どう書く東大国語1現代文2016

2016東京大学 第一問 現代文(評論・約2500字)60分   【筆者】内田 樹(うちだ・たつる)
1950年東京都大田区生まれ。東大文学部卒。東京都立大大学院人文科学研究科修士課程修了。フランス文学者、武道家、翻訳家。神戸女学院大名誉教授、京都精華大人文学部客員教授。
【出典】「反知性主義者たちの肖像」。内田樹編『日本の反知性主義』(晶文社2015年)所収。この書は9人の寄稿者によるアンソロジー。2016年の国立大学入試で9編のうち4編が出題された。東大は内田樹「反知性主義者たちの肖像」、阪大は白井聡「反知性主義、その世界的文脈と日本的特徴」、広島大は高橋源一郎「『反知性主義』について書くことが、なんだか『「反知性主義』っぽくてイヤだな、と思ったので、じゃあなにについて書けばいいのだろう、と思って書いたこと」、静岡大は鷲田清一「『摩擦』の意味―知性的であるということについて」。
【解答例】
(一)「そのような身体反応を以てさしあたり理非の判断に代えることができる人」とはどういう人のことか、説明せよ。(2行=60~80字)
〈ポイント〉
・「そのような身体反応」とは、「聴いて『得心がいったか』『腑に落ちたか』『気持ちが片づいたか』どうかを自分の内側をみつめて判断する」という反応のことである。
・このような「身体反応」のできる人は、「自説に固執する」ということがなく、「他人の言うことをとりあえず黙って聴く」人である。
・そのような人は、「自分の知的な枠組みそのものをそのつど作り替えている」から「知性が活発に機能している」のである。
★他人の言うことを黙って聴いて納得できたかどうか自分の内側をみつめて判断することによって、知的な枠組みをそのつど作り替えている人。(64字)

(二)「この人はあらゆることについて正解をすでに知っている」とはどういうことか、説明せよ。(2行=60~80字)
〈ポイント〉
・「この人」とは「反知性主義者」のことである。
・「あらゆることについて正解をすでに知っている」というのは、「反知性主義者たち」が「恐ろしいほどに物知り」であり、「自説を基礎づけるデータやエビデンスや統計数値」をいくらでも持ち出せることによる。
・しかし「反知性主義者たち」の説をいくら聴かされても「気持ちはあまり晴れることはないし、解放感を覚えることもない」。
・つまり「反知性主義者たち」は、「あなたが同意しようとしまいと」関係なく、自説の「真理性はいささかも揺るがない」と思い込んでいるのである。
★データやエビデンスや統計数値をいくらでも持ち出せる反知性主義者は、相手から同意が得られるかどうかに関係なく、自説の真理を絶対だと思い込んでいること。(74字)

(三)「『あなたは生きている理由がない』と言われているに等しい」とはどういうことか、説明せよ。(2行=60~80字)
〈ポイント〉
・傍線部は「『あなたが何を考えようと、何をどう判断しようと、それは理非の判定に関与しない』ということは」に続いている。
・「生きている理由がない」とは「生きる力がしだいに衰弱してくる」ことである。
・「生きる力がしだいに衰弱してくる」のは「そのような言葉は確実に『呪い』として機能し始める」ことである。
・「そのような言葉」とは、「反知性主義者たち」の「理非の判断はすでに済んでいる。あなたに代わって私がもう判断を済ませた。だから、あなたが何を考えようと、それによって私の主張することの真理性には何の影響も及ぼさない」という言葉である。
★自分の判断に相手の考えは何の影響を及ぼさないという反知性主義者たちの主張によって、人々の生きる力がしだいに衰弱してくるということ。(65字)

(四)「その力動的プロセス全体を活気づけ、駆動させる力」とはどういう力のことか、説明せよ。(2行=60~80字)
〈ポイント〉
・「その力動的プロセス」とは、「情報を採り入れ、その重要度を衡量し、その意味するところについて仮説を立て、それにどう対処すべきかについての合意形成を行う」というプロセスである。
・その「プロセス全体を活気づけ、駆動させる力の全体」を「知性」と呼ぶ。
・この「知性」は「単独で存立し得るようなもの」ではなく、「集団として発動するもの」である。
・「知性」は「『それまで思いつかなかったことがしたくなる』というかたちでの影響を周囲にいる他者たちに及ぼす力」のことである。
・「発言やふるまいによって、彼の属する集団全体の知的パフォーマンスが、彼がいない場合よりも高まった場合」、その人は「知力」を発動しているといえる。
★集団内の合意形成のプロセスで、発言やふるまいが周囲にいる他者にそれまで思いつかなかったことをしたくなるような影響を及ぼし、全体の知的パフォーマンス力を高める力。(80字)

(五)「この基準を適用して人物鑑定を過ったことはない」とはどういうことか、本文全体の趣旨を踏まえた上で一〇〇字以上一二〇字以内で説明せよ(句読点も一字と数える)。
〈ポイント〉
・「本文全体の趣旨を踏まえた上で」という条件があるから、傍線部の段落だけで答案を作成してはいけない。
・「この基準」とは、「個人的な知的能力はずいぶん高いようだが、その人がいるせいで周囲から笑いが消え、疑心暗鬼を生じ、勤労意欲が低下し、誰も創意工夫の提案をしなくなる」というような「集団全体の知的パフォーマンスが下がってしまう」場合、そういう人を「反知性的」とみなすという基準である。
・「この基準を適用」する必要があるのは、今日の日本において「反知性主義」について考察する必要があるからである。
・それは、冒頭のホーフスタッターの指摘を「念頭に置いておかなければならない」としていることや、ロラン・バルトの「無知」について述べた卓見を引用していることから分かる。
★今日の日本で、知識の欠如ではなく、知識に飽和されているせいで未知のものを受け容れられない反知性主義者が存在すると実感する筆者は、知的能力が高かろうと集団全体の知的パフォーマンスを下げる人は反知性的だとみなす基準に自信を持っているということ。(120字)

(六)漢字を楷書で書け。★a=陳腐 b=怠惰 c=頻繁

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