夏のワンマンライブ、断念。 医師リウーの言葉を胸に。

べべの頑張り、8月

実は、夏のあいだに有観客ワンマンをやりたいという思いがあった。

ずいぶん長いあいだ、他のプロジェクトなどに忙殺され、自分の基本である弾き語りライブさえ演れていなかった。

基本を見失うと、作りかけていたアルバムとの間にもなんだか心理的な距離ができてしまったようで、このままではまずいなと、焦燥を抱えていた。

デルタ株への置き代わりは急速に進んでいたが、周囲となかなか危機意識を共有できないまま満員電車に揺られた。

数々の不正と醜聞、弱い立場に置かれた人々をおびやかしながら、東京五輪は最悪の形で強行された。

リモートで、最小の拘束時間でゲストに対して最大のバックを返せるようにと苦心して続けてきた『対コロナ支援配信LIFE HOUSE』での対話と創作を中心に、少しずつ形作ってきた自分自身の“コロナ禍のスタンス”
そんな、願いや理念のようなものさえガラガラと崩れ去ってしまったような気がしていた。
2020年、パンデミックの渦中で、かなり精力的に動くことが出来たはずなのに、2021年、いつの間にか、心は空っぽで、強い不信と、徒労感を抱えていた。

自分を取り戻さなくてはならない。
そしてもういちど、いま鳴らすべき音を見極めたい。
なので7〜8月。
特に、けじめの意味も込めて、8/20の誕生日前後にワンマンが出来たらいいなと思った。

客席の感染リスクを最大限に下げつつ、闘病中でいつ居なくなるか判らない兄犬にも観せられるような環境でと考え、近場(横須賀)のとても開放感のある「犬OK」なスペースに当たりをつけ、「これなら必ず良いコンサートにできる」という自信も生まれていたが、五輪開幕以来のこの一ヶ月でまた状況は大きく変わってしまった。

開催しようと思えばできるかもしれない、
しかし、お客さんやスタッフを、危険にさらせない、
でもなんとか一日だけ、自分本来の表現がしたいという、
そんな葛藤をまた味わいながら、
今夏の開催は、断念した。

なんとも言えないやりきれなさを覚える日々だったが、
それよりも、いま自宅療養を強いられている何万人もの人々がいる。

一家3人で感染して、自宅でしのいでいる間に、子供と夫の目の前でまだ若い母親が亡くなるという、耐え難いニュースを見た。

妊婦を救急搬送することが出来ず、無事に生まれるはずだった赤ん坊が死産したというニュースを見た。

いまコロナでなくとも、病気や怪我をした場合の致死率は跳ね上がっている。
医療崩壊としか呼びようのない状態だが、菅義偉や小池百合子は場当たり的な対応に終始しながら東京五輪の成功を騙り自らの手腕を誇り、耳を疑うような放言を繰り返している。

不実な安い言葉のうわ塗りで、露骨な歴史の書き換えが行われ続ける国になってしまった。 底力?祈り?あかし?笑わせるのも大概にしてくれ。ウィシュマさんの死に関してようやく名古屋入管が出してきた資料はほとんど真っ黒な、連続した板のようなもので、出来損ないのミニマルアートみたいだった。1万枚以上の黒い平面。今の日本をよく現している。タリバン並みのブラックボックスに覆われているが、西側諸国と同調しながらそれをこき下ろし異物化しつつ、なんとか死線を越えようとするアフガン難民の人々に対しては一瞥もくれずに黙殺して終わるだろう。誠実を語るのが大変難しい磁場になっている。

昨年LIFE HOUSEに出てくれた看護師のBさんはどうしているだろう。
コロナ病棟のレッドゾーンで働き続け、ズタボロになったあの子。
子供時代に東北で被災して以来の夢で、激務に耐えるための心の支えでもあったDMAT(災害派遣医療チーム)の採用試験が中止になってしまい、失意のどん底で、彼女からの返信は途絶えた。

全く納得できません。勉強頑張ってたつもりですが、これを期にバーンアウトしてしまったようで、仕事に行けなくなってしまいました。なぜ看護師をしているのか、分からなくなってしまいました。緊急事態宣言下でもオリンピックはやる方向で、オリンピック派遣の依頼はくるのに、私はDMATにはなれない。

君はすでに、コロナ病棟でいくつもの命を救ったすごいやつなのにな。

カミュの小説「ペスト」に登場する医師リウーは、
「ペストと闘う唯一の方法は、誠実であることだ」と語った。
君はまだ若い20代前半の看護師として、悩み苦しみながら働いていたけれど、まぎれもなく誠実な人だった。
僕も自分なりに応えたいと思っている。


ライブの方はまた、仕切り直して、再トライします。
9月からは少し、誘ってもらっている演奏機会もあるので、十分に注意しながら頑張ろうと思う。
幸い、兄犬もまだ元気で居てくれていて、昨日病院でベテランの先生から「奇跡」だと言われた。
この分ならきっと一緒に秋も越えていける。そう信じて。
もうすこし状況が落ち着くまで、ワンマンな性格の犬たちと一緒にワンマンライブのリハーサルをすることにします。
厳しい状況ではあるけど、音楽への愛情は増している。
前を向いていくよ。

みんな、くれぐれも気をつけて。
また笑顔で会おうね。

noteでの記事は、単なる仕事の範疇を超えた出来事について、非力なりに精一杯書いています。サポートは、問題を深め、新たな創作につなげるため使用させて頂きます。深謝。