ジ・アザーサイド・オブ・ア・レインボウ -パルプスリンガーズ×碧空戦士アマガサ- #AKBDC #ppslgr
◆はじめに◆
この小説は、拙作『碧空戦士アマガサ』と遊行剣禅氏の『パルプスリンガーズ』のクロスオーバー二次創作であり、同時にakuzume氏主導企画AKBDC参加作品です。
☔️🌽🌂 プロローグ ☔️🌽🌂
天気雨が降っている。
抜けるような青空の下、スコールの如き大粒の雨が陽の光を反射し、世界はキラキラと輝いている。そんな雨を浴びながら、天野湊斗(アマノ・ミナト)は──
──吹き飛んでいた。
「…………ッ!」
錐揉みしながら吹き飛んだ湊斗は地面を何度かバウンドし、ビル壁に背中から激突。肺の空気が全て吐き出され、声すらあげずにそのまま崩れ落ちる。その手元で、相棒の番傘──九十九神カラカサが声をあげた。
『み、湊斗! 大丈夫!?』
「あらあらあら。ちょっと力を入れすぎたかしら?」
その姿を見てクスクスと嗤うのは、赤金の花魁装束を身に纏った狐面の怪人──雨狐の<羽音(ハノン)>だ。彼女は振り仰いでいた鉄扇を畳むと、腰に手を当てて湊斗に声を投げた。
「それにしても本当に、単純ねぇ」
「う……ぐっ……」
カラカサを杖のように地に突き立て、湊斗は己を強いて立ち上がる。その様子を嘲笑うように、羽音は言葉を続けた。
「“ひとりで来たら王様の秘密を教えてやる”なーんて言葉に簡単に乗っちゃうんだもんねー? 素直だなー?」
「別に……その言葉を信じたわけじゃない……」
その身はズタボロだが、湊斗の闘志は揺らがない。彼は羽音を睨みつけ、絞り出すように言葉を続けた。
「お前とサシで戦えるチャンスは……そうそうないからな……」
「あらあらあら」
羽音はクスクスと笑い──小首を傾げて、湊斗に言い返す。
「サシだなんて、誰が言ったかしら?」
その言葉に、湊斗は目を細めて羽音を睨む。
「……そうだね。カラカサの銃が使えないの、お前の仲間のせいだろ?」
「あらあら。わかってるんじゃない。さて、それじゃ──」
羽音は怪しい笑顔を浮かべて言葉を切ると、再び鉄扇を開き、湊斗に先向けた。
「──実験を、はじめましょ」
その言葉に応えるように、鉄扇の先に光が灯る。
同時に、湊斗の周囲の天気雨が虹色に輝き出し──瞬く間に、視界を白く染め上げた。
「っ……なにを……」
湊斗が手で光を遮り、身構えた──その時。
──地面が、消失した。
「はっ!?」『うわぁ!?』
突如襲いきた浮遊感に、湊斗たちは悲鳴をあげる。思わず視線を落したそこに広がるのは、どこまでも続く純白の世界。地面も壁もない、底なしの空白!
『うわああああああああああぁあぁあぁぁぁあ!?』
カラカサの悲鳴だけが虚しく響く。湊斗はパニックになりそうなのを必死で堪えつつ、打開策を探して視線を走らせる。と──
「……穴?」
ぽっかりと。
真白い空間に、黒い点が見えた。その点はみるみるうちに近づいてくる……否、湊斗たちはその点に向けて、引き寄せられている!
『ああああああ無理無理無理死ぬ死ぬ死ぬああああああああああ!!!!?!?』
完全にパニック状態のカラカサは、湊斗の手元で大暴れしている。慌ててカラカサを抱きすくめつつ、湊斗は口を開いた。
「ちょっ……カラカサ落ち着いて──」
その間にも、穴との距離はみるみる詰まってゆき──
すぽんっ。
間の抜けた音と共に、湊斗たちはその穴に吸い込まれた。
スピードを出しすぎたウォータースライダーのような動きで、その身が空中に投げ出される。湊斗は衝撃に備え、暴れるカラカサを抱きすくめ──落下地点に人がいるのに気付き、顔を青くする。
「やべっ──」
ゴシャァッ!
「ワッザ……へぶっ!?」
湊斗は、ひとりの男を巻き添えにゴロゴロと床を──然り、そこはタイルカーペットの敷かれた床である──転がって、仰向けで停止した。巻き添えになった男は、勢いでさらに投げ出される!
「ウオーッ!?」
ガシャーン!
派手な音と共に、男は近くの店舗に突っ込んで見えなくなった。
「痛っててて……カラカサ、大丈夫?」
『な、なんとか……』
湊斗はカラカサに話しかけつつ、痛む身体を強いて起き上がると、辺りを見回した。
「……ショッピングモール?」
白と緑を基調とした清潔感のある施設だ。湊斗がいる場所は通路の一角で、それに沿って様々な店舗が並んでいる。
とはいえ、通路の果てが見えず、また吹き抜けから見える上階は天高くどこまでも続いており……その向こうには、青空が見える。まるで街のようだ。
湊斗はカラカサを抱えて、座り込む。と──
「フンハー!」
奇妙な叫び声と共に、先ほど商店に突っ込んだ男が転がり出てきた。店の品物──多くは書籍のようだ──を派手にまき散らしながら、その男は湊斗を指さしてドカドカと歩み寄ってきた。カラカサは『やべっ』と言葉を残し、番傘へと擬態する。
「ちょいちょいちょいアンタ! いきなりなにしやがんだ!」
「す、すみません! 巻き込むつもりは……あれ?」
男の言葉に謝りつつ、湊斗は異変に気付いた。
──先ほど男がまき散らした書籍類が、ひとりでに店に戻っていく!
