『闇狩りの二人』

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記事

『闇狩りの二人』10:『誕生日おめでとう』(終)

「……ティ、ナティ」
 あたしを呼んでいる王子様の声が聞こえる。
 ゆるゆると目を開くと、そこは見知らぬ場所で。あたしの肩をつかんで呼びかけているのは、『失敗作【バグ】』だった。
 ひゅっと息を呑むけれど、その声を聞き間違える事は無い。
「ゼル?」
 目を真ん丸くして問いかければ、バグは――ううん、ゼルは、喉の奥で唸るような返事を寄越した。
 何があったかなんて、気を失っていたあたしでも想像がつく

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アルダ「応援嬉しいよ。たつみに代わってお礼を言う、ありがとう」
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『闇狩りの二人』09:『続く言葉は「     」』

※※※注意※※※
今回はクライマックスという事もあり、残酷描写がだいぶこんにちはしてしまいました。(『小説家になろう』あたりではR15相当になると思います)
その為、後半部分を有料記事という形で隠させていただいております。ご興味のある方は、どうぞよろしくお願いいたします。

 また、やらかした。
 その思いが、ずきずきと心臓を刺すようだ。折れた肋骨は既に繋がり、痛む箇所などもう無いのに。
 バー『

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メイヴィス「えーっと、ありがとう。お礼にお茶とお菓子なら出せるよ」
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『闇狩りの二人』08:『セス・サクセス』

「お願いがあるの」
 日曜日の朝、ダイニングで遅い朝食を摂っていた時。ベーコンエッグをフォークでつつきながら、あたしは思い切って言い出した。
「何だ?」
 差し向かいに座るゼルがトーストをかじるのをやめ、口の中に残っていたものを咀嚼して呑み込み、訊ねてくる。頬が火照るのを自覚しながら、「あの、その」とやたらもじもじしてしまう。『失敗作【バグ】』相手にも物怖じせずダガーを振るうお姫様にしては、って彼

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インシオン「あんたも物好きだな。だが、礼は言っておくぜ」
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『闇狩りの二人』XX:『日常の二人』

嵐が去った後のようだった。
『仲間【コモン】』が用意してくれた高層タワーマンションの、対面型キッチンを備えたリビング。そこ一面に、褐色のどろりとした液体と、数種類の野菜と、鶏肉……多分鶏肉だったはずだ……と思える何かが、壁から床、人を堕落させるソファ、天井にまで飛び散っている。俺達『闇狩り』が失敗作【バグ】を狩った時でさえ、こんな無様な血の痕を残したりはしない。
「何があった」は訊かない。IHコン

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メイヴィス「えーっと、ありがとう。お礼にお茶とお菓子なら出せるよ」
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『闇狩りの二人』07:『獣のごとく』

失敗作【バグ】だ。
 いや、違う。
 これは俺だ。
 午後の繁華街の高級店の硝子に映り込む、ふらふらの迷彩コート姿のスキンヘッド。それが一瞬、鱗に包まれた持つ異形の姿に見えたのだ。赤い瞳を隠す為のサングラスを外してごしごし目をこすり、再びかけて見つめ直せば、いつもの俺が俺を見ている。
 だが、これは重症だ。鈍痛がしてきた頭をおさえながら確信する。
 二十五の時にバグの血を浴びてから、じわじわと進行

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くりまんじゃろ「うゆ! うゆうゆうゆ、うゆーっ!(喜んでいるようだ)」
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『闇狩りの二人』06:『崩れてゆく』

『○月×日 二十四時 セラフィム・スカイタワー高層展望室へ』
 オーフェ・オーヴェのアドレスから、ゼルのスマホ宛にメールが届いた。
 マスターがゼルに抹殺を依頼した日から行方をくらませていた彼が、こうしてコンタクトを取ってきたのは、これが「最初で最後の機会」だという事だ。
「行くんでしょ?」
 どうするの、ではなく、覚悟をゼルに問う。
「当然だ。『仲間【コモン】』の命令だからな」
 つるりとスキン

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インシオン「あんたも物好きだな。だが、礼は言っておくぜ」
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『闇狩りの二人』05:『堕ちるならば共に』

常に仄暗いバー『渡り鳥【レイヴン】』は、いつも以上に明かりが落とされて、営業時間外である事を示している。
 そんな『渡り鳥』のカウンター越しに、俺は一人、マスターの顔色をうかがっていた。
『できれば一人で来てください。ナティには内緒で』
 マスター直々のご指名だ。ナティには、「ちょっと野暮用だ。日が変わる前には帰るから寝てろ」と夕飯代を渡して出てきた。
 自らも『闇狩り』である証の赤い瞳をサングラ

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アルダ「応援嬉しいよ。たつみに代わってお礼を言う、ありがとう」
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『闇狩りの二人』04:『煙草の煙に父を見る』

開け放たれた窓から吹き込む風に流されて、白い煙がリビング内をゆうらゆらと揺蕩う。
 重たすぎない匂いは、あたしの鼻にはそんなにつかない。むしろ胸を締めつける懐かしさすら覚える。
 匂いの出所にこうべを巡らせれば、窓辺に腰掛けて煙草をふかす、あたしの王子様、ゼル。スキンヘッドが夕暮れの陽に照らされて、赤く輝いている。
 赤。あたし達の瞳の色だ。失敗作【バグ】に向かってこの身が侵食されてゆく、あたし達

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『闇狩りの二人』03:『闇の取引』

マスターの娘エリカが誘拐された。
 小学校からの帰り道を襲われたらしい。道には、中身の散らばった水色のランドセルと、片方脱げた青いスニーカーが残され、走り去る黒塗りの車を、クラスメイトが目撃していたそうだ。どうせなら車のナンバーまで憶えていて欲しかったものだが、小学生にそれを期待するのは酷な話だし、そもそもその手の車が正しいナンバープレートなんぞをつけているかも怪しい。
 バー『渡り鳥【レイヴン】

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アルダ「応援嬉しいよ。たつみに代わってお礼を言う、ありがとう」
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『闇狩りの二人』02:『あたしの嘘つき王子様』

ある日の夕刻。ある都市の高層マンションの洗面室で。
 じょりじょりと。
 本来は顔に使うべき髭剃り器が、まあるい頭を撫ぜる。五枚刃が通った後には、つるつるのスキンヘッド。
「いつも悪いな、ナティ」
 剃り終わって髭剃り器の電源を落とせば、肩に巻いたタオルを解きながら、彼が笑う。
 ゼル。
 本当の名前を教えてくれない、あたしの王子様。

 ゼルに出会ったのは、四年前だ。
 まだ何にも知らない、無知

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インシオン「あんたも物好きだな。だが、礼は言っておくぜ」
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