バリューデリバリーシステム
バリューデリバリーシステムとは、「価値を顧客に提供するには?」という論点を分解したフレームワークです。事業企画や商品企画にも使える枠組みで有用なのですが、今一つ普及しないので、解説してみます。内容は1988年、McKinsey Staff Paperの「A Business is a Value delivery System」で発表されたものです。コトラーも自著の中で紹介しています。勝手に文言を改変しているポイントも見ると割と面白いですね。
ではまず、概要レベルで見てみましょう。このペーパーが出るまでは、いわゆる普通の枠組みは、プロダクトを創出して、生産して、売るというものでした。原文ではCreate the product / Make the product / Sell the productという手順です。一応詳細も見てみます。
Create the productのサブセット(下位概念)には、Product designとProcess designがあります。つまり、プロダクトと製造プロセスをデザインするということです。まさに、企画、開発工程の設計ですよね。
Make the productのサブセットには、ProcureとManufacture、Serviceがあります。調達して、組み立てて、提供するわけです。
そして、Sell the productのサブセットには、MarketingとSales&Distributionがあります。いわゆるマーケティングとお店で売るというお話です。
Marketingのサブセットも更に書いてあって、Research、Advertising、Promotion、Priceがあります。調査して、広告宣伝して、販促して、価格付けをしろというやつです。
この流れだと、プロダクトと製造プロセスを先に企画して、製造してしまってから、どう売るかを考えろという話になります。
これに対して、お客さんが感じる価値から考えたほうがいいのでは?と提案をしたのがバリューデリバリーシステムです。全体を大きく3つのプロセスに分けます。価値の選択、価値の創造、価値の訴求の大きく3つです。英語ではCHOOSE THE VALUE、 PROVIDE THE VALUE、 COMMUNICATE THE VALUEの3つですね。
価値を提供するには、どんな価値を提供すればいいのか?を選ばないといけません。これが「価値の選択」です。プロダクトをデザインする前に、お客さんがどんな価値を望んでいるか考えるという意味で、商品企画業務をこの枠組みは変えたと言えますね。
それで、「じゃあ、こんな価値にしよう!」と選んだとします。選んだら、その価値を実際に生み出し、届けていくためには?というプロセスを考えなくてはなりません。これが「価値の創造」です。
その上で、商品が出来たとして、その商品をどのように顧客に訴求していくのか?ということを考えないといけませんね。これが「価値の訴求」です。
そうすると、実際の成果、商品が売れて、収益が得られるという結果をもたらすことができます。
これだと、話しが抽象的過ぎるので、もっと細かく分けていきますね。
まず、価値の選択/CHOOSE THE VALUEの部分から行きましょう。サブセットとしては望まれる価値の理解、ターゲットの選択、便益/価格の定義の3要素があります。英語だとUnderstand value desires、Select target、Define benefits/price ですね。
コトラーはこの部分を大胆に顧客の細分化、市場の選択/集中、価値ポジショニングと書いています。正直、出典は同じものが書いてあるのですが、ここまで訳がずれると恣意を感じますね・・・。
素直に考えると、ちゃんと望まれる価値を理解して、ターゲットを選んで、便益と価格を決めなさいと言っているように見えます。それがセグメンテーションだ!とコトラーは言いたいし、マッキンゼーのペーパーの本文にも確かにセグメンテーション的なことは書いてありますけどね・・・。
業界設定して、その業界で望まれる価値を理解して、自社とプロダクトにあったターゲットを選んで、便益と価格を決めればいい。悩むことはないです。
ここに「商品が先かターゲットが先か」のくだらない論争?の答えもあります。結局、プロダクトと代替品を先に設定しているので、プロダクト及び代替品を望む人たちは何を望んでいるんだろう?と考えるプロセスが初めにあります。だから、制約条件なしにターゲットを選ぶという話でもないし、代替品なしにプロダクトを決め込んでしまうわけでもないのです。
実務をやっている人にはターゲットが先なのか商品が先なのか論争は迷惑ですよね。その商品及び代替品群を選んでいる人は何を望んでいるのか?を考えればいいのです。だから、そもそも相互的なのです。
このCHOOSE THE VALUEのプロセスは1つのステートメントに書き下ろす形で例示があります。例が鶏肉メーカーの話なので、現代的ではありませんが、「もっとまろやかな味のいい鶏肉をお財布に優しい値段とちょっと高めの値段で」といったことが書いてあります。こういう顧客が望むであろうことと価格が書いてあるステートメントを作れればこのプロセスはOKです。
要素は分解したうえで統合したステートメントを作るわけです。
その上で、CREATE THE VALUEのプロセスに移ります。実際にどのように生産して流通するのかを考えないといけません。
鶏肉のケースでは、適した品種を作り出し、より素早い鳥の成長サイクルを作り、特別な食事、餌のパターンを編み出し、冷凍ではなく冷蔵で市場に送り出し、冷蔵車を手配し、値段は実験的に高くつけてみる、とあります。
こういうことをしようということが明確に分かりますね。
その上で、COMMUNICATE THE VALUEのプロセスですが、規模の大きな売り場に流通させて、ユニークな広告メッセージを打ち出す。具体的には「takes the tough man to make a tender chicken」(筋金入りの職人がまろやかなチキンを作っています)というメッセージ。パッケージングはブランドメッセージにあったものを、とあります。
具体的な方が分かりやすいですかね。初めの価値の選択の部分で定まったことを実行するための価値の創造と訴求なわけです。価値の選択部分のステートメントをコンセプトと言ったりしますが、コンセプトの話はまた別の機会にいたしましょう。
いわゆるコンセプトを決めてから、どう作って流通させて売るかを決めましょうという単純なお話ではありますが、できている会社は少ないです。そして、このケースでは価値の訴求が最後にあり、具体例でパッケージングは最後に付け足されているわけですが、最近はビジュアルコンセプトと文章で表現するコンセプトが同時に設定されたりしますね。そういった違いはありますが、まだまだ使える枠組みだと思います。
それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。
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