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「書く」より「読む」を先にやる理由

私は本を読み慣れていない人間で、意識しないと本を数冊しか読まずに一年を過ごしてしまう。本を読み慣れていないと、どうやって本を選んでよいかわからない。話題になっている本にはそれなりの理由があるんだろうけれど、その理由が自分に当てはまるのか疑問に思ってしまい、読むのを躊躇してしまう。読みたいとは思っているのに、読んで損したらどうしようなどと思って選ぶことができないのだ。

また、書くことについても壁を感じていた。自分の体験を気分で書くことはできるけれど、本を読んで自分なりに咀嚼して書くということはできない。私は作家でもライターでもないので、気分だけ書いていても、何も書かなくても、特に問題はない。でも、それだとつまらないなと感じていた。

今思い返してみれば、読書の秋2020「今年の推し本」というオンラインイベントは、そんな自分にぴったりのイベントだった。

ビジネス書編と、文芸編の二つに分かれていて、それぞれ専門の編集者たちが推し本を語ってくれる。noteディレクターの志村さんが司会を務め、落ち着いた雰囲気のイベントだった。事前にnoteで募集された本の感想文も取り上げられ、読者側からの視点も入っているのも良かった。

編集者の方たちは自分で編集した本も紹介するけれど、そうでない本も等しい熱量でプレゼンしていて好感が持てた。自分の主義主張ではなく、本当に良いと思った本を他の人にも読んでもらおうとしているのだなということが伝わってきた。

私はイベントで紹介された本の中から、数冊読むことができた。選ぶ時点でつまずいてしまう人間が、読むことを強く後押しされた3冊のプレゼンを紹介する。

13歳からのアート思考

この本の紹介は、ディスカバートゥエンティワンの編集者、林拓馬さんが行った。林さんが選んだ心に刺さるフレーズは、私の小さいコンプレックスを解消しうるものだった。

「極論すれば、何も具体的な表現活動を行っていなくても、あなたはアーティスととして生きることができます。」

アーティストとは、自分の興味から探求の根をのばしていく人のことであって、作品を作る人を指すわけではないという解釈だ。

私は、アートというのは高尚で一般人とはっきり線引きされていると思っている。だけど、理解できないというのも恥ずかしい。アートが理解できたらかっこいいなという憧れもあった。

この本の感想が書かれたnoteも紹介された。そのnoteには「美術館で、作品を観るより、解説文を一生懸命読んでいることに気付かされた」と書いてあった。筆者にとって衝撃的な体験だったそうだ。司会の志村さんも、自分もそのような体験があり共感したと言っていた。私も、ついアウトプットばかり追ってしまっていることに気づく。

この本を紹介してくれた林さん自身も、自分の仕事に置き換えて、紙の本の価値を考えるきっかけになったそうだ。

著者と対話しているような形式だったり、ワークが入っていたりして、読書体験としても面白いということだったので、読むハードルが下がった。

世界は贈与でできている

この本はダイヤモンド社の編集者、今野良介さんが紹介してくれた。私は「『give&take』や『win-win』に疲れた人へ」という推しポイントに惹かれた。

give&takeやwin-winも悪いことじゃないけれど、少し圧迫感を感じることもあった。相手に何か与えられた時に、同等のものを返せなかったらしこりが残るような気がしていた。

でも、本のタイトルにある「贈与」の定義は、その不安を解消してくれる兆しがあった。

今野さんはこう説明してくれた。

「贈与は、いつの間にか誰かからもらったプレゼントのようなもので、生産性、費用対効果、コスパ、即効性など、ビジネス書の根幹にあるものかられたものである。

また、プレゼントをあげる側が見返りを求めるようであれば、あげたとしても贈与ではない。」

贈与に関して、今野さんはご自身の経験も語ってくれた。中学校の担任の先生がアルバムに書いてくれた言葉のプレゼントがあった。当時は何を言っているのかわからなかったのだけれど、大人になってから読むと感銘を受けたそうだ。そして、自分もこんな風に人に良い影響を与える本を作りたいと思ったらしい。

担任の先生も、中学生の今野さんにすぐにわかってもらおうとしたわけではなく、この言葉がいつか届くといいなと思って書いてくれたのだと推測される。今すぐ役に立つわけではないけれど、後から受け取ってじんわり暖かくなるようなものも贈与なのだなと理解できた。

私はこの話を聞いて、とてもこの本が読みたくなった。そして、読むことに決めた。

読みたいことを書けばいい

この本の紹介では、調べることの大切さについてのお話が面白かった。そもそもこの本の著者、田中 泰延さんは好きでない商品であっても大金をもらってプロモーションする仕事をずっとやってきた。しかし長年勤めた広告代理店を退社し、自分が本当に面白いと思うものや世の中にないけれど読みたい文章はなんだろうと考えたそうだ。そうして書かれたのが「読みたいこと書けばいい」という本だ。

この本は編集者の今野さんが編集された本で、「調べることは愛することだ」という言葉が印象的だった。今野さんが紹介してくれた他の2冊も、共通しているところがあった。個人的動機を起点にし、とてもたくさんのことを調べてから書かれているというところだ。

今野さんは「世界は贈与でできている」の著者、近内悠太さんのインタビューを読んでいた。近内さんは「僕は昔から、何か大きなものをもらってしまったんだけど、これは何だろうと言う疑問があった。」と言っていたらしい。今野さんは「近内さんにも個人的動機があったから、専門の哲学や様々なことを調べて本を書いたと思う。もし、調べて満足するようなことがあったら、本を書いてなかったのではないか」と推測していた。

「自分の書きたいと思ったことや個人的動機に対して、その理由って何だろうと丹念に調べていくことが、書き続けていく上で大切なことだと思う。」と今野さんは続けていた。これは、noteユーザーに向けたメッセージで、私にもとても刺さった。

読みたいものを読むために色々と調べ、それでも読みたいものがなかった場合は調べたことを土台にして自分で書いていく。まずは読むことから始まるのだ。

上記の3冊の本には、読みたいと思う動機があった。アートに対してのコンプレックスの解消、資本主義かられたものの存在意義を知りたい。書き続けるために必要なことを勉強したい。これは全て、読みたい動機であり、そして書きたいことでもあると気づいた。

たまたま、自分にとってとても合う本とめぐりあっただけなのかもしれないけれど、おそらく書店に置かれているだけでは手に取らなかっただろう。

丁寧に本をお勧めしてくれた編集者の方々と、イベントを立ち上げてくれた人に感謝したい。

このイベントをきっかけに、「読む」と「書く」を捉えなおすことができた。



note主催の読書の秋イベントは今年もやるみたいです◎



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