更によく見ると滅茶苦茶だった店内もひとりでに復元され、商品たちもそのシワなどなかったかのように綺麗になり、店は瞬く間に何事もなかったかのように元通りになった。
「え、あれ? あれ?」
「あン?」
混乱している湊斗の視線を追って、男も振り返って店舗を見る。しかし特に疑問を抱くことはなかったようで、すぐに向き直り湊斗に食って掛かった。
「誤魔化そうったってそうはいかねーぞ!」
「ちょちょちょ待って待って死ぬ死ぬ死ぬ」
もともと満身創痍だったところに、胸倉をつかまれガクガクガクガクと頭を揺らされ、湊斗の意識が遠のいていき──
「う……」
「エッ!? ウワ、ちょ待てなんで泡吹いてんの!? 死ぬな! おーい!」
薄れゆく意識の中、男の言葉が湊斗の鼓膜を揺らした。
「ああもう……よくわかんないけど、仕方ないか……」
ため息をついて、彼は誰かに向かって言葉を投げた。
「王子、手伝ってくれ。こいつをバー・メキシコに連れていく」
☔️🌽🌂☔️🌽🌂☔️🌽🌂
パルプスリンガーズ × 碧空戦士アマガサ
なつやすみ合体スペシャル
【ジ・アザーサイド・オブ・ア・レインボウ】
☔️🌽🌂☔️🌽🌂☔️🌽🌂
超巨大創作売買施設<Note>。緑と白を基調とした清潔感のある施設内では、昼夜を問わず様々な創作物が生まれ、開かれ、人々を魅了している。日々拡大を続けるこの地は、”施設”と呼ぶにはその規模はあまりに大きく、もはやひとつの街のようになっていた。
そんなNoteのとある区画の片隅に、ひっそりと佇む胡乱な酒場がある。その名も<バー・メキシコ>。表通りの煌びやかな雰囲気とは裏腹な、木と酒と硝煙の香り漂う店内は、まるで西部劇の酒場を思わせる。店の客たちは今日も今日とて、多数の弾痕が残るテーブルでコロナビールを煽る。
しかし彼らは、ただのコロナ・ジャンキーではない。パルプ小説を書いて世に放ち、巨大ロボ<ソウルアバター>に乗って世界を救う。イマジネーションの弾丸で胡乱を殺す、スリンガーだ。
彼らは自身をこう呼称する──パルプスリンガーと。
☔️🌽🌂 1 ☔️🌽🌂
「……エート。ちょっと話を整理していい?」
「はい」
バー・メキシコの店内。弾痕だらけのテーブルの向こうに座る男の言葉に、湊斗は頷いた。
A・Kと名乗ったその男は、馬掛(男性用の中国衣装)を着て丸い帽子を被った屈強な男だ。彼は隣にいる<エルフの王子>と名乗る美形の優男──耳が尖っている──に目配せして、言葉を続ける。
「アマノ。アンタは、詳しくは言えないが”誰か”と戦っている。そんで、その戦闘中に大怪我をした」
「そう」
湊斗は神妙な顔で頷いた。なお、雨狐や九十九神の話は濁して伝えている。まだこのA・Kという男も、このNoteという土地も、安全かはわからない。
「で、その"誰か"が"なにか"をやってきて、妙な空間に放り込まれて……かと思ったらいきなりあそこに放り出されて、俺にフライングボディアタックをカマすことになった、と」
「はい」
湊斗は祈るような気持ちで頷く。こんな荒唐無稽な話、信じてもらえるとは思えないが──
「フムン……。とすると、アマノは違う世界からきた可能性が高いわけだな」
「え?」
思いのほかすんなりと受け入れられて、湊斗は思わず声をあげた。と──
「轢ーーッ! ってやつだね!」
「!?」『ひぇっ!?』
「うわびっくりした!? いきなり出てこないでよO・D!?」
奇声とともにテーブルの下から飛び出してきた赤ら顔の男に、A・Kが叫んだ。
湊斗は椅子から軽く腰を浮かせて警戒する。出てくるまで全く気配を感じなかった。思わず擬態したカラカサが声を上げてしまったほどの隠密──只者ではない。
「いやぁごめんごめん。そんじゃボクは進撃の巨人読んでくるから。じゃーねー」
湊斗の警戒をよそに、その男は気楽な笑みを残して店から出ていった。その後ろ姿を睨みつけながら、A・Kが話を再開する。
「ったく……。ええとそれで、なんだっけ。そうだ異世界だ」
「え、し、信じるんですか、この話……?」
「ン? ああ、まぁそういうのは慣れてるからな。それに、アマノは嘘を言ってない。エルフの王子が光ってないのが証拠だ」
「私は嘘に反応して光るわけではないぞ、A・K……」
エルフの王子は呆れたように笑う。この男も得体が知れない。A・K曰く"イマジナリーフレンド"らしいが──
湊斗が訝しむようにエルフの王子に視線を遣ったとき、彼もまた湊斗に視線を合わせてきた。
「アマノ、私からも聞きたいことがあるんだが」
「はい、どうぞ」
目をそらすのも失礼だ。湊斗はその美しい瞳を見返しながら頷き──
「……その番傘は、何者だ?」
「……!?」
その率直な問いかけに、思わず目を見開いた。
「エッ? なに言ってんの王子?」
A・Kが声を上げる。エルフの王子はA・Kを一瞥したあと、湊斗の手元にある番傘──九十九神カラカサへと視線を移した。
「呼吸こそしていないが、なんというか……生命のようなものを感じる。番傘だけではない。アマノの所持品の至るところからもだ」
「マジ? どゆこと?」
若干の警戒と共に、A・Kは湊斗を見た。湊斗は観念したかのように嘆息し、あたりの様子を伺い──A・Kたち以外に客の姿がないことを確認します、相棒の名を呼んだ。
「…………カラカサ」
『ほーい』
「ウワッ!? 傘が喋った!?」
