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生産性を下げる「厳しい職場」

column vol.537

最近はメンタルヘルスが何かと話題になり、社会全体で「心理的安全性」を重要視する傾向が見られます。

そんな中、東洋経済オンライン【「ミスに厳しい職場ほどミスが多い」のはなぜか】という記事が面白かったので共有させていただきます。

〈東洋経済オンライン / 2021年1月4日〉

優秀なリーダーが陥りやすい罠がある

今日はそんな話です。

優秀なリーダーの典型的なクセとは?

『だから僕たちは、組織を変えていける』の著者で起業家の斉藤徹さんは、「優秀な成績をあげて、挫折を知らずに高い立場についた上司は、部下に厳しい言動をする場合が多く、無意識に場の安全性を壊しているケースが多い」と指摘します。

優秀なリーダーは、自分を律することで成績を上げてきた成功体験を持っており、そこから「組織も厳しく律すれば成果を出せるはず」と思いがちになってしまうとのこと。

経営学の大家、ヘンリー・ミンツバーグさんは著書『MBAが会社を滅ぼす』にて、MBAホルダーは論理に偏り人への共感を失いがちで、知識と行動のバランスが崩れやすいと警鐘を鳴らしています。

ちなみに、優秀リーダーほど陥りやすい、主な思考のクセがコチラです。

完璧主義:他者の全ての行動に完璧さを求めたい
コントロール欲求:他者の思考や行動を自分の統制下におきたい
過度の所属欲求:同じ価値観や意見を持ち、一体感ある仲間でいたい
犯人捜しの本能:悪いことが起きると、犯人を捜して非難したい

中でも「犯人捜しの本能」は、場の心理的安全性を激しく毀損する思考と言われていますが、多くの組織で「正しい行動」として理解され、定着しています。

特に、規律を重んじる業界や、コンプライアンスを過剰に重視する組織においては、「犯人を捜し、責任をとらせ、再発を防止すること」こそ問題解決の最善策と考える傾向にあります。

でも、本当にそれがベストなのでしょうか…?

厳しさは「生産性を下げる」という研究結果

ハーバードビジネススクールのノバルティスリーダーシップ教授であるエイミー・エドモンドソンさんは、大学病院の看護チームを対象とした実験を行い、「犯人捜し」が成果にどのように結びつくかを検証。

被験者の看護師に対して「厳しく接するチーム」「やさしく接するチーム」に分けてミスの回数と報告について調査したところ

「厳しいチーム」の方がミスが多く、報告が少なかった

という実験結果になりました。

また、ロチェスター大学の心理学者、エドワード・デシさんも「教師」を対象にした調査を実施。

被験者の先生に対して「生徒の成績を厳しく求めるチーム」「求めないチーム」に分けて実験したところ、「厳しいチーム」の方が

話す時間2倍命令的な話(すべき、しなくちゃなどを含む言葉)が3倍管理的な話3倍

多かったとのこと。

それだけ管理的になってしまったということですね。

そのことが生徒の内発的動機づけ、創造性、概念的理解を低下させていました。

成果を求められるほど成果を落としてしまう

「責任感の罠」が皮肉なパラドックスを生み出していているという典型的な例ですね。

これはマジメな人ほど陥りやすい傾向にあり、組織に貢献しようという思いで管理的な行動を強めている…という悲しい話なのです…。

心理的安全性を高める7つチェック項目

エドモンドソンさんは、優秀なリーダーほど常日頃、確認して欲しい7つのチェック項目があると提示しています。

(1)直接話のできる、親しみやすい人になる
(2)自分もよく間違うことを積極的に示す
(3)失敗は学習する機会であることを強調する
(4)現在持っている知識の限界を認める
(5)参加を促す
(6)具体的な言葉を使う
(7)境界(規範)を設け、その意味を伝える

個人的には特に(2)(4)が大事な気がしています。

完璧な自分を示すだけでも相手を抑圧してしまうことを忘れてはいけないと思っています。

リーダーはよく「強さ」を求めてしまいがちですが、本当に必要なのは悩み弱みも含めた「素の自分を見せる勇気」

リーダーが弱さを見せることでメンバーは安心し、弱さを開示するようになります。

強がっている人間同士で、思いやりや助け合いが生まれることは難しく…、お互いの得意や不得意が分かることで、お互いが得意を活かし不得意をカバーし合う良い関係が生まれるというわけですね。

ちなみに、ピーター・ドラッカーは1973年の著書『マネジメント』のなかで、「リーダーに任命してはいけない人物」として5つのポイントを挙げています。

・人の強みよりも、人の弱みに目を向ける者
・何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者
・真摯さよりも頭のよさを重視する者
部下に自分の地位を脅かされると脅威を感じる者
自らの仕事に高い水準を設定しない者

場に安心感があってこそ最大限の力が発揮され、人間関係も円滑に進む。そのことが肝要ということですね。

ウェルビーイング経営の成功例

最後は心理的安全性を高めた企業の好事例をご紹介して終わりたいと思います。

丸井グループウェルビーイング経営で成果を生み出しています。

〈JB press / 2021年1月12日〉

ちなみに、ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に全てが満たされている状態を表す言葉で、社会が目指すべきゴールとして広く使われいます。

同グループでは2016年より「ウェルネス(健康)」への取り組みを行なっており、「全ての人が今よりも活き活きすることを目指しています。

そして、大切にしているのが「手挙げの文化」。社員一人ひとりが自発的に組織に働きかける企業体質を大切にしています。

ここでも重要なのがリーダークラスの意識です。

せっかく社員が自発的に動こうと思っても、その芽を潰してしまったら元も子もありません。

そこで、トップ層を対象にしたレジリエンス(適応能力)プログラムを実施。

部長以上の役職者を対象に希望制で行なっているのですが、現在までに部長職の9割が受講済みとのこと。

現在はさらに課長職にも広げています。

働き方改革も社員に主体的に行なってもらっているのですが、ヘルスリテラシーの向上を果たし、生産性向上人件費低減に繋げ、この12年間総残業代26億円もカットできたとのことです。

もちろん、これだけ大きな組織なので理想的なことばかりではないですが、全社的に「イキイキ働いて欲しい、イキイキできる社会をつくりたい」というメッセージが共有できているということは素晴らしいことです。

丸井の社員さんにお会いすると、自社の取り組みを熱く話される方が多く、「会社が好きなんだなぁ」と感じさせられます。

社員がもっと自社を好きになってもらうにはどうしたら良いのか?そんなことを自問自答する毎日です。

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