ていたらくマガジンズ__52_

ある土砂降りの夜のこと(アマガサ半刻小説)

キャラクター:天野湊斗カラカサ

 暗闇を裂くヘッドライトに照らされて、雨粒が浮かび上がる。見える範囲に膨大な量の雨が写り込み、その激しさを伺わせた。

 天野湊斗は、番傘の九十九神<カラカサ>を差したまま道の端に寄った。減速していたその車は再び速度をあげて、彼らを追い抜いていく。

 そんな様子を、カラカサは目で追った。

 ばらばらばらばら。カラカサの身体に当たる雨の音は、そんな自動車のエンジン音すらかき消すほどだ。

 最近では珍しい、滝のような土砂降り。車のエンジン音も、湊斗の足音も、カラカサのため息も、全て雨音が飲み込んでいく、そんな夜。

『……照らされるまで気付かなかったや』

 カラカサは、遠ざかるテールランプを見ながら湊斗に声を投げた。

「ん!? なんか言った!?」

 ばらばらばらばら。雨音に遮られて聞き取れなかったらしく、湊斗が大声で聞き返してきた。カラカサも負けじと声を張る。

『照らされるまで! 気付かなかった!』

「あーそうだね! 俺も!」

『すっごい降りだねー!』

「風がないのが不幸中の幸いだね!」

 カラカサたちは叫ぶように会話をしながら、川のようになった道を一歩一歩進んでいく。じゃぶじゃぶと水音がしているはずなのだけど、そんな音も全く聞こえない。

 そんな湊斗に、カラカサは言葉を投げた。

『……で、ホントにこっちで道あってんの!?』

 湊斗は「んー……」となにやら考えているようだけれど、カラカサは構わず言葉を続ける。

『オイラ的には、さっきの分かれ道はやっぱり右だったんじゃないかと思うんだけどー!?』

「あー、やっぱし、そうかなぁ!?」

 大声でそう応えながらも、湊斗は歩みを止めない。そしていつも通り、気楽な様子で言ってのける。

「まぁ、なんとかなるよ!」

『ホントかなぁ……』

 カラカサはため息をついた。湊斗はもうちょっと危機感とかを持つべきだと思う。

 ばらばらばらばら。

 それっきり会話は途絶えて、湊斗はまた黙々と歩を進める。カラカサはふと空を見上げて、降り注ぐ雨水を見つめながら呟いた。

『……冷たい雨だなぁ』

 日が沈むのとほぼ同時に降り始めた雨は、あっという間に土砂降りになった。そして、夜が更けるにつれて冷たさを増していく。

 九十九神になったばかりのころは、この感覚──そう、感覚だ──には、驚くばかりだった。なにせ、ただの傘だった頃には"濡れるのが嫌だ"などとは思いもしなかったのだから。

 昔の持ち主は雨が好きだった。カラカサを差して、水溜りを蹴飛ばして、駆け回っていた。あの頃に今みたいな"感覚"があったなら、どうしただろう。一緒にはしゃいだだろうか。それとも、身体が冷えるからそろそろ帰れと言っただろうか。

『……身体が冷える、か』

 そこまで考えて、カラカサは独り言ち、湊斗へと声をかけた。

『ねぇ! 流石の湊斗でも、この寒さはヤバいと思うんだけど!?』

「確かに、ちょっと足が冷えてきた!」

 そんな会話をしながら、カラカサは進行方向に目を遣る。その先に見えるのは、大きな樹。休むならそこだろう。湊斗のことだから、いつまでも歩きかねない。

 カラカサはそう考えて、言葉を投げた。

『もう少ししたらでっかい樹があるよ! 今日はその下で休まない?』

「そうだね、そうしようか」

『そんで、雨がやんだらさっきの別れ道まで引き返す!』

「えー、それは嫌だなぁ」

『なんで!?』

 大きな声で会話をしながら、湊斗とカラカサは道を行く。

 ばらばらばらばら。

 ──まだしばらく、この雨は続きそうだ。

(おわり)

[本編] [目次]

 この作品はニチアサライダー風変身ヒーロー小説『碧空戦士アマガサ』のお題企画から生まれた、番外編ショートショートです。
 お題企画については以下の記事をご参照ください。
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-思考メモ-

お題:「カラカサ氏が普通の雨の日に普通に傘として使われる話」

 ちょうど東京が大雨で、昨夜なんかどんな降り方したらこんな音すんの? ってくらい轟々と滝のような雨音がしてた。そんな夜の湊斗とカラカサの話とかどうだろうか。

 雨の中淡々と歩き続ける湊斗と、それにただ寄り添うカラカサの話。

 時系列的には晴香たちと出会うだいぶ前、ふたりだけで、バイクも持たずに徒歩旅をしていた頃の、どこかの町での一幕。

 カラカサ視点の独白がいいかなー。彼はきっと雨に打たれることは好きだと思うんだよな。本来の存在意義だし。でもたぶん濡れはじめは「うえー」って言うと思う。

 冷たいとか温かいとかそういう感覚があることそのものがすでに特殊で、彼にとってはそれらをリアクションできることそのものが喜びだったりするんじゃないかな。だから降りはじめは文句を言うだろう。人間みたいに

 湊斗はどうだろう。「悪いね」と言いつつカラカサをさっさと差すだろうな。カラカサが文句を言うのは最初だけだってわかってるから。シンライ。

起:昨夜の雨みたいに、辺りの音が掻き消されるほどの土砂降りの中、淡々と歩くふたり。はじめはカラカサの独白。で、痺れを切らしたカラカサが言う。「で、これは今どこに向かってるのかな?」

承:要は道に迷ってるわけで、湊斗は「あれぇ、おかしいなぁ」と言いながらも進み続ける。さっきの分かれ道を間違えたか。

転:ぶちぶちと文句を言いながらも湊斗にさされたままのカラカサ。湊斗の身体が冷えていく。ちょっと昔のことを思い出して、休憩するように提案。

結:旅は続く、いつまでも。

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所要時間:1時間25分 1394文字

 

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