第一章の続き 2つめ

10月18日。午前7時45分。弾道弾発射30分後 朝鮮半島38度線

 朝鮮人民軍の多くは徒歩で38度線を越えていた。今の文政権になってから親北融和路線に転じており、国境地帯の地雷や歩兵哨所であるGPが撤去されている、そのため韓国軍の防御陣地の多くは塹壕に土嚢の簡易陣地だ。
しかも今は、反撃は禁じられている。韓国軍の多くの将兵は命令に従い、武器や弾薬を持って退却を始めていた。
 朝鮮人民軍は、韓国軍の撤退を確認すると、その陣地を占領していく。米軍も、撤退を始めていた。交戦はしないが、何時でも交戦できるよう戦闘態勢で撤退を進める。
 一部の韓国軍が越境してきた北朝鮮軍に対して攻撃を行ったが、周囲からの援助も無く孤立し、北朝鮮軍の人海戦術の前に沈黙している。
 韓国軍が撤退したところを埋めるようにじわじわと進むため、進撃は極めてゆっくりであり、急いでいるような素振りすらない。
 在韓米軍は、陸軍の第8軍と第7空軍が主体である。海軍は第7艦隊が担当しているが、第7艦隊の拠点は日本、グアム、ハワイにあり、韓国に駐留しているのは、僅かな補給や連絡用の人員だけだ。
 米軍は今や韓国防衛を完全に放棄していた。当事者の韓国が防衛を放棄しているので当然だ。陸軍第8軍の主力部隊である第2師団を始めとした陸軍部隊は、陸路でソウルの南にある平沢市のキャンプハンフリーズ目指して撤退を進める。釜山が近い部隊は釜山港に向かう。
 このキャンプハンフリーズには港も備わっており、第7艦隊の艦艇がこの港で部隊を収容し、在日米軍基地まで送り届ける予定だ。
 空軍は自力で飛べる航空機は自力で在日米軍基地に、整備部隊等は輸送機へ乗れるものは輸送機で在日米軍基地へ、それ以外は陸路でキャンプハンフリーズ又は釜山港を目指すことになっている。
 搬送に時間が掛かるものなどはやむを得ず破壊措置を講じる。
 朝鮮半島上空では、在日米軍の第5空軍、第7艦隊の艦載機、それに岩国の海兵隊航空隊からも戦闘機が飛来し、撤退する在韓米軍を上空から援護する体制を取っている。
 米軍にとって、韓国軍は既に仮想敵国になっており、韓国軍空軍基地上空でも米軍機が警戒飛行を続けている。
 在韓米空軍である第7空軍の戦闘機は、嘉手納、岩国、三沢基地へ分散して受け入れられる予定だ。日本政府は早々に許可を与えている。
 米国政府は在韓米軍撤退に際して、韓国政府に撤退する米軍を警護するように要請していたが、韓国政府は十分な回答をせず、米国政府の怒りは頂点に達している。
 そのような状況のため、米軍は自力での防衛を決断し、大規模な航空戦力を朝鮮半島に戦闘状態で展開させているのだ。その上で米軍は韓国政府に通達を出していた
「撤退する我が軍およびその家族が攻撃された場合、躊躇なく空爆等の防衛行動および反撃を実施する。その場合は民間に被害が出る可能性があるため、韓国政府におかれてはそのような事態にならぬよう、周辺警備に万全を期して欲しい。」
事実上の最後通達であった。実際米軍は、北朝鮮軍や、韓国軍または韓国内のテロリストが米兵やその家族を攻撃した場合は、韓国軍もろとも徹底的に叩き潰すつもりで準備を進めているのだ。

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