顔を出したカラカサを見て、A・Kが声をあげる。エルフの王子は顎に手を当て、興味深そうに口を開く。
「ほぉ……魔法生物とはまた違うようだ……それに、6・DやH・Mの連れている"えーあい"とも違う……」
カラカサはカランッと下駄を鳴らしてひと跳ねする。そして湊斗の横の空イスの上に立つと、A・Kとエルフの王子を交互に見て言葉を続けた。
『へへーん! オイラの正体を見破るとは大したもんだ!』
「ヨ、ヨーカイ!? オバケ!?」
『九十九神!!! 妖怪じゃない!!!』
取り乱すA・Kにカラカサが声をあげる。そんな様子を横目に、エルフの王子は湊斗に語りかけた。
「よかった。君は彼らと深い信頼関係にあるように見える。……疑っているわけではないんだ、すまない」
「ああいえ、いいんです。隠してたのは本当なので」
「気持ちはわかる。胡乱な存在というのは、それだけで危険視されるものだからな」
エルフの王子の言葉に、湊斗は少しだけ肩の力を抜いた。奇妙で奇抜な人たちだが、悪い人たちではないのかもしれない。
「それで……A・Kさん、さっき"慣れてる"って仰ってましたけど……」
「アー、その前に。そろそろ敬語やめてくんない? 名前も呼び捨てで良いよ。なんかむず痒くて」
「あ、はい……うん、A・K。君たちは、俺みたいに違う世界からきた人を知ってるの?」
「んー。俺が、っていうか……月イチでそういう胡乱な目に遭うやつがいてさ。似たような事件を解決したのを聞いたことがあるんだよね」
曰く、その時はドラゴンが異世界転生してきたらしい。ここはゲームの世界とも繋がっているのだろうか……? と湊斗が首を傾げる中、A・Kの話は続く。
「つってもなぁ……R・Vは今は別の依頼で居ないし、M・Kはなかなか捕まんねーし……」
「私たちの力でどうにかするしかないだろう、A・K。それに──」
不意にA・Kの言葉を遮ったエルフの王子は、音もなく立ち上がった。その視線は鋭く、バーの戸口へと向けられる。
「──トラブルのようだ」
「エッ?」
バンッッッ!
A・Kの疑問符に応えるように、バーの扉が荒々しく開かれる。飛び込んできたのは緑色のツナギを着た女性だ。緑がかった黒髪を揺らしながら、彼女は店内を見回し──目についたA・Kに声を投げる。
「A・K! M・Jを見なかったかい!?」
「ん? いや、朝見たっきりだけど……どしたのS・R?」
「化け物が出たんだ。銃も効かない厄介な奴でさ……表通りは大騒ぎだ」
答えながら、S・Rと呼ばれた彼女は慌ただしく店内に踏み入った。通った跡の床に濡れた足跡が残る。いつの間にか、外では雨が降っているらしい。
「化け物? ンで、なんでピンポイントでM・Jなの?」
A・Kの問いかけに、S・Rは濡れたツナギを手ではたきながら答えた。
「天気雨だよ、天気雨。天気雨と化け物っつったらM・Jだろ?」
その言葉に、湊斗とカラカサは目を見開いた。天気雨と共に現れる、銃も効かぬ化け物──湊斗の敵、雨狐と同じ特徴だ。
「アー、確かにM・Jの碧空戦士──」
「あ、あのっ!」
なにかを言いかけたA・Kを遮って、湊斗は立ち上がってS・Rに問いかけた。
「その化け物って、狐の面とか被ってませんでした!?」
「ん? ああ、確かに狐面っちゃーそうだね。ただ──」
「やっぱり……!」
S・Rが言い終わるより早く、湊斗はカラカサを手にして戸口へと駆ける。そして走りながら振り返り、店内の三人に声を投げた。
「すみません、俺、行かなきゃ!」
「あっ、ちょっと!?」「おい、アマノ!?」
二人の制止の言葉も聞かず、湊斗は風のように店を飛び出してしまった。
「ああもう……! どうしたんだよいきなり……!」
「な、なぁA・K。ありゃ誰だい?」
慌てて立ち上がったA・Kに、S・Rが問いかけた。その視線は戸口に向いたままだ。
「エッ? えーと、名前はアマノ。色々あって怪我しててさ、ここで俺らで助けたんだよ」
「ほぉん……? なーんか見たことあるような気がするんだけど、アタシの気のせいかねぇ……?」
「エッ? いや、俺は知らねーぞ? S・Rの元カレとかじゃなくて?」
「尻の穴増やされたいのかい」
「ギャーッ!?」
「そんなことより、A・K。そしてS・Rも。アマノの後を追おう」
銃を抜いて騒ぐ二人に、エルフの王子が冷静に告げる。
「……外の騒ぎが広がっている」
☔️🌽🌂 2 ☔️🌽🌂
表通りは大パニックだった。人々は悲鳴をあげながら、同じ方向へと逃げていく。
湊斗はその人波に逆らって走りながら、事態を整理する。
A・Kの言葉が本当なら、ここは湊斗の知るのとは別の世界だ。そして、抜けるような青空から降り注ぐ、大粒の雨……これは元いた世界で降っていたものと同じように見える。
「カラカサ、気配は感じる?」
『うん、そのまま真っ直ぐ! んで、次の角を右!』
「オッケー!」
カラカサの案内を受けながら、湊斗はひた走る。小洒落た店舗の間を抜けて辿り着いたのは、ちょっとした広場のような場所であり……そこで湊斗は、思わず足を止めた。
「…………は?」
湊斗の眼前にいるのは、たしかに雨狐のように見える。S・Rの言うとおり狐面の如き顔で、降り注ぐ天気雨に打たれながら、市街を破壊している。そう、いつもの雨狐だ。
──そのサイズが、ビルのように巨大であることを除けば。
『で、デカーっ!?』
「これは一体──」
湊斗が言いかけた、その時だった。
KA-BOOOOOOON!!!
