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掌編2021

332
365篇、書けたらいいな。
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2021年8月の記事一覧

富澤君の辞書

富澤君がいつも持ち歩いている国語辞典は、彼のお父様が使っていたものだと聞く。 「携帯サイ…

たつきち
2年前
10

ビヨーン

4、5歳くらいの男の子。近くにある保育園のスモックを着ている。 左手人差し指に巻かれた包帯…

たつきち
2年前
13

文通 - ケイゴ

櫻子さんからの手紙にはいつもキレイな絵が描かれている。 文字はあまり書かれていないが、僕…

たつきち
2年前
6

KNIGHT

学校から帰って鞄を置いて、手を洗ってうがいをして、学校に来て行った服を脱いで、着替えて、…

たつきち
2年前
5

文通 - 長谷川

長谷川和樹は悩んでいる。悩みの対象はふたり。 ひとりは看護実習生だった頃からの担当患者の…

たつきち
2年前
7

パンをとめる「アレ」

奇妙なものが捨てられない。 その中にパンをとめるアレもある。正しくはパンが入っている袋を…

たつきち
2年前
7

真夜中に降る雨

雨音で目が覚める午前3時。 ひどい雨だ。 つい、枕元のスマホで天気を確認する。雨は明け方に止むという。 真夜中にこんな風に雨が降って、朝になると何もない顔をする空。 浮気男のようだ。いや女もそうか。 何もない顔をして、しっかりとバレる証拠をどこかに残す。 おそらく、バレてほしいんだろうなぁ。 相手に本気でいたら、さっさと別れを切り出す。 それをしないのは本当に「浮気」だから…それを言ったのは誰だったろう? 「浮気がバレて、すったもんだするまでを味わいたいものなのよ」 いい迷

文通 - 櫻子

もう6年くらい文通をしている。 友人が間に入っての文通だった。 「入院患者さんなんだけど、…

たつきち
2年前
10

黒い蝶

蝶が飛んでいる。黒い蝶だった。 「逆光で黒く見えていたんだよ」 誰かがそう言う。 蝶はひら…

たつきち
2年前
6

名前の話

緋村夕輝はあまり悩まない。困ることはあっても考えはするが悩まない。いくら考えても答えの出…

たつきち
2年前
5

花の終わり

夏の花が終わるのは春の花の終わりより寂しく思うのは何故だろう? おそらく、秋の花が終わる…

たつきち
2年前
6

花瓶

副島カオリの密やかな贅沢は花瓶だった。 高い花瓶を買うのではない。 花に似合った花瓶を買う…

たつきち
2年前
2

トマトシチュー

おふくろの味とかあんまり覚えてない。 父親も気がついたらいなかったので親父の味も存在しな…

たつきち
2年前
5

intermission - むしろこちらが本筋かも

金曜日に半ば無理やり退院した青藍は、結局土日を蒼月の家で過ごし、宇治川の言いつけを守って月曜日の今日、蒼月に連れられ病院に行った。食事を取れずにいたので点滴をして、安定剤を処方された。 つい先ほど、同居人の野々隅と共に自宅に帰ったが、明日からも日中は蒼月と共に過ごすことにしている。 先日の病院での捕物では、駐車場で青藍を襲った犯人は捕まらなかった。 犯人はその前に来た自称警察官のひとりであり、その男に関してはこちらの調査で身元は判明している。 ひとりは緋村の顔見知り、中学時代