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千雪さん・透さん・美琴さんに、ライムスターの楽曲を勝手に託す

 ミュージシャンの既存の楽曲タイトルを、アイドルのカードタイトルにあてる遊びが


した~~~~~~い


(【今夜はブギー・バック】三峰結華 ←こういうやつ)

けど、みんなが託している曲が


まったくわからない


 なぜなら、
中学生の頃から「RHYMESTER(ライムスター)」しか聞いてこなかったから


RHYMESTER
日本のヒップホップグループ
(左からDJ JIN、宇多丸、Mummy-D)

 みんなが音楽の話をしているときの疎外感がすごくて寂しい。どんな音楽であっても選曲の妙味が分からない。

 こうなったら、シャニマス×ライムスター託しを自給自足するほかに残された道はないんです……。

(※『薄桃色にこんがらがって』、『天塵』、緋田美琴W.I.N.G.編」、同「ファン感謝祭編」、『モノラル・ダイアローグス』の内容の言及があります)

(※曲名のリンク先はGoogle検索です)

【前略】桑山千雪

アルバム『ウワサの真相』(2001年)収録

前略』はその題名の通り「手紙」をテーマにした曲です。手紙の宛先は、過去の自分自身。「若かった頃の自分に宛てた手紙」という形式を取っています。

前略 ブルーなケツしたナイスガイ(オレだ)
チマチマ悩めるナイスガイ(オレだ)
確か 十何年か前のオレだ お前はオレだ
前略 背伸びしたがるナイスガイ(オレだ)
誰かによく似たナイスガイ(オレだ)
確か 十何年か前のオレだ お前はオレだ

「前略」フック

かつての「オレ」=「お前」の青臭さをバカにしながら、でも、あのときの「お前」は間違いなく「ナイスガイ」だった!という「オレ」への賞賛が歌われています。

 このフックが表すように『前略』は、自分の過去・出自を、愛憎入り混じった感情とともに肯定する作品です。
(この点において"自分が自分であることを誇る"というヒップホップのエッセンスを有している)

 フックのあとにつづくMummy-Dのヴァースも感動的なので全文を引用したいくらいですが、ここでは宇多丸のヴァースの一部を見ましょう。歳を重ねた自分からすれば いたたまれない気持ちになる若い日の思い出が、リリックに綴られています。

おい 気になって しょうがねぇべ 他人の目
今となっちゃ そんなもん へでもねぇ
そこらの雑誌とか読んで しょうもねぇ
一語一句が お前にとっちゃトドメ
なんせ なんのメドもねぇ ただ とめどもねぇ
夢 フカすだけで 当然 芽でもねぇ
早い話が よくいる フツー の中坊
お前の取り柄は 唯一 無数の希望
言い換えりゃ 選択肢は無限大だ
例えば今とは 異なる現在が待ってるかも!後は任せた!
P.S. そのシャツ何? マジ だっせーな!

「前略」宇多丸ヴァース

 まず、もちろん「そこらの雑誌とか読んで しょうもねぇ/一語一句が お前にとっちゃトドメ」という箇所。ここから、雑誌『アプリコット』読者である桑山千雪さんの姿が思い浮かびます(オタクの妄言はじまります)

『薄桃色にこんがらがって』第1話「アプリコット」

『薄桃色にこんがらがって』では、千雪さんが雑誌『アプリコット』の愛読者だったことが語られています。この雑誌が、雑貨屋店員として、アイドルとして、桑山千雪という人間を形づくったものであることがうかがえます。

第1話「アプリコット」

 千雪さんは宇多丸のリリックにあるトゲのある自虐こそしないものの、昔の自分と折り合いがついていないことは同様でしょう。そのことが『薄桃色にこんがらがって』での葛藤の一因となっています。

 さて、雑誌カルチャーという出自の共通点のほかにも、この曲を千雪さんに託したくなる理由があります。

 『前略』は、「過去の自分」に宛てられた手紙であるとともに、また、彼らより若い世代のリスナーに宛てて書かれているとも言えるでしょう。ある種の「若者への応援歌」的な楽曲でもあるのです。
(このことは、この曲が、ライムスターより20歳近く年下のヒップホップグループ「Creepy Nuts」の愛してやまない一曲となっていることを見ると、よくわかります)

 年長者が年少者の至らなさも肯定し、エールを送るという図式が『前略』にはあるわけです。これは、千雪さんと、甘奈さん・甜花さん姉妹との関係に重なるものではないでしょうか。

