21XX年プロポーズの旅 (2)
(承前)
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──俺の国は、地球の5割を支配する大国だ。唯一の王政国家であるため、単に"王国"と呼ばれている。
──不本意ながら、"王国"は現在、前代未聞の大事件に見舞われている。国宝・ムーンフォースリングが盗まれたのだ。
*
司令室には苛立った空気が流れていた。俺は円卓に座り、事態を見守っている。
「……まだ捕まらんのか!」
軍の司令官が叫び、テーブルを粉砕した。彼の左腕のガトリング義手がガチャリと音を立てる。
「まあまあ落ち着きなされ、司令官殿」
兵士を震え上がらせる司令官を、参謀の翁がなだめる。すぐさま、「なァにィ!?」と怒りの矛先がそちらに向かった。
「落ち着いていられるか! 地球が滅ぶかもしれんのだぞ!?」
「だからと言ってここで怒鳴ってても仕方なかろうて」
「なんだとこの日和見ジジイ!」「なんじゃとこの筋肉バカめ!」
「まーたはじまった……」
俺はため息をついた。この二人はいつもそうだ。言うだけ無駄なので、俺は黙って成り行きを見守ることにした。
「月光を蓄えたアレが世界の7割を砂に変えたのを忘れたとは言わせんぞ!?」
「あれは月の光がなければ活性化せん。幸いに今日・明日は新月──」
司令官と参謀の言い争いを止めたのは、駆け込んできた兵士の足音だった。
「失礼します! 伝令です!」
「入れ」
俺は二人を黙らせ、伝令の兵士を部屋に招く。
「調査部隊から報告です! 容疑者のクラーケン族が、ターミナルにて発見されたとのこと!」
「……ターミナル?」
国外逃亡どころか、星間逃亡を企てていたのか。手際といい準備の良さといい、犯人は油断ならない男のようだ。
「そ、それで、族は捕らえたのか!?」
司令官が兵士の報告を急かす。伝令兵はヘッドマウントディスプレイの情報を正確に読み上げた。
「対象は、月面行きの星間バスに搭乗する姿が目撃されております」
「はぁ!?」
司令官が叫んだ。参謀の翁は椅子ごとひっくり返っている。
「おいおい……」
月明かりだけで地球が大惨事になったようなものが、現在直接月に向かっている。
なにが起こるか、神すらも想像できないだろう。
事態は間違いなく最悪の方向に進んでいる。かくなる上は──
「……俺が行こう」
俺は立ち上がった。即座に、ジジイ二人が騒ぎ始める。
「お、王子! いけませぬ!」
「この爺の言う通りです王子! 犯人の目的が不明なままでは危険すぎます!」
「ムーンフォースリングを強制停止できるのは王族のみだ。他に手はないだろ」
「し、しかし……!」
俺は手でそれを制し、傍らの剣を手にした。そして、伝令の兵士に指示を出した。
「月に発つ。30分以内に準備しろ!」
(続く)
続き
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