巨大な雨狐の顔が炸裂! 湊斗の動体視力は、どこからか飛来したミサイルめいたサイズの爆弾矢を捉えていた。
遅れて到達した爆風に煽られ、湊斗は咄嗟に腕で顔をガードする。その耳に届くは、エンジン音と──聞き覚えのある声。
『ガン・フロッガー!アクティブフェーズ、シフト!』
驚きと共に顔をあげた湊斗の視線の先では、カエルのようなカラーリングの車が人型ロボットに変形、立ち並ぶビル壁を豪快に蹴り昇っていく!
「ろ、ロボット……!?」『エッ!? 神戦士!?』
湊斗たちがぽかんとしたまま見つめる前で、人型ロボット──<ガン・フロッガー>はパルクールめいてビルを跳び渡り、巨大雨狐に肉薄! そして両手に携えたハンドガン型の巨大銃を構え──
『食らいなァッ!』
巨大雨狐に、容赦のないフルオート射撃!
「この声……S・Rさん!?」
湊斗の声は銃撃の轟音に掻き消される! 巨大雨狐の身体に穴が空いていくが──その身はまるで水面を叩いたかのようにぱしゃんと揺れ、すぐに元通りになる。
『チクショウ、やっぱ効いちゃいないねェッ!』
「OOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHH!!!!」
巨大雨狐が咆哮と共に右手を打ち振るう。目標は……ガン・フロッガー!
『チィッ──!』
ガン・フロッガーは着地後、即座にカエルめいて跳躍。彼女が一瞬前までいた場所に、巨大雨狐の右腕が叩きつけられる!
街全体を揺らすほどの轟音! そして──破壊されたビルの瓦礫が、湊斗たちに降り注ぐ!
「うわうわうわ!?」『なにこれ!? なにこれ!?』
湊斗たちは慌てて走り出した。ガゴンメキョドゴンと派手な音と共に、瓦礫の数々が地面を揺らす。と──
『居たァッ! アマノ! そこで伏せろ!』
「!? A・K!?」
湊斗はその声の主の名を呼びながら、言われるがままにスライディング! 勢いで見上げた空を覆うように落下してくるのは、とりわけ巨大な瓦礫だ!
「わーっ!?」『し、死ぬー!?』
湊斗とカラカサが死を覚悟する中──横薙ぎに振るわれた別の大質量によって、巨大瓦礫が粉砕される!
『っぶねー! ダイジョブ?』
「あ、ああ……」
唖然とした湊斗の見上げる先、フレンドリーなA・Kの声を発するそれもまた、巨大ロボであった。
右手に携えるはグラディウス型の大剣。左手には円形の盾。「古代ローマの剣闘士」という言葉でほとんどの人が想起するであろう意匠の鎧を身に纏う、巨大ロボット──その名も、<グラディエーター>である!
グラディエーターは右手の剣を地面に突き刺すと片膝をつき、湊斗に右手を差し出してきた。
『アマノ、とりあえず乗って!』
湊斗はとにかく言われるがままに、グラディエーターの右手に飛び乗った。直後、巨大雨狐がグラディエーターの存在に気付き、掌をこちらに向け──
『A・K! 避けろ!』『オウヨ!』
エルフの王子の声に反応し、グラディエーターはサイドステップ。同時に、ミサイル矢が巨大雨狐の掌に直撃、再びの爆発が怪人を襲う!
巨大雨狐はわずかにバランスを崩した。その機を逃さず、エルフの王子の乗機とガン・フロッガーの一斉射撃が巨大雨狐を繋ぎ止める。
その間に、湊斗はグラディエーターのコクピットに同乗を完了した。A・Kは背もたれに身体を預けるように振り返り、湊斗に声をかける。
「アマノ、無事か?」
「うん、おかげさまで。……で、この巨大ロボは?」
「こいつはSA(ソウル・アバター)! 俺たちパルプスリンガーの秘密兵器だ!」
「ソウル、アバター……?」
「んじゃ、ちょっと暴れるよ! アマノ、捕まってて!」
A・Kがそう言った直後──凄まじいGが、湊斗を襲った!
グラディエーターは地に突き刺した剣を引き抜き、急加速。三歩目でトップスピードに達した! 巨大雨狐が掌から放つ怪光線を剣と盾で弾きながら、一気呵成に間合いを詰める! そして──
「ウオリャアアアアッ!」
A・Kが吼える! 打ち振るわれたグラディウスは、巨大雨狐を頭頂から両断した!
「へへっ! どォーだ! マイッタカ!」
切り裂いた勢いのまま駆け抜けたグラディエーターは、ズザザザザと地面を擦りながら急停止。巨大雨狐へと向き直り──直後!
「OOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHH!!!!」
「どあっ!?」
巨大雨狐の後ろ蹴り! 縦一閃に真っ二つになったことなど意に介さぬ一撃に、グラディエーターの身体が吹き飛ぶ! 即座に再生した巨大雨狐は、グラディエーターに追撃せんと地を蹴った!
「オイオイオイマジかよ!?」
コクピットの中で、A・Kは驚愕の声をあげる。それもそうだ。渾身の一太刀、しかもクリーンヒット、真っ二つ。なのに全く効いていない!
『げうええ……酔った……』
「だ、ダメだ……アイツに普通の攻撃は通用しない!」
カラカサが呻く中、湊斗はA・Kに声を投げた。巨大雨狐の攻撃を往なしながらA・Kは振り返る。
「アマノ、なんか知ってんの?」
「ああ、よく知ってる……多分あいつは俺の世界からきた敵だ」
「エッ!? てことは、こいつがさっき言ってた“なにか”してきた奴?」
「ああ。多分そうなんだろうね……向こうで戦ってた時は、何故か察知できなかったんだけど……」
降り注ぐ天気雨の性質は、発生元の雨狐に依存する。元いた世界で降っていた雨と今の雨が同じである以上、こいつは同一個体であると考えるのが妥当だ。と──
KA-BOOOOOOOOOON!!
