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「水の組織」というメタファー

ゆく川の流れは絶えずして

ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
淀みに浮かぶ泡沫(うたかた)は、かつ消えかつ結びて、久しく留まりたるためしなし。(方丈記)

週に2日ほど、仕事を始める前に5kmほどのランニングをするようになった。(ここ数か月のことなので、いつまで続くかは分からないけれど。)
いつも、小さな川にぶつかる場所を折り返し地点にしている。
ランニングの小休憩がてら、ぼんやりと歩きながら川を眺めていると、その様子が、なんとも興味深く思えてきた。


天候や季節などの環境変化に合わせて、その水量や色を変えること。

「その川」と周囲の環境が、輪郭を溶け合わせながら調和して共存し、相互に作用しながら互いの姿を少しずつ変えていること。

川を流れる木の葉は、まるで意思を持っているかのごとく、岩の間をすり抜けていくこと。

表面に、常に何かが生まれ続けていること。

「その川」の水は常に入れ替わっているのに、変わらず、そこに「その川」がある、ということ。

時間を重ねるほどに「その川」のエコシステムとしての豊かさを増していき、多様な生き物が集まる場所になること。


「あぁ、こういう組織を作ることができると良いなぁ」と思う。


ランニングの折り返し地点での小休憩は、
「川」の「しなやかさ」と「豊かさ」に惹かれ、
それをメタファーに組織経営について、考える時間になった。



水の組織

考える端緒として、「水の組織」と呼んでみて、他の形態との比較をしてみたいと思う。

水の組織


「石」は、積み上げることはできるものの、形の歪さゆえ、不安定だろう。数多く積み上げようとすれば、崩れてしまうに違いない。
初期的な組織の形態として、「石の組織」を想像してみたいと思う。


「鉄」ならば、効率よく積み上げることもできるだろう。その強度も申し分ないだろう。しかし、形を変えることは得意ではないようだ。「鉄の組織」は、量的な拡大再生産には適するものの、環境変化に対する柔軟性に欠ける。
企業組織の(合理性をモノサシにした)発展は、「石の組織」から「鉄の組織」への進化と言えるかもしれない。


「風」は、常に形を変え、軽やかに移動することができる。しかし、その輪郭を捉えることは難しく(そもそも目に見えない)、その空間に蓄積し豊かになっていく環境は無いかもしれない。
「風の組織」は、環境変化への柔軟性は高まりつつも、その存在は、脆く、一時的な存在に留まってしまうかもしれない。


「水の組織」は、柔軟性を持ちつつも、識別可能な輪郭を持ち、拡大再生産する力を持つ。ただ、「鉄の組織」とは異なり、量的な拡大再生産よりも、質的な拡大再生産を志向する。そして、遠く未来へと続いていく存在。

環境変化に合わせて柔軟に変化し、
周囲の環境と溶け合いながら共存し、
一方で、明確な自意識を持ち、
場は豊かさを増しながら、多様な才能を引き寄せ包み、
常に何かを生み出し続ける。


「鉄の組織」から「水の組織」への移行、という問いの眼差しは、いくつかの重要な指摘を生むだろう。

・量的拡大再生産から質的再生産へ(質的再生産の必要条件として量的再生産があることはあるだろう)
・新陳代謝(事業/人材/知識など)に関する捉え直しと手法開発
・組織の輪郭(ウチとソトの境界線)の再定義
・組織の自意識と「らしさ」に対する更なる自覚
など。


ちなみに、ティール組織の議論と似ているようなところがあるけれど、「水の組織」における個人的な関心は、メンバーの自律性よりは、その新陳代謝と柔軟性、そして、(にもかかわらず、)エコシステムとして充実していく、というところにある。



しばらく、このメタファーを補助線にしながら、考えを進めてみようと思う。


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