きな約束は、大いに自慢されている年間50億ポンドの「クリーンエネルギー政策」で、その財源は借金と石油・ガス大手への臨時税で賄われる。
それ以外にも労働党は、子供の貧困、ホームレス、高等教育の資金、社会福祉、地方自治体の財政、年金などの根深い問題を指摘しているにもかかわらず、支出に関する明確な約束はほとんどない。
借金は増やさない。
勤労者への増税はしない。
所得税、国民保険、付加価値税、法人税の税率を上げない。
こうした約束も一切書かれていないのだ。
他にも国民医療サービスも公約に挙げられている。
労働党は、公共医療に関して18週間を超える待機期間の解消や病院の増設を公約しているが、それにも多額の支出も必要となる。
これらすべてが労働党に問題を残すことになるだろう。
特に「クリーンエネルギー政策」ではその資金調達のために5年間で175億ポンドの追加借入れを行うことになるが、労働党が署名した財政ルールの範囲内ではその支出を行う余地は文字通りない。
そしてその財政ルールには、投資支出や公共サービスへの支出の削減が含まれている。
しかし、労働党党首は公共サービスの支出削減を事実上否定した。
それをどう帳尻を合わせるつもりなのかは我々のはわからない。
確かに、今後の経済成長による税収の上振れの可能性はあるし、もしそうなれば計算は簡単になるだろう。
だが、もしそうならなかったら歳出削減か、財政目標がごまかされるか、あるいは増税が必要となる。
つまり保守党と同様、労働党もこの直面するであろう困難について目を背けているのだ。
今後、これらが問題になることは明らかなのにだ。
だが帳簿は公開されている。
選挙後に、財政状況が大変だと言って人々に衝撃と恐怖を与えるようなお決まりのやり方は通用しない。
現在の状況において、経済成長と安定に焦点が当てられていることは歓迎すべきことだ。
効果的な産業戦略、規制改革、教育改革など全てが必要だろう。
詳細はまだ不明だが、焦点はおおむね正しいように見える。
より良い政策はより良い成長につながる可能性がある。
しかし、成長には時間がかかり、その規模も不確実だ。
次の政権でも難しい選択はまだ続くだろう。
このマニフェストは、この国が直面するいくつかの課題に取り組むため、目まぐるしい数の見直しと戦略を約束している。
中途半端な政策発表の買い物リストよりはましだろう。
しかしこれらの変革を実現するには、ほぼ間違いなく財源の議論をテーブルに乗せる必要がある。
しかし労働党のマニフェストには、その財源をどこから捻出するかという計画は全くない。
以上です。
ちなみにこのレポートは第一弾で、今後も新たな情報を踏まえて選挙日まで新しく更新されていきます。
さて、あらためて書きますが、今日の話はこれらの公約のどちらが良いかというものではありません。
このレポートを上げている財政研究所が完全に独立した中立な機関であるかについても、賛否両論あるのは事実です。
しかしこうしたレポートが上がるからこそ、両党はそれに対して反論や説明を行う状況が発生し、それらは有権者が投票する際の新たな判断材料となっていきます。
公約についてはこうしたシンクタンクはもちろん、各大手メディアも分析記事を掲載しており、日本のように各候補者を推薦している政党の記述と、それぞれの「希望がかなう社会の実現」や「未来がもっとよくなる政治」といったような何か言ってるようで何も言っていない選挙公約を箇条書きしているだけの報道内容とは雲泥の差があるので、この機会にGoogle翻訳を駆使してイギリスの報道記事を覗いてみるのも良いことだと思います。
また、以前記事に書いたオランダ経済政策分析局の「各政党の公約内容のチェック」をあらためて読んでみて
日本に圧倒的に足らないのは「公約を守る」という「常識」であることを再認識するのも悪いことではないでしょう。
政治家にとって結果ではなく、取り組み姿勢のアピールだけで票を得られる社会ほど理想的な環境はありません。
だからこそ政治家は、選挙のたびに
「強い経済と豊かさを実感できる社会創り」
「人への投資を抜本的に強化」
「給料が上がる経済を実現」
「やさしく強い経済に転換」
といったような曖昧な言葉を並べるだけで、具体的数値目標を持った政策を掲げることはありません。
「●年までに経済成長率●%達成」とか「●年までに1人あたりの総国民所得を●%上げる」といった数値化された公約は、その達成未達成がハッキリわかってしまうからです。
また「数値化しない」公約は、用語の定義を曖昧に出来るというメリットも生みます。
なにを持って「強い経済」「給料が上がる経済」「抜本的に強化」とするかを明確にしないことは、その都度都合よく解釈でき、またいつでも「再解釈」が可能になります。
そうしておけば彼らは、たとえ問題の解決をしていなくても辻褄合わせのデータだけをを持ち出せば公約を達成しているように見せる事が出来、また毎年「強い経済の実現」と言い続けられることも出来るようになるのです。
でもその現状を嘆いていても始まりません。
こうした状況を変えるには、有権者が選挙公約に対し厳しい姿勢を持つしかないでしょう。
「前回選挙の公約はどうなったんだ」「政権取ったら公約を実現すると明言しろ」としつこく聞いていくしかないのです。
私のフォロワーさんには「公約はどうした?」「公約を守れ」と根気よく議員に言い続けているアカウントの方が何人かいますが、こうした行動は大事だと私は思います。
なぜなら「取って配るなら最初から取るな」も「無償化は税負担」も、みんなが言い続けたからこそそうした認識が広まっていったからです。
世の中にはいろいろな人がいて、その政治思想も様々です。
だからこそ政治思想が違うことはなんの問題もありません。
しかし「公約反故」はイデオロギー以前の話です。
これを許している限り日本の民主主義は「形だけのもの」にすぎません。
「公約を守る」という「常識」が無い限り、誰が政権を取ろうが同じです。
他国のようなシンクタンクをいきなり作るのは無理ですが、「公約はどうした」という世論を少しずつ大きくしていくことは可能です。
圧力は常に掛け続けるから圧力になります。
「公約はどうした?」と言い続けましょう。
ということで今日の記事はここまで。
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