「期待」は裏切られてからが勝負
column vol.969
今週は「評価会」週間だったのですが、昨日はマネージャークラスの評価会がありました。
火曜日も併せて、スタッフからマネージャークラスまで、全社員の半期の成果に向き合ったわけですが、そこで改めて「理想的な経営」というものを考えさせられます。
私の理想は、社員を信頼し、社員が高いモチベーションで自律的に仕事をしてくれることなのですが、その上で一番大切だと思っているのは「その社員に対し、何を期待しているか」を明確にすること。
本来ならば、社員自身が何を自分に期待するかを明確にし、セルフプロデュースしてくれるのが究極の理想ではあるのですが、「次の自分」そして「その先の自分」を想像できる社員ばかりではありません。
とはいえ、こちらの理想の姿を押し付けるわけにもいきません…
だから、そこは相手の判断の余白を残しながら期待する。
この後、行われる全社員を対象にしたフィードバック面談では対象となる社員だけではなく、そのメンターとも期待を共有します。
そうして、メンターに導き役を期待しながら、信頼を置いて任せていく。
社員もメンターも成長していく。
そのための期待の種を心に植えていくためのメッセージをこの後、考えていかないといけないのですが、「期待」がなぜ大切であるのか、まずはお話しさせていただきたいと思います。
期待の連続が「内発的動機」につながる
まず、モチベーションと成果の相関といえば「ピグマリオン効果」が挙げられるでしょう。
〈PRESIDENT Online / 2023年3月6日〉
これは、他人からの期待によって作業の成果が高まる心理的効果のことです。
しかし、これって「外発的動機(評価・賞罰・強制などの人為的な刺激による動機付け)なのではないの?」と思った方…
…正解です!
確かに他人からの外部刺激によってモチベーションを高めています。
ところが…!
この期待をかけられ続けることによって人は内発的動機に変えていきます。
『モチベーション脳』の著者で、脳科学者の大黒達也さんはこのように解説しています。
人間は皆、それなりに自分の長所が頭に浮かぶはずですし、その長所を活かして生きているはずですが、その長所は長年、他者から褒められて定着したものが多いはずです。
例えば、子どもの頃に人前で面白いことをやって、みんなが笑ってくれたり、「もっとやって」と期待され、「自分が面白いことをやると周りが喜ぶ」という経験が積み重なっていくうちに、「集団ではみんなを楽しませるのが自分の役目」という風に自分で無意識に認識するようになる。
そんなイメージです。
ですから、期待というのは自律性の種であるということがここで共有できたかと思います。
家族のように「期待する」
…とはいえ、そもそも「部下に期待したい点が見つからない…」と思う上司の方もいらっしゃるかもしれません。
そんな時に大切にしたいのが「家族の視点」です。
ここで若手の離職率低下に大成功した企業をご紹介したいと思います。
介護施設「元氣ジム」の運営や介護用品レンタルの「広島介護用品」といったヘルスケア事業を展開する「ミクセル」(本社:広島)です。
〈日経ビジネス / 2023年3月1日〉
同社は2022年にGPTWジャパンが実施した「働きがいのある会社」調査でランキングベスト100入り(小規模部門:従業員100名以下)を果たし、中国・四国地域における優秀企業にも選出されました。
実績としては、社員が経営理念を自分自身の経験に落とし込んで発表する「日替わり社長」などのユニークな取り組みで2022年度の離職率を前年比約5%低下させることに成功しています。
こちらの企業がモットーとしているのが「大家族主義」です。
つまり、社員を家族のように考えるというわけです。
例えば、上司のその言葉は自分の子どもだったら言える言葉なのかを考える。
そして、その上司の姿は自分の子どもに対して見せられる姿であるかを考える。
そういった意識づけです。
そして、もしも家族なら、子どもに期待しない親はいないでしょう。
なぜなら、子どもは掛け替えのない存在だからです。
普段から働いてくれることに感謝し、掛け替えのない存在であると再認識すれば、今まで見えてこなかったその人の良さが見えてくるはずです。
もしかしたら、ボヤっとかもしれませんが…(笑)
少なくても、部下に無関心だったり、ネガティブな感情を抱えていると、期待は一向に見えてこないのです。
「裏切られること」を前提とする
とはいえ、期待は裏切られるもの…(汗)
そんなに上手くはいきません。
それはこちら側の課題でもありますし、そもそも自分が期待した通りに相手が行動し、成長することなんて、なかなかないわけです。
そこで参考にしたいのが、WBC優勝に導いた栗山英樹監督の「尽くし」の精神です。
栗山監督の『栗山ノート』には、このように書かれています。
〈STUDY HACKER / 2023年3月24日〉
栗山監督は近年注目されているサーバント(奉仕型)リーダーである言われていますが、尽くして導くことで必然的に主体性が生まれ、部下は自ら考えて積極的に動くようになります。
ただし、ここで気をつけないといけないのが「尽くし方」です。
ただ単に関与しようとするのは「過干渉」になってしまいます。
時に待ち、見守り、転ばせることも重要です。
それは家族も同じですね。
先回りして、いろいろなことを提供しようと子どもから嫌がられるはずです…(汗)
「尽くし方」がカギになる
栗山監督といえば「高いコミュニケーション能力」が代名詞的に言われていますが
というメディアの質問に対して、ことごとく
と答えていらっしゃいました。
その心の内をメディアが尋ねると
ということでした。
相手が望むことを望んだタイミングで提供できないとマイナスになる場合もあるわけです。
まずは期待し、ちょっと違うなと思ったら気づきを与えて、様子を窺う。
相談されたとしても、なるべく「自分で解決した」という結末になるように導いていく。
あくまでも相手本意に尽くしていく。
少なくても「あの上司は私のためにいろいろ尽くしてくれている」と評価されたいなんて思ったら元も子もありません。
あくまでも
なのですから。
そういった理想を叶えるためには、やはり「愛情」と「信頼」を持ち続けるしかない。
逆に何かしてあげること以上に、その気持ちを持ち続けることの方が必要なのかもしれません。
大家族主義を掲げるミクセルの島幸司社長はこのように仰っています。
その幸せを追求する土台が会社にあるならば、そこは家族のように「愛情」と「信頼」が溢れていないといけません。
そういった会社づくりをリーダーやマネージャーが築くことができるのか?
自律型組織の実現は、そんなところがカギなのではないかと思っています。
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