見出し画像

マーケティングは「狭さ」に向かう

vol.1363

昨日は、今注目されているリサーチ手法である「N1分析」をご紹介させていただきました。

いずれにせよ、これまでのマーケティング戦略は、ターゲットセグメントをしっかりと行って効果的に届けることを意識しつつも、…やはり、なるべく広くお客さんにしていきたいという気持ちが根底にありました。

それをマス(大衆)マーケティングと言うわけですが、

一方、十人十色、いや「一人十色」と表現されるほど、ニーズの多様化が進んでおり、なかなかメガヒットは生まれにくい時代になっている…

そうした中、マスはマスでも「スモールマス」マーケティングに意識転換する企業は増えています。

キーワードは「より狭く」なのです。


スモールマスマーケティングとは?

スモールマスマーケティングは、アメリカの著名なマーケティングの専門家、セス・ゴーディンさんによって提唱されました。

大規模なマーケティングキャンペーンや一般的な商品では、消費者の一部しか満足させられない。

それに対し、スモールマスは、特定のニーズを持つ消費者に対して、そのニーズを満たす商品やサービスを提供することで、より深い顧客関係を築き、結果的には利益を最大化することを目指しています。

スモールマスと聞いて最初に頭に浮かぶ企業は「花王」でしょう。

同社では

「既存のマスより小さいながらも一定のボリュームを持つ消費者のグループに、それぞれに合った商品を提供する」

と定義し、10年前からこの戦略を重視。

例えば、洗濯洗剤「アタックZERO」は、従来のマス戦略ではなく、より小グループのスモールマスをターゲットに開発された商品になっています。

よく「ニッチマーケティング」と一緒に捉えられる傾向にありますが、2つには違いがあります。

【ニッチマーケティング】
製品やサービスを特定の小規模な市場に焦点を当てる
【スモールマスマーケティング】
関心や価値観が共有されている消費者群に焦点を当てる

つまり、ニッチマーケティングでは、狭いニッチ市場を探しますが、ニッチ市場の中では画一な人々が存在していると想定してマーケティングを行います。

一方、スモールマス市場では、画一的な人々がそもそもいないと想定することでより多様なニーズに対応できるように工夫するという違いがあります。

ただ、どちらもマーケティングはよりターゲットを絞り、コミュニケーションを図っていくという考え方は共通です。

よくボーリングの「センターピン」に喩えられますが、玉を1投で全部のピンに当てることはできませんが、センターピンを効果的に倒すことで、ほかのピンがドミノのように倒れてくれる

今日のマーケティングも、明確な層を狙い、そこから共感の輪を広げていくという発想なのです。

「2年で4回の値上げ」でも売れるワケ

最近も、スモールマスマーケティングを紹介している記事と出会いました。

プレジデントオンライン【創業以来初「年間売上高1000億円」を突破…餃子の王将が「約2年で4回の値上げ」をしても顧客の心を離さない理由】という記事。

〈PRESIDENT Online / 2025年1月9日〉

餃子の王将といえば、創業から56年を経た2024年3月期に初めて年間売上高1000億円を突破したことがニュースになりました。

さらに、10年後2034年には、現在の売上高の倍となる2000億円を目標に掲げており、今後さらに成長を加速していこうとしています。

餃子の王将では、原材料費や物流費、人件費などの高騰を受けて、2022年から24年にかけて4度の値上げを行いましたが、それでも客足が遠のくことはなく、好調を維持

その秘訣に「スモールマス戦略」が挙げられているのです。

同社の特徴は、焼き餃子という看板商品を中心にお馴染みのメニューが揃いながらも、各店舗に裁量が任されている

オリジナルメニューイベント・サービスの開発、価格設定バイトの時給営業時間の設定など、様々な権限が店長に与えられています。

そして、その地域・来店顧客のニーズ的確かつ柔軟にフィットしていく。

つまり、王将が行っているのは、地域ごとの「スモールマス」なのです。

この権限委譲型の店舗運営を叶えるため、新入社員研修に始まり、全国からスタッフが集まって調理技術の継承と向上を行う「王将調理道場」、店舗運営や人材マネジメントを研修する「王将アカデミー」、現在のフランチャイズオーナーの半数以上が利用している社内独立制度など、独自の人材育成システムを通じて、スキル独創性育んでいます。

これが、王将の強さの源と言えるでしょう。

「MZ世代向け」で来客数262%

私が専門とする小売業でもスモールマスの考え方は広がっています。

例えば、イオンです。

〈日経クロストレンド / 2024年3月26日〉

イオンといえば、PBブランド「トップバリュ」が多くの顧客の心を捉えていますが、

●NBにはできない価値の提供、挑戦
●ベストプライスのさらなる進化

という考えをもとに、人気を高めてきました。

同社が特に力を注いできたことの1つが、顧客リサーチです。

問い合わせフォーム電話メールなどで届く「お客様の声」は、年間5万件を超えますし、さらに、イオンクレジットWAON会員ID-POS(販売時点情報管理)データなど、購買履歴を基にした分析も徹底的に行っています。

一方で、商品開発本部コーディネーター部・部長の辻森康人さん

「お客様の声や購買履歴など、定量データで把握できるのは顕在化している課題のみ。これだけでは、改善型商品しか生み出すことができず、さらに付加価値の高い商品開発はできない

と仰っており、より潜在ニーズの把握に努めるため、23年度は前年に比べ、定性調査を2.5倍に増やしています。

そうした甲斐もあり、スモールマス商品が次々と生まれている。

特にMZ世代に力を入れており、例えば「若者のアルコール離れ」を捉えて開発したアルコールでもソフトドリンクでもない、新しい味覚を体験できる飲料「19 Nineteen」をヒットさせています。

発売後、ソフトドリンクカテゴリーの商品を購入するMZ世代の購入客数は、イオンリテール104%まいばすけっとでは、262.7%も伸長したそうです(22年同期比)。

辻森さんは

顧客の解像度を高めスモールマスをきちんと理解しないと、商品のヒット率を高めることはできない」

と、その重要性を強調。

…今は、人件費電気代といったコストの上昇を受けて、最終的な損益は156億円の赤字(去年11月までの9ヵ月間の決算発表)という苦しい状況となっていますが…、

PB商品の売れ行きは好調とのこと。

スモールマス戦略を研ぎ澄ませながら、商機を広げていただきたいものです。

〜ということで、本日のタイトルにあるようにマーケティングは「狭さ」に向かっています。

昨日の「N1分析」と同様に、「スモールマス」にもますます注目が集まっていくでしょう😊

本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!