巨大雨狐の顔面に、再びミサイル矢が着弾! 猛攻が止んだ隙に、グラディエーターはバックステップで距離を取る。
その左にはエルフの王子を模ったソウルアバターが音もなく立ち、右のビル上にはガン・フロッガーが武器を構え、巨大雨狐を警戒する。
A・Kは両隣との通信回線をONにして、湊斗に問いかけた。
「……で、アマノ。なんなんだよこいつは?」
「あいつらの名は、雨狐(あまぎつね)。俺の世界の怪人だよ」
その言葉に一瞬、通信回線は静まり返り──はじめに声をあげたのは、S・Rだった。
『ハァッ!? アマギツネ!? アンタ今雨狐っつった!?』
「え、あ、はい」
湊斗は戸惑いながらも頷く。その手元でカラカサが『なんだなんだ』と顔を出す中、S・Rからの通信は続く。
『ちょちょ、ちょっとA・K!? その人のフルネームは!?』
「エッ? えーっと……アマノ……なんだっけ?」
「湊斗です。天野湊斗(アマノ・ミナト)」
『ハァァッ!?』
隣でガン・フロッガ―が仰け反った。ある程度は搭乗者と同じ動きをするらしい。
『ちょっ……湊斗? 湊斗? マジモンの!?』
「ちょ、ちょっとS・R? 話が見えないんだけど?」
ガン・フロッガーが、今度は頭を抱えるような動きと共に捲したてる。そのあまりの興奮っぷりに口を挟んだA・Kに、S・Rが怒鳴り返した。
『アンタまだ気付いてないのかい!? 湊斗と、カラカサと、雨狐だよ! ほら! M・Jんとこの!』
「ン? …………ン? エッ?」
しばしの沈黙。A・Kは湊斗をじっと見たあと、虚空に視線をさまよわせ──
「アッ! アーーッ!? 湊斗ってあの湊斗!?」
ようやく合点がいったのか、A・Kもまた仰け反って声をあげた。一方の湊斗は、聞きなれない名前──多分名前だろう──に首を傾げる。
「……M・J?」『まいこー?』
『あああ! えっと、ごめんよ、こっちの話さね! ね! A・K?』
「アッ! お、オウヨ!』
カラカサのボケは完全にスルーされた。なにやら挙動不審な二人を訝しむ湊斗だったが、続くA・Kの発言に思考を引き戻される。
『でもわかったぞ、あいつの倒し方! アマノ、変身だ! 変身しろ!」
「え!? なんでそれを……!?」
「いいから早く! ほらカラカサも出て!」
グイグイと服を引っ張られ、湊斗は無理やり立たされる。同時に、通信の向こう側から緊張感のある声が聞こてきた。
『雨狐が動きだしたよ! 王子、援護を!』
『任せろ、S・R』
両隣のソウルアバターが得物を構える。A・Kはコクピットを開き──
「ま、待って! 待ってください!」
湊斗は慌ててA・Kを制した。
「なんだよ!? 急げって!」
「や、あの、それが……」
しかし湊斗は、バツの悪そうな表情で──言葉を続けた。
「……今の俺、変身できないんだ……」
「『…………ハァァッ!?』」
湊斗の言葉に、A・KとS・Rが声をあげる。その声量のせいか、エルフの王子の矢が珍しく外れた。
「な、ナンデ!?」
「たぶん……あの雨狐のせいで。この雨が降ってると、カラカサが妖力を練られないんだ」
然り──湊斗はこの世界にくる直前から、変身ができない。そもそも羽音を相手に大怪我をしたのも、必殺武器たるカラカサや、その力を借りた変身ができなかったことが原因である。
『そのせいで結界も張れないんだよね……困った……』
グラディエーターのコクピットのモニタには、2体のソウルアバターが巨大雨狐と戦う様子が映っている。A・Kはそれを横目に見つつ、頭を抱えた。
「ま、マジかよ……どうしよう……」
どんよりとした空気が漂う中、不意に通信回線を揺らしたのは──S・Rの声であった。
『こうなったらA・K、アンタがやるっきゃないよ』
「エッ?」
『アタシらはパルプスリンガーだ。だから、紡ぐしかない。アタシらだけの……いや、アンタだけのアマガサを!』
S・Rのシリアスな声音に、A・Kは目を剥いた。S・Rはこう言っているのだ。湊斗とカラカサの物語を──本来はM・Jが紡ぐはずの物語を、A・Kが紡げと!
「ちょっ……それってつまり二次──」
『A・K、アンタならできる、いや、アンタしかできない! 描いたイマジナリを具現化できる、アンタしかってどわーっ!?』
CRAAAAASH!!!
威勢よくA・Kを遮ったS・Rの言葉は、途中でかき消された。見ると、巨大雨狐の右ストレートがガン・フロッガーに直撃! ロケット噴射に飛ばされたカエルめいて、緑の機体が吹っ飛んでいく!
「S・Rさん!?」「S・R!?」
湊斗とA・Kが声を上げる中、ガン・フロッガーは辛うじて空中で体制を整え、手近なビルの屋上に荒々しく着地した。そして即座に再跳躍し、巨大雨狐に肉薄する!
『早くしな! こいつはアタシが抑えとく!』
モニタを見ると、付近の町は壊滅と言って差し支えないほどに荒れ果てている。コンソールに浮かぶガン・フロッガーの損壊状況も、残弾も、レッドラインが近い。迷っている暇は──ない!
