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21XX年プロポーズの旅 (10)

(承前)

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 火星と月の中間地点付近。俺の乗った宇宙船は、火星に向かって飛来する楔形の宇宙船──ガラハッド船を発見し、航行速度を落とした。

「コネクション」
「了解」
 スリーウェイ・ハンドシェイクの後、ガラハッド船とのコネクションが確立される。標的は速度を落とし、ドッキング体制に入った。

「……気をつけろ。あの船に乗っているのはガラハッドたちではない」
 俺の言葉に、兵士たちの間に緊張が走った。

 火星の阿呆の相手をするハメになった俺の代わりに、司令官ガラハッドが盗賊"オクト&レオン"を追い──敗北した。命は取られなかったらしいが、現在は側近部隊と共に星間バスに閉じ込められ、木星方面に飛ばされている。

 つまり、眼前のガラハッド船に乗っているのは盗賊たちだ。

「策に嵌められてヤケになっている可能性もある。心せよ」

 そう、彼らは策に嵌まった。船がジャックされた時のために、メインコンピュータとは別の領域に「絶対に火星に戻る」プログラムを仕込んでおいたのだ。

 火星で待たずに迎えに来たのは、先日の星間バスの時のように壁を破って逃げ出す可能性も加味してのこと。その場合すぐに月に向かって飛び立つことになっている。

 とにかく、なにがなんでも、ムーンフォースリングの所持者を月に行かせるわけにはいかないのだ。

「ドッキングプロセス完了まで、5、4、3……」
 ひりつくような緊張感の中、ドッキング作業は無事に完了した。

 俺たちはドッキングハッチからガラハッド船の扉に至る。
 6名の我が側近兵士は専用の宇宙鎧に全身を包み、手にはサスマタや電磁ネット、パラライザーなどの鎮圧用兵器を構えている。
 扉の向こうになにかいる気配はない。

 ──よし。
「突入!」
 号令を出すと、先頭の兵士が扉を開けた。その時だった。

 周囲の空気が、急激に吸い出された。

「っ……!?」
 即座に鎧の足裏の電磁石が自動アクティベートされ、俺を宇宙船の床に張り付けた。他の兵士たちも同様だ。

「王子、あれを!」
 兵士が指差したのは、船内の床面に空いた大きな穴だった。その穴から、ドッキングハッチに置き去りにされていた工具類が吸い出されて飛んでいく。
 ──危うく俺たちもスペースデブリになるところだった。

「ちっ……逃げたか……」
 俺は呟き、壁を叩いた。

 その後、念のため船内をクリアリングしたが、盗賊達が見つかることはなかった。
 俺たちは自船へと戻り、通信を開く。

「マーリン、こちらアーサー。対象は船内にいなかった。代わりに天井に大穴だ。なんらかの方法で月へと向かった模様……プランBに移る」

『了解しました。ガラハッド殿の救出後、我々も月へと向かいます』

 通信が切れた。俺はオペレーターに指示を出す。

「全速力だ。12時間で月に着くつもりで行け!」

「了解!」

 果たして、我々の宇宙船は全速力で月へと向かうこととなった。

 ──船の上部に盗賊たちが張り付いていることに、気付かぬままに。

(続く)


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