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進路のその先

「今あなたが大学でしている勉強は、就職活動に繋がりはあるのかな」
インターンシップの面接で、少し遠慮がちにこう聞かれた。ちょっと言い淀みそうになりながらも、
「いえ、正直繋がりは全くと言っていい程ないです。進路を選ぶ際にも、その点は悩んだのですが」と答えた。
面接官は、
「なるほど。いやいや、それに関しては全く問題ない。それもひとつのきちんとした選択だと思う」と目を見てはっきり伝えてくれた。
それはとてもほっとしたし、嬉しいことだった。

進路を選ぶ時、すごく悩んだ。

大学にエスカレーターで繋がっている高校だったため、そのまま進学することを望んだ。問題は進む学部だった。成績は充分あったためどこの学部にも進むことができた。
私の興味分野を広くカバーする学部は、文学部だった。高校生ながらアイデンティティに興味を持ったこともあって、私が学びたいという範囲を抑えている専攻も実際にあった。

けれど、そこに進むのは少しだけ勇気が要った。というのも、他の学部の方がブランド力が圧倒的に強く、文学部はその点でとても人気がなかったのだ。文学部に近い内容に興味のある友人達も「文学部に進みたいと思えるほど興味があるわけじゃない」と言って、ブランド力のある学部を選んでいた。
そんな私も、どうしてもアイデンティティについての探究をしたいかと言われたら、その時点でそうだと言い切るのはまだ難しかった。興味が移ろいゆく可能性もある中で、やっぱり興味がなくなってしまった、こんな風になるんだったらブランド力のある学部に進んだ方が良かった、だなんて思うのもつらい。

それでも私は他の学部にこれといった魅力を感じられなくて、文学部に進むことにした。元々文章を書くことや本を読むことがすごく好きだったことも最終的にはポイントが高かった。つらい時に私を救ってくれるのは、国際教養でも経済でも法でもなく文学だ。それならば、という気持ちがあった。

大学が始まってみて、文学部に進んで良かったと思うことはよくあった。自分のベクトルにあっていたし、他の学部の内容には興味をそそられることはやっぱりなかった。
それでも、知り合いや教授にまで「成績が足りないから文学部に来たと思っていた」と言われることもあって、「文学部なんだ」と言うのを少し嫌がる自分がいた。

就職活動においても、マーケティングや経済学のように直接職につながるような内容も少ないし、同じ風に「やむを得ず文学部に」と思われるのも嫌だった。そんな邪悪な気持ちがもくもくと湧き出るたびに、「それでも私は文学部に愛着があるんだ」と、小さい子を守るように、進路選択をした自分をかばっていた。

その面接は、小さな棘をちょっとずつ飛び越えてきた自分が、他人にさくっと認められた瞬間だった。色んなものを捨てて、一つのものを選んだ自分。周りからどう思われるか気にすることを、必死に打ち消していた自分。他の人と比べて勝手に気後れしていた自分。
傷ついたり、安らいだり、心を動かされたりした学生生活での勉強は、自分の糧としてどんな場所でもキラキラと輝けるんだ。そう思ったら、新学期が少しいとおしくなった。ありがとう、頑張って選択をした自分。3年前に戻って、不安定な自分にこっそりと耳打ちしたい。大丈夫、そのまま進んで、と。

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