「っ……アーモウ! やるっきゃねぇ!」
A・Kは大きく息を吸い込むと、自分の顔を平手で叩いた。
「A・K……?」
全く話についていけずに首を傾げた湊斗の肩を掴み、A・Kは問いかける。
「アマノ、確認だ! 確かカラカサでなくても、妖力を制御できる奴がいれば変身できるんだったよな!? リュウモンでも変身したもんな!?」
「え!? な、なんでそれを?」
「いいから! よーし……とりあえずあのサイズ感だろ……そんで妖力制御と……この際だから色とかも……」
「…………?」
要領を得ず、湊斗はカラカサと顔を見合わせる。A・Kが集中を深め、エルフの王子が姿を消した。S・Rは外部スピーカーで巨大雨狐を挑発しながら、ハンドガンを掃射する──
瓦礫や流れ弾で、たびたびグラディエーターが大きく揺れる。A・Kはしかし、それには取り合わずにひたすらブツブツとなにかを呟いて──
──不意に、その顔をあげた。
「よしッ……! アマノ、外に出て!」
「えっ……あ、うん?」
コクピットが開き、湊斗は地面に降ろされる。巨大雨狐は湊斗の姿を目ざとく見つけ、意識を向け──直後、その全身に穴があく! ガン・フロッガーの一斉射撃だ!
『こら大狐! アンタの相手はこっちだよ!』
「OOOOOOOOOOHHHHHHHHHHH……!」
巨大雨狐は虫でも払うように、煩わしそうに腕を振る。その隙にA・Kも地面に降り立ち、湊斗の背中に手を当てがった。
「今から、アマノ専用のソウルアバターを作る! じっとしてて!」
「えっ!? そんなことできるの!?」
「俺も初めてだよ! でもやるっきゃない! だからなにが起きても怒んないで!」
「っ……わかった、やってみる!」
「オーケー。行くよアマノ、ちょっとくすぐったいぞ!」
A・Kの手に力が籠る。彼のポケットの中、ソウルアバターの起動端末が異常発熱し──A・Kが声をあげた。
「よし、アマノ、起動コード! 叫べ、いつもの奴!」
「オッケー……! いくよ、A・K!」
そして、湊斗とA・Kは同時に叫んだ。
「「変身!!!」」
直後、湊斗の身体が光に包まれた。その光はいつもの白色ではなく、赤茶けた荒野の如き、油断ならぬ赤黒の光! それは湊斗を、そしてA・Kを包み込み、その強さと大きさを増していく!
「ンンンン……ウウウウオオオオアアアアアアア!!!!」
A・Kが吼える! 赤茶色の光は徐々にその大きさと強さを増し、グラディエーターすらも巻き込んで──さながらそれは、巨大な竜巻の如く渦を巻き、赤黒の光の柱となって屹立する!
「OOOOOOHHHHHHH……!?」
迸る膨大な妖力に、巨大雨狐が戸惑うような声をあげる。ガン・フロッガーが戦線を離脱! 赤黒の竜巻のエネルギーは臨界点に向かって一気に駆け上がる! そして──
──そいつは、否、そいつらは、高らかに宣言した!
『俺はアマガサ!』 湊斗が!
『てめーの雨を止める!』 A・Kが!
『『番傘だ!』』 叫ぶ!
KA-BOOOOOOOOOON!!!!
臨界を迎えたエネルギーが大爆発! 二体の英雄は、それを背に悠然と佇んでいた。
片や、アマガサをそのまま大きくしたようなソウルアバター!
そのカラーリングは燃え盛る炎のような、あるいはメキシコの渇いた大地のような、力強き赤茶色である! 右肩ではためくマントには、白く輝く【漢】の文字が躍る!
片や、白銀のグラディエーター! その手に携えるは深紅の番傘。そしてその背中では、【雨傘】の文字が躍るマントがたなびく!
コクピットに坐した湊斗の元に通信が入る。先ほどの戦闘回線だ。先に聞こえたのはS・Rの声。
『ウヒョー! やればできるもんだねェ! ……ってA・K! なんでグラディエーターまでアマガサ仕様なのさ!?』
『へへへいいだろー! グラディエーター・アマガサだ! せっかくだから俺も混ぜてもらったぜ!』
『エーッ! フロッギーも混ぜておくれよォ! ズルい!!』
ワオワオと騒ぐ両者の会話を聞き流し、湊斗とカラカサは呆然と言葉をこぼした。
「これが俺の、ソウルアバター……!?」
『す、すっげー……!』
通信越しに聞いたそんな言葉に、A・Kは得意満面の声をあげた。
『ヘヘッ! どーよ! 名付けて<SA(ソウル・アバター)アマガサ・真の漢フォーム>だぜ!』
『ちょっとそりゃダサいよA・K! そこは<SAアマガサ・パルプスリンガーフォーム>にしな!』
『エーッ!?』
再びガヤガヤと両者が騒ぐ中、湊斗はキラキラした瞳でコクピット内を見回し、グラディエーターを見つめて叫ぶ。
「すごい、すごいよA・K!」
『だろーっ! へへ、二次創作は得意なんだ!』
得意げに言ったA・Kは「あ、やべ、創作って言っちゃった」などと零しているが──
「すげー!思い通りに動く!」
『これちゃんと妖力使えるんだ!? すげー!』
彼らは子供のようなキラキラした目で計器やボタンの類に触れて、機体の動きを確認していた。ほっと一息ついて、A・Kは巨大雨狐に向き直る。
突如出現した妖力の塊に、巨大雨狐は強烈な警戒と共に様子を伺っている。A・Kは手にした番傘をビュンビュンと振り回し、SAアマガサに──湊斗に声を投げた。
『よーし……行くぜ、アマノ!』
「うん、行こう、A──」
「OOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHH!!!!」
湊斗が言い終わるより早く、巨大雨狐が地を蹴った! その巨体からは想像もつかぬ速さで急速に間合いを詰め、両雄を斬り裂かんと鉤爪を振り下ろす!
『のわっ!?』
グラディエーターは慌てて側転回避!
一方のSAアマガサは──クロスした腕で、敵の手首を受け止めている!
「あっぶねー……!」
『ナイスだ湊斗ー! 行けー!』
冷や汗を垂らす湊斗。カラカサの応援が響くコクピット内に、S・RとA・Kの声が木霊する。
『なんだいなんだい、まともに動けるんじゃないかアイツ!?』
『シット! これまではどうせ効かないってヨユーこいてのか!』
そんな会話を聞きながら、SAアマガサは巨大雨狐を前蹴りで引き離す。そしてその真正面で拳を──否、カラテを構えた!
