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#04 ゴルトベルク変奏曲 BWV988 アリア

3日前、妻が出て行って独身生活に戻ってしまった。



突然単身の背景

これには理由がある。

うちの子供の出産予定日は11/11(月)だったが、その日の段階ででまだ産まれていなかった。
その日病院で検診を受けると、

産道の準備はまだ40%くらいしかできていない
自然分娩するにはもうちょい体動かしたりして産道が開くのを待つ必要あり
それでもまだなら入院して誘引するしかないのでは


と先生からの仰せ。

その診断に対し妻から、お腹に抱えておくのしんどいから誘引してほしい、との談。
こんなに急に言うとは思わなかったけど、
確かに「妊婦でいる」というのは、とてもハードである。
僕も横で十月十日ほぼ毎日見てきたが、あれは生半可なものではない。
さっさと産んでしまいたい、という妻の気持ちはわかる。

そんな流れで昨日から入院、僕は家で一人になった。


咳をしてもひとり

妻が出産にあたって遅かれ早かれ入院することは既定路線だったので、
どこかで独身生活が再開することは決まっていた。
しかし急に始まってみるとなんだか生活に張りがないというか、
あんまり楽しめていない。

僕は40手前にして免許を取得したばかりの新人ドライバーである。
あと地図を読めない男でもある。

横に妻を乗せて、運転に関し逐一フィードバックを受けながら運転することはあるが一人で運転する機会がほぼなかったのでまだ緊張する。
お見舞いも含めて日中、けっこう車で動き回る機会がある。
帰ったらどっと疲れていることも多々。

以前の仕事を辞めるため、逃げるように休職に入った7-8月も
日中は家で一人だった。
が、朝は一緒に起き夜には妻が帰るので
それまでに家事はやっておこうという意識があった。
食事も朝と夕は彼女に合わせて摂るのでリズムが存在した。

今回はそれがないので、食事も家事も自分次第、おざなりになる。

あと、不安なのか退屈なのか妻からたくさんLINEが来る。

基本は弱音みたいなものなので励ます返信が多いが、
初日にしてCheer-Upボキャブラリーが枯渇した。
以降はあっさりめの返答しかできなくなってしまったので、
夫婦間がLINEのせいで冷え込む前に早期の出産が待たれる。


誘引は[物]と[薬]

しかし、妻の妊娠誘引の処置について聞くと大変なのは理解できる。
妊娠誘発は赤ちゃんの様子を見つつ、【物理】と【薬剤】の二方面から行われる。

赤ちゃんの様子を見る処置をモニターといい、それが頻繁に実施される。

聴診器みたいな器具をお腹に二つつけ、そこから伸びたコードが機械につながって鼓動と陣痛の様子観察する。
20~60分程度そのまま横たわる。
赤ちゃんの心音と陣痛レベルで、生まれてきてOKかどうか?を見るらしい。

その後、今のところ妻には【物理】の処置が施されている。
【物理】の合間にもモニターをしている。
今回のケースで言う【物理】とは何か?

正しくは【メトロイリンテル】というらしく、子宮口に風船を配し、そこで風船をふくらませて産道を開くらしいのだ。なるほど思っていたより物理だ。
これをここ2日間、午前中に処置開始し、夕食後までつけっぱなしだったらしい。お医者さんと妻曰く「陣痛くらいの痛み」らしい。
そりゃそうだ。聞いただけで僕までげっそりした。

ここ2日間でだいぶ産道が開いたらしく、入院前の産道の進捗が4割程度だったのに対し昨晩の段階で9割5分程度になったそうだ。さすが物理。

今朝から【薬剤】の方向、点滴になるらしい。大変だ。
これはまだあまり詳しくないので、お見舞いの時に聴く予定。

すでに予定日から4日経過、これ以上母体に負担かからないようにストンと生まれてきてほしいのだ。


してよ保険診療

大変なのは痛みだけではない。

妊娠は40週間くらいが目安。

42週間を過ぎても生まれなかった場合、子宮内の羊水が減少し胎児が危険になる。
あるいお腹の中では4,000gを超えた「巨大児」という育ち方も
母体に大変負担なので人為的に誘発をしないといけない。
場合によっては帝王切開も検討することになるという。

なので妊娠誘発が必要なのだが、我が家は今回どちらにも当てはまらない。
どちらかというと自発的な誘引志願である。

何が言いたいかって、上記の処置は今回は保険適用外なのである。
処置のやりようによっては通常の出産費用とは別に20万円くらいかかる。
現在無職の僕も、赤子が生まれる前に入院しそうになってしまった。
もちろん日ごとの入院費用も別途かかるので、
ASAPで生まれてきてほしい、というのが本音である。


出産玄人の仕事

そんなことを考えつつも、今日も妻の見舞いに行く。
片道30分、緊張の一人運転で向かう。
コロナの関係で15分間しか会えないのだがリラックスもお産に関係するらしいので外せない。
また片道30分ほどかけて帰る。

入院は悪いことばかりではない。

出産は陣痛開始から半日以上かかるとのことなので、
通常の段取りだと家で陣痛が発生して、
苦しみ続ける妻を励ましながら
陣痛の感覚が狭まったら悶絶する妻を乗せて病院に向かい、
そこで出産が終わるまで立ち会うというのが流れだ。

もし家で破水でもしたらビニールシートを敷いて車に乗せて、という項目もプラスされるのだが、初めての経験であり果たして冷静にできていたかわからなかった。

今回、そこの陣痛発生が病院側で看護の中で観測される。
お産のプロである助産師さんのアドバイスを受けながら
出産の手前・陣痛間隔が10分未満で起こり始めたら僕に電話がかかってくる予定だ。これは僕の心の準備ができる、という点でちょっと気楽になった。

僕のテンパりによる妻の心理的不安も軽減されているはずなので、はリラックスしてどーんと産んでいただきたい。


そして父母になる

まあその辺も含めての出産費用としましょうか、というのが僕らの最終納得ラインである。

どうか早く、無事に生まれてきてほしい。
つつがなく妻を母に、僕を父にならせてくださいというのが今の偽らざる感情だ。がんばろう母と子。

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