 過去の自分へと向けた恥じらいつつの肯定と、その裏にある今の若い世代に対する応援。『前略』という曲がもつこの二つの方向は、アルストロメリアの千雪さんにぴったりだと思っています。

【フォロー・ザ・リーダー】浅倉透

アルバム『グレイゾーン』(2004年)収録

『明るい部屋』第3話「ラブコメ」

 浅倉透さんというアイドルのちょっとした特色に「どういうわけか政治ネタが用いられがち」というものがあります。たとえば、【かっとばし党の逆襲】のコミュタイトルが自民党の党歌をもじったものらしかったり、【チョコレー党、起立】に政治の用語が使われていたりする。だけどコミュの内容には関係がないので、制作陣の真意はわかりません。

 少なくないヒップホップのアーティストがそうであるように、ライムスターもまた政治に意識的(コンシャス)なグループです。彼らの問題意識は、「全体に左右されて個人がないがしろにされる状況」にあると言えるでしょう。

 この曲、『フォロー・ザ・リーダー』も全体主義批判のリリックが特徴です。強いリーダー=独裁者の登場への危機感と、にもかかわらずその実現を望むかのような世論への皮肉が歌われています。

「政治」というで浅倉透を結びつけていくのは無粋というかヤバいのでここらでおいておきましょう。この曲の内容を説明しましたが、私がこの曲を浅倉さんに託す理由はもっぱらタイトルが合うと思ったからに過ぎません。

 さて、私の記憶が間違っていなければ、ノクチルというユニットが浅倉透ただ一人に依っていることの危うさが指摘されていた時期があったと思います。最初のイベコミュ『天塵』からそのような危うさを感じ取っていたのだと思います。

 『天塵』での小糸さんのモノローグの抜粋です。

「『かっこいいじゃん』」
「って透ちゃんが言った/その『私たち』に──」
「わたしもいる」
「透ちゃんがかっこいいって言ったら/それはもう、かっこいい」
「透ちゃんが笑ってたら/みんな、笑っちゃう」
「雛菜ちゃんも、/円香ちゃんだって笑っちゃう」
「透ちゃんが/行こうって言ったら」
「それはもう」
「走り出すのに十分──」
「遅れないように……」
「置いてかれないように……/しなきゃ」

第2話「視界Ⅰ」

『天塵』のなかで、小糸さんはこの心情を円香さんに伝えます。それをうけて円香さんは「……浅倉はどうなの」「浅倉を追いかけるって」と言葉にします。ノクチル四人の中でも、透さんが中心の人物として先頭にいることが共通の認識になっているわけです。

 その後のイベコミュ『海へ出る〜』や『さざなみ〜』『天檻』を経て、浅倉さんが中心として描かれることは少なくなったように思います。存在感は相変わらず異質ですが、おおむねノクチルがユニットとしてどう活動するかが語られてきているように思います。さらに、各人のカード・プロデュースシナリオが実装されて、四人それぞれの活動が描かれてきているため、「ノクチルというユニットが浅倉透ひとりに依存している」という見方は妥当でなくなってきているでしょう。樋口さん小糸さん雛菜さんらも、浅倉さんの意向とは独立したかたちで、それぞれアイドル活動に対する姿勢を築いています。

 とはいえ、『天塵』での浅倉さんの立ち位置を見るなら、やはりユニットの成立のはこびが幼なじみ三人が浅倉さんを追いかける形であったことには変わりないように思います。このことが再びストーリーに浮上してくることもありえなくはないでしょう。以上、あくまでそのような可能性を考慮するなら、浅倉透さんに『フォロー・ザ・リーダー』を託すかな、という話でした。

【サイレント・ナイト】緋田美琴

 アルバム『Bitter, Sweet & Beautiful』(2015)収録

 最後の託しです。『サイレント・ナイト』は、皆が寝静まった家でひとり起きて、リリックを書く夜を歌っている曲です。「現場」から家に帰ったあとの、ラッパーのごく私的な瞬間。しかしその瞬間こそがラッパーを表現者たらしめているとでもいうような瞬間を切り取っています。

