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小説 イシヤの夕暮れ4

雨が止まない。遅れてきた梅雨は、日本の夏を虹色に染めていく。空は曇り色だけど、時たま見せる青空が覗くと、虹のカーテンが空一面七次元のベールで覆った。間の抜けた昼行灯の僕はそそくさと作業をすすめながら感動していた。

そんな現場に変わった業者が入ってきた。それは全身入れ墨で髪は金髪で柄の悪そうな若者グループだった。
色々な業者は見てきたが、こういったタイプは始めてだった。彼等は解体業者であったが、今までの年季の入ったおっさん達と違い、恐らく暴力団に近いような風貌だったのである。

僕は必ず、10時と15時にコーヒーを買い出しに行くことになっている。この周辺にある自動販売機は1つだから、解体業者のパシリーのヒデとよく遭遇するようになった。
最初は僕がびびって、話かけることを躊躇ったが、挨拶が元気なことと同じパシリーである事実によって話す機会が増えて言った。

そして彼が半グレであることを知った。詳しいことは分からないが、彼等は暴力団に属さない悪なんだという。しかし悪も悪で仁義のルールや柵があるので、好きなことは出来ない。
兎に角金になることがあればなんでもやるという。最初は会話の内容にに抵抗があったが、少しずつ彼らのリアルが分かってきた。

ヒデは母子家庭でネグレクトにあっていたという。そのせいでろくに学校に通ったことがない。勿論義務教育をうけていない孤独な少年は夜街を徘徊しながら、カツアゲや恐喝、詐欺、窃盗を覚えていくしかなかった。必然的に同じ境遇の仲間が増えて半グレになった。しかしグループになるメリットとデメリットを考えてなかった。やはり半グレも暴力団である。必ず本物から(同業)圧力がかかる。もともとは生きる手段でやっていただけである。半グレは困り果てた。その時福島で地震が起きた。そして津浪と福島第一原発メルトダウンである。
彼等は切羽詰まっていた。そして求人案内に高収入福島復興の仕事とあった。
そうして彼等は福島第一原発に向かい被爆したのだった。僕は、それを聞いて涙が止まらなくなった。ヒデは泣くなよ、みんなが困ってたからやっただけだと言った。しかし僕は、とても哀しかった。しかしヒデの瞳はキラキラと輝いていた。熊本の震災も一番危険に飛び込んでいく彼らを不憫に思った。

雨があがった。夕日がゆっくりと沈んでいく中、ヒデと僕は漠然とした未来を思いながら、無言でただ無言で空を見ていた。

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