マガジンのカバー画像

掌編2021

332
365篇、書けたらいいな。
運営しているクリエイター

2021年5月の記事一覧

コーヒーの冷める午前10時

久しぶりに会社の社長室に入る。 田嶋さんとふたりきりで話をすることは多くなく、他のスタッ…

たつきち
2年前
9

階段話

昔、「階段の13段目を踏んではいけない」と誰かに言われた。 13段目がある階段は自分の周…

たつきち
2年前
5

真っ赤な女の子

「ねぇねぇ、私のこと覚えている?」 赤いワンピースの若い女性、まだ女の子と呼んでもいい年…

たつきち
2年前
3

指と声と

「トワべさん。青藍は?」 「お庭を散歩していらっしゃいます」 「雨だよ」 「雨だからでござ…

たつきち
2年前
7

笑って起きた朝

夢の中で笑っている。 ハハハ…と、現実ではこんなに声を上げて笑うだろうか? 覚醒する瞬間、…

たつきち
2年前
3

残酷な願い

私には細やかだけどとても人には言えない「願い」がある。 それは夫の死である。 今すぐ死んで…

たつきち
2年前
13

月蝕

その夜は皆既月蝕だった。 「たとえ部分日食でも、日蝕の方が月蝕より盛り上がらない?」 「それでもいそいそと天体望遠鏡の準備してるじゃないか?」 「そんなこと言ってお前だってついて来てるじゃん」 「ついて来てるじゃねぇよ。どこか高いところって言うから、病院の屋上がいいんじゃないか?って。俺、今日は手術ふたつだったんだ。本当は帰って寝たいよ」 あー言えばこー言うふたりは幼馴染だった。でも、今は全く社会的な立ち位置は違っていた。 三島はこの総合病院で外科医をしている。親も医師だった

寝坊した朝

寝坊した。 年単位で寝坊したことはなかった。 5分10分の寝坊すらしたことなかった。 いつも予…

たつきち
2年前
4

蓮池

朧げな記憶だが、幼い頃、5歳くらいまで僕は祖母と住んでいた。 祖母と多分母と暮らしていた。…

たつきち
2年前
11

奇妙な果実

比喩でもなんでもない。それは奇妙な果実だった。 果実と言われなければ果実とは思わないそれ…

たつきち
2年前
13

不在証明

「不在証明なのにアリバイとはこれ如何に!」 「どういうこと?」 「『いない』のに『在り』だ…

たつきち
2年前
6

高秋くん

高秋くんは高秋孝明という。高秋孝明と書いてタカアキコウメイと読む。 「親父がつけた。なか…

たつきち
2年前
8

マンホールの蓋

母親が熱心に見ていたカタログ本をめくってみたら、奇妙なページに開き癖がついていた。 「マ…

たつきち
2年前
4

迂回路

いつも通る商店街の道が通行止めになっていた。 工事のようだけど、朝通った時は何もなかったし、告知もなかった。 見ると電柱が傾いている。何か事故でもあったのだろうか? その道をあと100mも行ったところで右に曲がって住宅街へ続く道に出る。それがいつも通る道順だった。 その手前にも右に曲がれる交差点がある。この辺りは碁盤の目のように整備されているから、手前で右に曲がって、すぐ左に曲がってまっすぐ行くといつもの角を右に曲がった道に出る。 歩く距離は変わらないけど、曲がるという行為を