眠らぬ街の眠れぬ夜に
コトバの神よ与えたもうひらめきを
何か産まれそうなそんな気がしてる
きっとあともう少しあともう少しあともう少しで

「サイレント・ナイト」フック

 この曲の次の宇多丸のリリックを耳にするとき、私は緋田美琴に関するいくつかの要素を見出してしまいます。

ひとりがさびしくないのはひとりじゃないからさ
いつだって会えるとまた疑っちゃいないからさ
たとえばキミが出したのがオレとは違うアンサーでも
星の下 似たステップを踊り続けるダンサー

「サイレント・ナイト」宇多丸ヴァース

 まず、夜遅くまでレッスン室で練習を重ねる美琴さんの姿。美琴さんの「W.I.N.G.編」は、四シーズンのうち三シーズンのコミュが夜のレッスン室を舞台にしています。「走馬灯」のほとんどにレッスン室が写っていたという美琴さんの話もうなずけます。また、『サイレント・ナイト』の夜の冷たい空気を存分に表現している静謐なトラック(PUNPEEが手がけている)は、【CHILLY】でのレッスン帰りの冬の夜道を思い起こさせるようでもあります。

W.I.N.G.編「sincere」
W.I.N.G.編「my name」

 さらに、「たとえばキミが出したのがオレとは違うアンサーでも星の下 似たステップを踊り続けるダンサー」というリリックからは、斑鳩ルカさんとの関係を思い浮かべます。

 美琴さんは、「違うアンサーを出し」て別れてもなお、ルカさんがパフォーマンスを続けていることをどう思っているのでしょうか。

 かつてのステージの再挑戦にこだわる「ファン感謝祭編」での美琴さんを見ると、美琴さんにとっても過去への未練はそう簡単に捨て去れないことがうかがえます。しかし、その感情がルカさんという人間にも向いているかどうかは定かではありません。ルカさんの直接的な感情の吐露に比べて、美琴さんがかつてのパートナーであるルカさんにいかなる感情・評価を抱いているかは分かりません。そして、このことは現在のパートナーのにちかさんに対しても同様であることが『モノラル・ダイアローグス』で描かれました。

 さて、『サイレント・ナイト』という曲はごく私的な曲ですが、歌詞に「ひとりがさびしくないのはひとりじゃないからさ」とあるように、どこかで孤独な魂たちは互いに触れ合っている、という奥底での連帯の姿勢が、同時に歌われています。それは美琴さんが(まだ)持ちえていないものではないでしょうか。

 現状、美琴さんに関して注目したくなるのは「北海道への帰省の体験がいかなる変化をもたらすのか」ということに尽きます。では、レッスン室での美琴さんの「サイレント・ナイト」はどうなるのでしょう。私の関心は、美琴さんの深夜の自主レッスンがどう変化するか、ということにあります。

 シーズとして七草にちかさんのパートナーであるためには、またルカさんとの関係が絶たれないためには、今までの美琴さんのままでは限界があるということが描かれていました。もちろんただ二人や集団でレッスンをすればいいというのでもないことも明らかです。

「W.I.N.G.編」では、美琴さんというアイドルにとって、レッスン室でひとり長時間 鏡と向き合うことは、美琴さんがアイドルでいるための条件のようなものであることが描かれたのではないでしょうか。もしそうであるなら、美琴さんがアイドルである以上はそのレッスン室での孤独は孤独のままであらざるをえません。となると、その孤独に対する姿勢だけを変更するほかありえません。そしてそれは、私的な夜の孤独を通じて、同じ夜空の下に存在する他の孤独に触れるというかたちになりえるのではないでしょうか。

 以上、これからの緋田美琴さんに向けて『サイレント・ナイト』を託す、という話でした。

おわりに

 以上、千雪さん・透さん・美琴さんに託しました。無事に欲が満たされました。カラオケでシャニマスとライムスターしか歌えない人生ですが、貫き通すしかありません。

 以下、布教するだけのコーナーです。

 ライムスターが初めての方には、現時点で最新のアルバム『ダンサブル』をおすすめします。全体主義だの孤独だの言ってきましたけど、このアルバムに収録されているのはちゃんとカラッとしたラップです。「Back & Forth」とか、MC二人だからこそのかけ合いがなかなか珍しいですよ。

 ただ、個人的には、2015年のアルバム『Bitter, Sweet & Beautiful』がもっとも〈シャニマス〉だと思っているので、こちらも何卒……。収録曲の「人間交差点」のリリックを聞いてもらえると嬉しいです。

 どんな人が読んでいるかは分からないので、シャニマスが初めての方にも、シーズの『L@YERED WING 08』をおすすめしますね。


 

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