ていたらくマガジンズ__12_

碧空戦士アマガサ 第2話「オイラの憂鬱」 エピローグ

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前回までのあらすじ
 傘銃カラカサを手にした湊斗と、大扇子リュウモンを手にした晴香。疾風怒濤の戦いを経て、アマガサの放った蹴りは<鉄砲水>を打ち砕いた!

- エピローグ -

 <時雨>からの連携を受けて駆けつけた警察による現場検証が続く、ショッピングモール。中庭には支配人や警察官、目撃者、野次馬など、多くの人が集まっている。

 そんな中庭の真ん中で、晴香は膝を抱えていた。目の前には散乱した衣類や日用品──自分たちが購入し、戦いの最中でぶちまけたものだ。

「あーあ。ぐっちゃぐちゃだ」

 屈んだまま、泥だらけの服をつまみあげて肩を落とす晴香。そんな彼女の後ろから、歩み寄る影ひとつ。

「晴香さん、ちょっと良いですか?」

 晴香は振り返る。果たしてそこに立っていたのは、カラカサを携えた湊斗であった。

「ん。湊斗か。お疲れさん」

 湊斗は「どうも」と答え、立ったまま晴香に声をかける。

「ちょっと話というか、相談があるんですけど」

「…………」

 敬語で話しかけてくる湊斗に、晴香は答えずにジト目を向ける。湊斗は戸惑い、首を傾げた。

「? どうかしました?」

「…………お前、タキにはタメ口だったよな」

「えっ」

 突然のその言葉に、湊斗はしどろもどろになりながらも言葉を絞り出す。

「えーっと……なんか、ノリでそうなったっていうか」

 はたから見れば浮気の言い訳でもしているような風景だ。晴香は渋い顔で口を開いた。

「私にも敬語なんて使わなくていいんだが。見た感じ歳も近そうだし」

「え、いやでもタキさんは敬語──」

「あいつは舎弟だからな」

 言いながら晴香は立ち上がり、「それに」と言葉を続けた。

「お前猫かぶってんだろ。雨狐には言葉遣い汚ねぇもんな」

「う……」

『あはは、バレてる』

 言葉に詰まる湊斗を、カラカサが笑った。そんなふたりを横目に、晴香はびしょ濡れの紙袋を手に歩き出した。話の腰を折られてしまった湊斗は、手近な紙袋を拾い上げて晴香についていく。

「それよりもだ」

 晴香は、湊斗がなにか言いたげなのをお構いなしに話しかけてくる。

「お前ら、雨狐の目的についてなんか知らないか? "捜索"がどうの、褒美がどうのと喚いてたよな」

「あー。言ってたのは覚えてるんですけど」

「敬語」

「あ、はい……うん。覚えてる、んだけど」

 わたわたと言葉を選びながら、湊斗は考え、答える。

「"捜索"とやらの心当たりはない……かな」

「そうか……」

 晴香は歩きながら、顎に手を当てて思案する。湊斗はそんな彼女に向かって言葉を続けた。

「ただ、長いことあいつらと戦ってて、なんとなく思うところがあったりもするんで……まぁ、落ち着いたら話しま……話すよ」

「ああ、頼む」

 ニヤニヤと笑いながら、晴香が頷く。深呼吸ともため息ともつかぬ息を吐き、今度は湊斗が話を向けた。

「で、えーと……晴香さん、ちょっとお願いっていうか……えーっと、相談っていうか……」

「ん」

 ──さて、なんと言ったものか。

 思案しながら、湊斗は「あー」と言葉を濁しつつ、言葉を選ぶ。

「……えっと。今回の事件、結構いろんな人が見てるじゃない? 雨狐とか」

「そうだな」

「実際に被害にあった人もいるし……それで……」

 正義感の強い晴香のことだ。伝え方を間違えれば怒られるかもしれない。

 湊斗はびくびくしながら、相談を──"この場にいる人の記憶を消したい"というその言葉を、持ち出そうとしていた。

「えーっと」

「……なんだよ」

 上手い言い訳が浮かばない湊斗に痺れを切らしたのか、晴香は立ち止まって振り返った。

 そして胸ポケットから小さな紙を取り出し、湊斗に向かって紙面を見せる。

「100万円の請求が来てるんだが」

「えっ」『げっ!?』

 晴香の手にした紙──請求書に書かれた金額を見て、湊斗たちは悲鳴をあげた。晴香は紙片を印籠のように翳したまま捲し上げた。

「今回の事件、運よく死亡者はいない。怪我した奴も掠り傷程度で済んでいる──」

 晴香はそこで言葉を切ると、息を吐き──ふいっと目を逸らした。

「……いいか、目を瞑ってやるから、5分以内になんとかしろ。"いつもみたいに"な」

「え、それって──」

「わかってるとも思うが、私たちの記憶まで消したらぶっ飛ばすからな」

 晴香はそう言うと、中庭の入り口付近にいた相棒──タキの方へと歩き出した。その後ろ姿を見ながら、湊斗は思わず吹き出した。

「全部、お見通しだったね」

『すごいね、姐さん……』

 そんな会話をしながら、湊斗は相棒と共に、"記憶改竄"の準備をはじめる。

 ──こうして、この事件もまた迷宮入りの<超常事件>として処理されることとなる。

 雨上がり、虹がかかった空の下、その秘密を知る四者は互いに視線を合わせ、片眉をあげるのだった。

- 第2話「オイラの憂鬱」終わり -
(第3話につづく)

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