「仕切り直しだ。行くぞ!」
「OOOOOOOOOOOOOHHHHHHH!!!!」
ドドドドガガガガガガガ!!!!!
両者の拳が、蹴りが、頭突きが交錯する! 余波で周囲のビルが崩壊するほどの、目にも留まらぬ打ち合いが続く!
『アマノ、跳べ!』
「はいよ!」
A・Kの援護射撃! 番傘の先端から白い光線が立て続けに放たれて、巨大雨狐の体制を崩す!
「OOOOOHHHHH!!!!」
巨大雨狐は光線を放つべく、グラディエーターに掌を向ける。すかさずその腕をアマガサが取り、体幹を崩してぶん投げる!
大質量が宙を舞う! その落下地点にガン・フロッガー!
『ウワッヒャー!?』
「あ、ご、ごめんなさいS・Rさん!」
慌てて跳躍回避したガン・フロッガーにペコペコと頭を下げるSAアマガサ。そこに、姿勢を下げた巨大雨狐が肉薄する!
『あああアタシのことはいいから! ほら右!』
「うおっと!」
「OOOOOHHHH!!!!」
二者の拳が再びかち合う。衝撃波で周囲の建物が吹き飛ぶ中、両者のワン・インチ・カラテがぶつかり合う!
互いに致命の一撃を繰り出し続け、そして先に姿勢を崩したのは──SAアマガサであった。その身体が大きく後ろに仰け反る!
『あ、アマノ!』
A・Kは思わず声をあげ、援護に動くが──
「大丈夫! 狙い……通り!」
SAアマガサは仰け反った勢いのまま、素早くバク宙した。そしてその勢いを乗せ、巨大雨狐の顎を強かに蹴り上げる!
『ウヒャー! 今のサマーソルトキック!? ホンモノだ!』
S・Rの歓声が響く中、SAアマガサは着地と同時に両掌底を合わせ──すべての衝撃を、慣性を、そしてありったけの妖気を集め、巨大雨狐へと叩き込んだ!
「食らえェッ!」
「OOOOOOHHHHH!?!!?」
巨大雨狐の身体が吹き飛ぶ! 残心するアマガサのコクピットで、湊斗はすかさず声をあげた。共に戦う、仲間に向けて!
「A・K! いまだ!」
『任せろィ!』
全力で助走をつけたグラディエーターが、アマガサの背を蹴り、肩を蹴り、空中に躍り出る! そして携えた番傘を開き、サーフィンめいて飛び乗ると、傘先を巨大雨狐とは反対側に向けた。
『S・R!』
『任せなァッ!!』
力強く答えたS・Rは、巨大雨狐とグラディエーターを結ぶ直線の延長線上、ビルの屋上で構えていた。カエルの如き胸部装甲が展開し、砲口が姿を現す!
両手足で自身を支えるガン・フロッガーはまるで闇夜に鳴くカエルの如し。その鮮やかな緑色の装甲を燃える紅蓮のごとき赤へと塗り替え、すべてのエネルギーを砲口へと収束させる!
『行くよフロッギー! 歯ァ食いしばりなA・K!』
獰猛な笑顔と共に、S・Rが叫ぶ。そして、宙を舞うグラディエーターが、巨大雨狐の胸部の高さに到達した時──S・Rはトリガーをひいた!
『ラストシンガーッ!』
ガン・フロッガーの砲口から、極大のビーム閃光が放たれる! それは過たずグラディエーターに、その足元の深紅の番傘に直撃する!
『ぅぅぅうううオオオらぁぁぁァァァ!!!!!』
カラカサを模した番傘は破れることなく、閃光のエネルギーを余さず推進力に替える! 急加速したグラディエーターは右足を突き出し、跳び蹴りめいた姿勢をとり──巨大雨狐の身体に突っ込んだ!
「OOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHH!!!!????」
グラディエーターとガン・フロッガーのコンビネーション・アタックは巨大雨狐に致命傷を与えると同時に、その身体を遥か上空へと打ち上げる!
そして──
「この雨を、終わらせるよ!」
力強く叫び、湊斗は──SAアマガサ・パルプスリンガーフォームは、スプリントからの急加速!
「明けない夜はない、止まない雨はない」
背面のスラスターから白銀の光を放出し推進力に変え、上空の巨大雨狐へと急接近する!
「お前らの雨は──俺たちが止める!」
コクピットのコンソールに、『妖力▼PUSH▼全開』の文字が浮かぶ! 湊斗は躊躇わず、その文字に拳を叩きつける!
「行こう、A・K!」
『オウヨ!!』
周囲の天気雨が虹色に輝き、巨大雨狐を包み込む! アマガサは空中で差し伸べられたグラディエーターの手を取り、白銀のスラスター光を最大出力。その背に光の翼を生やし、巨大雨狐へと肉薄する!
「「オオオオオオオオオオオオオオ!!!」」
湊斗とA・Kが吼える! SAアマガサとグラディエーターは赤白の光となり、DNA螺旋めいた軌跡を描き──巨大雨狐に、過たず突き刺さった!
「OOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHH!!!!」
KA-BOOOOOOOOOOOOOOOM!!!
