碧空戦士アマガサ 第2話「オイラの憂鬱」 エピローグ
前回までのあらすじ
傘銃カラカサを手にした湊斗と、大扇子リュウモンを手にした晴香。疾風怒濤の戦いを経て、アマガサの放った蹴りは<鉄砲水>を打ち砕いた!
- エピローグ -
<時雨>からの連携を受けて駆けつけた警察による現場検証が続く、ショッピングモール。中庭には支配人や警察官、目撃者、野次馬など、多くの人が集まっている。
そんな中庭の真ん中で、晴香は膝を抱えていた。目の前には散乱した衣類や日用品──自分たちが購入し、戦いの最中でぶちまけたものだ。
「あーあ。ぐっちゃぐちゃだ」
屈んだまま、泥だらけの服をつまみあげて肩を落とす晴香。そんな彼女の後ろから、歩み寄る影ひとつ。
「晴香さん、ちょっと良いですか?」
晴香は振り返る。果たしてそこに立っていたのは、カラカサを携えた湊斗であった。
「ん。湊斗か。お疲れさん」
湊斗は「どうも」と答え、立ったまま晴香に声をかける。
「ちょっと話というか、相談があるんですけど」
「…………」
敬語で話しかけてくる湊斗に、晴香は答えずにジト目を向ける。湊斗は戸惑い、首を傾げた。
「? どうかしました?」
「…………お前、タキにはタメ口だったよな」
「えっ」
突然のその言葉に、湊斗はしどろもどろになりながらも言葉を絞り出す。
「えーっと……なんか、ノリでそうなったっていうか」
はたから見れば浮気の言い訳でもしているような風景だ。晴香は渋い顔で口を開いた。
「私にも敬語なんて使わなくていいんだが。見た感じ歳も近そうだし」
「え、いやでもタキさんは敬語──」
「あいつは舎弟だからな」
言いながら晴香は立ち上がり、「それに」と言葉を続けた。
「お前猫かぶってんだろ。雨狐には言葉遣い汚ねぇもんな」
「う……」
『あはは、バレてる』
言葉に詰まる湊斗を、カラカサが笑った。そんなふたりを横目に、晴香はびしょ濡れの紙袋を手に歩き出した。話の腰を折られてしまった湊斗は、手近な紙袋を拾い上げて晴香についていく。
「それよりもだ」
晴香は、湊斗がなにか言いたげなのをお構いなしに話しかけてくる。
「お前ら、雨狐の目的についてなんか知らないか? "捜索"がどうの、褒美がどうのと喚いてたよな」
「あー。言ってたのは覚えてるんですけど」
「敬語」
「あ、はい……うん。覚えてる、んだけど」
わたわたと言葉を選びながら、湊斗は考え、答える。
「"捜索"とやらの心当たりはない……かな」
「そうか……」
晴香は歩きながら、顎に手を当てて思案する。湊斗はそんな彼女に向かって言葉を続けた。
「ただ、長いことあいつらと戦ってて、なんとなく思うところがあったりもするんで……まぁ、落ち着いたら話しま……話すよ」
「ああ、頼む」
ニヤニヤと笑いながら、晴香が頷く。深呼吸ともため息ともつかぬ息を吐き、今度は湊斗が話を向けた。
「で、えーと……晴香さん、ちょっとお願いっていうか……えーっと、相談っていうか……」
「ん」
──さて、なんと言ったものか。
思案しながら、湊斗は「あー」と言葉を濁しつつ、言葉を選ぶ。
「……えっと。今回の事件、結構いろんな人が見てるじゃない? 雨狐とか」
「そうだな」
「実際に被害にあった人もいるし……それで……」
正義感の強い晴香のことだ。伝え方を間違えれば怒られるかもしれない。
湊斗はびくびくしながら、相談を──"この場にいる人の記憶を消したい"というその言葉を、持ち出そうとしていた。
「えーっと」
「……なんだよ」
上手い言い訳が浮かばない湊斗に痺れを切らしたのか、晴香は立ち止まって振り返った。
そして胸ポケットから小さな紙を取り出し、湊斗に向かって紙面を見せる。
「100万円の請求が来てるんだが」
「えっ」『げっ!?』
晴香の手にした紙──請求書に書かれた金額を見て、湊斗たちは悲鳴をあげた。晴香は紙片を印籠のように翳したまま捲し上げた。
「今回の事件、運よく死亡者はいない。怪我した奴も掠り傷程度で済んでいる──」
晴香はそこで言葉を切ると、息を吐き──ふいっと目を逸らした。
「……いいか、目を瞑ってやるから、5分以内になんとかしろ。"いつもみたいに"な」
「え、それって──」
「わかってるとも思うが、私たちの記憶まで消したらぶっ飛ばすからな」
晴香はそう言うと、中庭の入り口付近にいた相棒──タキの方へと歩き出した。その後ろ姿を見ながら、湊斗は思わず吹き出した。
「全部、お見通しだったね」
『すごいね、姐さん……』
そんな会話をしながら、湊斗は相棒と共に、"記憶改竄"の準備をはじめる。
──こうして、この事件もまた迷宮入りの<超常事件>として処理されることとなる。
雨上がり、虹がかかった空の下、その秘密を知る四者は互いに視線を合わせ、片眉をあげるのだった。
- 第2話「オイラの憂鬱」終わり -
(第3話につづく)
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