ていたらくマガジンズ__81_

阿吽昇天:装震拳士グラライザー(68)

「……で、だ」

 敵から奪った剣を喉元に突きつけたまま、俺は変身を解除する。

「リュウ。お前を蘇らせた黒幕は、誰だ?」

「ゲホッ……はは……息上がってるの初めて見たなぁ、グラライザー」

 この状況でなお、そいつはペテン師めいた笑みを浮かべている。

 人造人間リュウ。

 世界征服を目論む秘密結社<イザナギ>の大総統にして、俺の最強の宿敵だった男。

 そう。宿敵、だった。

 ──50年前までは。

「痛てて……にしても強えーなおい。今いくつだ? 70歳くらいか?」

「68だ。いいから答えろ。ジジイは気が短けぇぞ」

「誤差じゃねぇか。痛ってて……」

 リュウは喉元の刃を雑に払いのけて起き上がり、胡座をかくとこちらを睨めあげた。

「で、黒幕がなんだって?」

「とぼけんな。再生怪人が出てくるからにゃ、黒幕がいるだろ。そいつは誰だ。お前の尊厳のためにもぶっ潰してやるから、言え」

「怪人が生き返ったくらいじゃ驚かねぇか。年の功だな」

「てめっ──」

「まぁ落ち着け。気持ちは嬉しいが、今回はそういう話じゃない」

「……ンだと?」

「さっきのは腕試し。そんでこっからは……頼みごとだ」

 そう言うと、リュウは不意にペテン師めいた表情を引っ込め──神妙な面持ちで、その名を口にした。

「立花徳之助を、助けてほしい」

「は?」

 立花、徳之助。

 腐っていた俺の性根を叩き直し、正義の心を教えてくれた魂の師。俺の、おやっさんの名だ。しかし──

「待てよリュウ。おやっさんは」

「ああ。50年前、俺が殺した」

 リュウはあっさりと頷く。これはこれで思うところはあるが、それはさておき。

 ──おやっさんは、もう死んだ。

 それを、助ける?

「……話が見えん」

「徳さんは今、死後の世界にいる」

「死後の……っておい、ちょっと待てなんだ徳さんって」

「いいから聞いてくれ、グラライザー。いや、千寿 菊之助」

 そいつは胡座をかいたまま俺の名を呼び、両拳を地について頭を下げた。

「頼む。俺と一緒に、天国にきてほしい」

(つづく/800文字)

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