巨大雨狐の、断末魔すらも呑み込んで。
超巨大創作売買施設<Note>の上空、成層圏に、大輪の虹が煌めいた。
☔️🌽🌂 3 ☔️🌽🌂
天気雨が降っている。
抜けるような青空の下、スコールの如き大粒の雨が陽の光を反射し、世界がキラキラと輝いている。そんな雨を浴びながら、湊斗は意識を取り戻した。
「っ……?」
どうやら、立ったまま……というか、手で光を遮るような姿勢のままで意識を失っていたらしい。広がるアスファルト。背後にはコンクリートの壁。羽音(ハノン)と戦っていた場所だ。
「……ここは」
『戻って……きた?』
湊斗の言葉にカラカサが同調する。と──
「あら? あらあらあら?」
「っ……!?」
真横から羽音の声がして、湊斗は咄嗟に飛び退いた。怪人は鉄扇で口元を隠し、首を傾げてみせる。
「失敗かしら。なにも起こらないわね……?」
「……なに?」
湊斗は傘銃を構え、羽音に突きつける。しかし怪人はそれを意に介さず、踵を返してどこやらへと歩き始めた。
「んー。カミサマの領域に干渉するチカラを持つ子を作ってみたのよ。欠片集めばかりで飽きてきちゃってねぇ」
「カミサマの……なんだって?」
「あなたが変身できないところまではバッチリだったのだけど……。うーん、直接カミサマに干渉しようとしたらダメみたいねぇ」
天気雨が弱まる。羽音は空を見上げて、ため息をついた。
「あーあ、残念。発動した瞬間に発狂・自壊しちゃうなんて。あなたの妖力を人柱にしたのが悪かったのかしら……」
羽音がブツブツとこぼした言葉に、湊斗は目を細めた。羽音の言っていることと、自分の認識が食い違っている。一連の出来事に、この怪人は気付いていない……?
そうこうするうち、巨大雨狐の発生させていた天気雨は消失。羽音の姿も、風景に溶けるように消えていく。
「んー……まぁいいわ。また気が向いたら遊んであげる。じゃあねー」
「あ、おい……」
羽音は一方的に言い残し、姿を消した。残された湊斗とカラカサは、互いに顔を見合わせる。
羽音の言葉から察するに、A・K達との出会いや巨大雨狐との戦いは……白昼夢だったということか?
「……カラカサ。A・Kとかのことは……」
『え、うん。覚えてる』
「だよねぇ……」
夢ではない。しかし現実に、時間はさほど経っていない。
湊斗は怪訝な顔で空を見上げた。天気雨はやみ、空は青く晴れ渡っている──
「……ん?」
ふと、ポケットの中に違和感。なにかある。湊斗はポケットに手を突っ込んで、それを取りだした。
「……銃弾?」
『ホントだ。なんか……めちゃくちゃ年季入ってるね?』
「……あ、カラカサ。これ」
湊斗が表面を指差す。赤茶けた銃弾の側面には、白い文字で【漢】と記されていた。
「…………真の漢フォーム?」
『パルプスリンガーフォームじゃなかったっけ?』
事実を知る二人は、そのまましばし笑いあう。
青々としたただの晴れ空には、大きな虹がかかっていた。
☔️🌽🌂 エピローグ ☔️🌽🌂
翌日。バー・メキシコの前の通りに、A・Kはいた。
「ふぃー、流石に疲れたな……」
大きく背伸びをして、A・Kは空を仰ぐ。今日も今日とてNoteでは様々な創作物が生まれ、行き交う人々の喜怒哀楽を青空が見下ろしている。
「悪いねA・K、修理手伝わせちゃってさ」
そんなA・Kの背後から声を掛けてきたのはS・Rだ。
「イエイエ。そんな大した手伝いはしてないし」
A・Kの言葉に微笑んで、S・Rは愛機<ガン・フロッガー>を撫でた。以前の事件よりも出力は抑えたものの、ラストシンガーの反動でボロボロになってしまったのだ。愛機にはいつも無理ばかりさせてしまっている。
「そういえば、アンタのグラディエーターは無事だったのかい? 相当無茶させてたみたいだけど」
「アー……」
問い返されて、A・Kは自分のソウルアバター起動端末を眺めた。グラディエーター、損壊レベル:クリティカル。白銀の"グラディエーター・アマガサ"のデータは消失。しばらくは起動できないだろう。というか──
「直す金がねーんだよなァ……」
「アー……まぁ、元気だしなって。ほら、飯くらい奢るからさ」
大きくため息をついたA・Kを見て、S・Rは笑った。
ちなみに、湊斗のために作った<アマガサ・パルプスリンガーフォーム>は、天気雨が上がると同時に消えてしまった。湊斗とカラカサも同様だ。
「それにしても、まぁ……」
S・Rがぼやくように口を開く。
「M・Jの本のキャラクターが、異世界転生でこっちにくるなんてねぇ……うちの子たちも来てくれないかなー」
「俺の場合は……タピオ・カーンかチャーハン神か……コーン……ウッ……頭が……」
頭を抱えたA・K。その視界の端に、バー・メキシコに近づく人影が見えた。
「あ」
A・Kが声をあげ、S・Rもそちらを見て──
「ふぃー辛かった。ただいまー」
そこに居たのは、行きつけのお店で汁なし担々麺を平らげたM・Jだった。
「「ああああああ!!!」」
「エッ!?」
突然大声を向けられて、M・Jがビクゥッと身体を揺らす。A・KとS・Rの二人はドカドカドカと歩み寄り、M・Jを取り囲んだ。
「M・Jだ囲め! 囲んで棒で叩け!!!」
「ええええなになになになにS・Rどうしたの待って待って!?!?」
「M・J! お前ーッ! 弁償しろーッ!」
「ギャーッ!? A・Kまでなに!? フライングボディアタックは危ないってうわヤメテーッ!」
M・Jがボコボコにされる様を見て、他のパルプスリンガーたちが集まってくる。誰かが発砲して、今日もバー・メキシコに騒乱が訪れる。
青々としたただの晴れ空には、大きな虹がかかっていた。
【ジ・アザーサイド・オブ・ア・レインボウ】
- 完 -
☔️🌽🌂 END CREDIT ☔️🌽🌂
この作品は、ご覧の作品へのリスペクトでお送りしました。
▼パルプスリンガーズ▼
▼パルプスリンガーズ:いざなうはワールド・コーン・ラビリンス▼
▼パルプスリンガーズ:走れ、穿て、守れ▼
▼ #AKBDC ▼
▼アマガサ本編もどうぞよろしくお願いします!▼
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