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【読了】日韓インテリジェンス戦争

タイトルが刺激的なので、嫌韓や煽りの類の本かと勘違いする人もいるかもしれないが全く違う。日韓外交における外交官たちの情報戦のルポタージュだ。

この著者・町田貢氏は日本外務省の中では「朝鮮半島の生き字引き」と呼ばれ、自らを「外務省の朝鮮屋」と呼ぶくらいの朝鮮半島のプロフェッショナルだ。

そもそも、この本を読んでみようと思ったのはNHKでやっていた金大中拉致事件の特集番組で語り部の一人として筆者が登場していたのだが、その雰囲気がタダ者じゃなさ過ぎて気になったのだ。危ない橋も渡り斬り合いも経てきた百戦錬磨の古武士といった感じで、人物としてとても気になったのだ。

町田貢[マチダミツグ]
1935年生まれ。58年3月、天理大学外国語学部朝鮮学科卒業と同時に外務省入省。65年、在釜山日本国総領事館副領事。82年、在大韓民国日本国大使館参事官。90年、済州事務所長。93年、釜山総領事館総領事。96年、日本国大使館公報文化院長(公使)。98年6月に退官し、9月より韓国世宗大学教授。2001年から09年まで成均館大学教授。現在、会社役員。

『日韓インテリジェンス戦争』内容説明
軟禁中の金大中氏への秘密接触、KCIAの暗躍、美女の誘惑に潜む危険、北朝鮮と韓国の壮絶な戦い、金日成の死の真相…。秘話満載!スパイ小説よりリアルな外交官の日韓情報戦争。
目次
第1章 情報活動(美女に注意せよ;情報活動と交際費 ほか)
第2章 素顔の金大中(作られた政治家;事件を呼んだビザ ほか)
第3章 北朝鮮(拡大する南北格差;北朝鮮との接触 ほか)
第4章 韓国点描(日本人駐在員;チップの話 ほか)

40年以上も公私の別もなく、命をかけて日韓の架け橋として働いた「職人」の記録。金大中拉致事件を軸にその前後の朝鮮半島情勢も分かりやすく語られている上に、何より当時の現場の緊迫感がすごい。何十年も昔のことなのにドキドキしながらページをめくった。読んでいくうちに、日韓の政治的な背景の違いから国民感情の違いなど大きな近代の流れがなんとなく掴めていく。そのギャップが、今起きている日韓関係の悪化の根っこにあることもよく理解できる。

かと言って、私は韓国に留学して反日感情をぶつけられるようなことは全くなく過ごした。(もちろんある程度の配慮はして過ごしたが。)酒場で隣り合った見知らぬ韓国人から「嫌なこと言われたことはない?大丈夫?」「韓国に悪い印象持っていない?」などと聞かれたりして、むしろすごく気にしてるという印象だった。反日はもちろん一定数はいるのだろうが、普通に生活している中でのトラブルはまずなかった。

なので現在、日本に留学しに来てくれている韓国人留学生がトラブルに見舞われてないか嫌な思いをしていないかが個人的には気になるし、何か出来ることはないかと考えたりしている。

筆者は、日本人の中にある「アジア人への蔑視」と韓国人の中にある「日本には何をしても良い」という感情がある限り反日反韓をなくすことは出来ないと述べている。

私は韓国人ではないので韓国人の感情に関して語る資格を持たないが、日本人の「アジア人を少し下に見ている」感じはとてもよく分かる。そういう教育がされていた戦中戦後世代であれば納得がいくが、自分と同世代やもっと若い人にもそういった強い蔑視があることが解せない。

この本を読み終わって残ったのは、その疑問だった。

思うにそれはもはや「蔑視」ではなく、「焦り」「不安」「妬み」「羨み」からくる感情なのではないかと思う。

今回のコロナの一件でも分かるように、日本という国家が柔軟性も瞬発力も失い失速しこの先沈みゆくというのは子供でも何となく分かる未来だ。

そこに絶望して身動きが取れなくなっている人たちが、変化のスピードが早すぎて失敗することもあるが力強く前に進もうとするご近所のさんのことを「焦り」「不安」「妬み」「羨み」ながらジトッと見つめているのではないか。

「Cool Japan」などと自称し誤魔化したりせずに、日本の現在の状況を素直に受け入れ同じスタートラインに立つ。むしろ、日本が遅れていることは教を乞うぐらいの謙虚さでいればきっと両国感の感情は良くなる。特に韓国は面目を大事にする国民性なのできちんと立てた上で「日本を助けて貰えないか。」と頼めば悪い気はしないし、投資として手を貸す企業も出てくるかもしれない。

日本が斜陽の時代を迎えつつあることを大きな流れとして受け入れ、それでどう生きるか能動的に考え行動している人は誰かを妬んだり羨むヒマなどはきっとない。

幸いにも私の身の回りでは今を楽しみよく生きることに集中している人ばかりだが、現状にフィルターをかけてなんとか過ごしている人には「ダメになっちゃったことに素直になろうよ日本。」というメッセージはきっと届かない。

ではどうしたらいいのか?という疑問を抱きながら、同著者の二冊目を読み始めた。













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