どう書く京大国語1現代文2010

2010京都大学 一 現代文(評論・約3000字)40分 

【筆者】津島佑子(つしま・ゆうこ)
1947~2016年。東京都北多摩郡三鷹町(現・三鷹市)生まれ。太宰治の次女。小説家。白百合女子大英文科卒。在学中より「文芸首都」「三田文学」に参加。1978年『寵児』で女流文学賞。1979年『光の領分』で野間文芸新人賞。1983年『黙市』で川端康成文学賞。1987年『夜の光に追われて』で読売文学賞。1991年10月から翌年6月まで、パリ大学国立東洋言語文化研究所に招聘され、日本の近代文学を講義した。実姉は元衆議院議員で厚生大臣を二度務めた津島雄二夫人の津島園子。作家・太田治子は異母妹。衆議院議員・津島淳は甥。
 
【出典】「物語る声を求めて」。『東洋文庫ガイドブック』(平凡社2002年)所収。

【解答例】
問一「どきどきするような現実感」とは、どのようにして生じるのか、説明せよ。(3行=90~120字)

★音とにおいと手触りといった感覚でできあがっている子どものころの世界で、物語を語り聞かせる母親の声から誘い出された風景や人物の姿が、直接子どもの体に受け入れられ、日常の一部になる経験を通して。(95字)

問二「そこを支配している『近代性』」の「近代性」とはどのような意味か、わかりやすく説明せよ。(3行=90~120字)

★まがまがしい口上でこわいもの見たさの興奮をかき立てるような口承の物語と異なり、理想的な子どもを育むことを目的とする近代文学は、子どもの世界を論理で整理された言葉で無垢なものに描くという意味。(95字)

問三「ジャーナリズムの言葉と個人の言葉のちがい」を説明せよ。(3行=90~120字)

★幅広い人たちと理解し合うために人工的に作られた書き言葉であるジャーナリズムの言葉に対し、家族や地縁に支えられた個人の言葉は、地方の風土、習慣、伝統が生き続ける話し言葉であるというちがい。(93字)

問四「複雑な思い」を、わかりやすく説明せよ。(3行=90~120字)

★魅力の失われた現在の小説の実情が、風土に生き続けた神話的想像力と近代の小説を結び合わせた小説の出現に寄与したのは、近代の学問が古代の口承文学の世界を読み解いた成果だと認めざるをえない思い。(94字)

問五「それぞれの風土の時間を近代の時間からはずして、神話的な時間に読み替えていこうとする試み」は、どのような試みをいうのか、「近代の文学」と「口承の文学」との関係をふまえ、わかりやすく説明せよ。(5行=150~200字)

★近代の文学は近代国家という新しい枠組みの中、論理で整理された共通語によって過去の血縁、地縁を超えて自分の意見が発表できる魅力を広めたものの、書き言葉と縁のない、即興の物語の世界を描き出せなかったことから、共通語と土地の言葉を混合させて風土の想像力を描くことで、近代が見失った口承の文学のおもしろさを取り戻そうとするような試み。(163字)

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