見出し画像

『トラック野郎 爆走一番星』:1975、日本

 トラック野郎の星桃次郎と相棒のジョナサンは、新潟での仕事を終えて東京に戻ってきた。桃次郎はパリッとした格好に着替え、写真館で見合い写真を撮影した。ジョナサンの女房・君江は桃次郎を結婚させたがっており、「近所に配らなきゃ」と言う。桃次郎は通っているトルコ風呂へ行き、トルコ嬢たちに「俺のトルコ通いも今日でしまいだ。これから見合いして結婚する」と告げた。

 交通巡査の赤塚は、重量超過のトラックを停止させた。運転手の宮崎は土下座で勘弁してもらおうとするが、赤塚は冷徹に「免停1ヶ月」と言い放った。その横にジョナサン号と一番星号が現れた。一番星号には「故障車」と紙が貼られており、ジョナサン号が牽引している。赤塚は「警察はそんな甘くないぞ。必ず尻尾を掴んでやる」と意気込み、すぐさま白バイで追跡を開始した。

 桃次郎は「よし、屁でもカマしてやるか」と言い、排気ガスを大量に放出して赤塚の顔を真っ黒にした。後ろを走ってきたバキュームカーにもガスが掛かり、運転手の杉本千秋と助手の堀釜太郎は腹を立てた。
 千秋に文句を付けられた桃次郎は、「クソが屁かぶって何が悪い」と悪態をつく。千秋が「鼻でもひん曲げてやろうか」と糞尿を放出しようとするので、慌てて赤塚が仲裁に入った。

 桃次郎とジョナサンは仕事で姫路を訪れ、ドライブインの食堂「おふくろ」で大便に向かった。紙が無いのに気付き、桃次郎は慌てて食堂へ行く。女将の蝶子に紙を頼んでいると、後ろから「どうぞ」という声がした。
 振り向くと、高見沢瑛子という美しい娘がティッシュを差し出していた。彼女は女子大生で、下宿しながら食堂で働いていた。一目惚れした桃次郎は、ウンコを我慢した。瑛子が太宰治を好きだと聞き、桃次郎は何も知らないのに話を合わせようとした。

 結局、桃次郎は食堂を出てから野グソするハメになった。ジョナサンは通り掛かった千秋に声を掛け、紙を貰えないかと頼んだ。千秋は怒る釜太郎をなだめて「いけず言うたらアカンがな」と言い、紙を渡して走り去った。ジョナサンは「いいトコあんなあ」と感心した。
 博多にやって来た桃次郎は、ジョナサンに「紙をくれた女に見合い写真を渡してくれ」と頼む。彼は瑛子のつもりだったが、ジョナサンは千秋だと勘違いした。

 桃次郎は姫路のドライブインに到着し、ジョナサンが見合い写真を渡して戻って来るのを待った。桃次郎が「返事はどうだった」と訊くと、ジョナサンは「すぐに返事なんかあるわけないだろ。見合い写真を渡してきただけだ。でも脈ありだぞ」と告げた。
 桃次郎は食堂「おふくろ」を訪れ、太宰の本を読んでいるフリをして瑛子の気を惹こうとする。一方、ジョナサンから見合い写真を渡された千秋は、桃次郎のことを気にしていた。

 桃次郎は瑛子が千秋と話しているのを見て、見合いのことを相談しているのだと思い込む。彼は協力を頼もうと考え、食堂を出た千秋を追い掛けた。
 彼は「頼みがあるんだ。俺は口下手だから好きな人の前に出ると足に震えが来て、思うことが言えないんだ」と言うが、誤ってバキュームカーのバルブを捻り、糞尿まみれになってしまう。彼は千秋の部屋で風呂を貸してもらうことにした。

 千秋に惹かれている赤塚は、釜太郎から「千秋さんはフィアンセと一緒なんだ。お風呂で体を流し合ってる」と告げられた。ドア越しに会話を盗み聞きした彼は、桃次郎と千秋が関係を持ったと勘違いした。赤塚は帰宅し、悔し涙を流した。
 ジョナサンがトラックを運転していると、ボルサリーノ2という運転手が手下2人と共に妨害してきた。路肩に衝突して鼻血を出したジョナサンが激怒すると、「テメエは忘れても俺は忘れねえぜ。テメエが思い出すまで、とことん付きまとうぜ」とボルサリーノ2は言い放った。

 ジョナサンは君江へのサービスとして、9人の子供たちを連れて新婚旅行に出掛けることにした。行き先は長崎だ。桃次郎も加えて旅行について話している最中、見合い写真に関するジョナサンの勘違いが判明した。
 慌てて桃次郎は取り消しに行こうとするが、君江が「アンタに行かれたら子供たちが車に乗らないじゃないの」と引き止める。彼女は子供たちを桃次郎のトラックに乗せるつもりなのだ。君江は「千秋さんのことは私に任せてちょうだい」と告げた。

 桃次郎とジョナサン、君江、子供たちは、トラックで長崎へやって来た。三男の幸三郎がいなくなったため、一行は誘拐ではないかと焦る。桃次郎は幸三郎と一緒にいた小野松吉という男を殴り倒すが、彼はトイレの場所を訊かれて案内しようとしていただけだった。
 松吉は「ウチにも、このぐらいの子供がいるので懐かしくなった」と口にした。子供とは別々に暮らしており、掃除人夫として雇ってもらったがクビになったという。次の仕事も見つかっておらず、待っている子供に仕送りもしてやれないと彼は嘆いた。

 一行はパールギャラリーに入り、桃次郎は瑛子へのプレゼントに首飾りを購入した。雄一という小学生が現れ、観光案内を買って出た。彼は母を亡くし、出稼ぎに行って1年も帰らない父の帰りを、姉の薫と一緒に待っているという。
 雄一は一行を家に連れて行き、謝礼として貰った金を薫に見せた。すると薫は「よその人に甘えたらいけんと、お父ちゃんが教えたと。こんなお金を貰ったら、父ちゃんがきっと悲しむ」と言い、金を返した。桃次郎もジョナサンも、姉弟が健気に生きている姿に心を打たれた。

 長崎旅行を終えた一行は、食堂「おふくろ」に立ち寄った。桃次郎は蝶子から、瑛子に男の客が来ていることを知らされた。下宿している部屋へ向かうと、涙ぐんでいる彼女が階段を下りてきた。その後ろから現れた片岡光二に、彼女は「もう来ないで。今の生活を壊されたくないの」と告げる。
 桃次郎が光二に食って掛かると、瑛子は「兄なの」と説明した。光二が去った後、瑛子に「今度、九州へ連れていってくださる?」と誘われ、桃次郎は喜んだ。

 ジョナサンと君江は千秋と会い、桃次郎との見合いを破談にして別の相手を勧めようとする。しかし千秋の気持ちは桃次郎に傾いており、「お話、お受けしますってお伝えください」と言われてしまう。
 焦ったジョナサンは桃次郎の元へ行き、「千秋さんと結婚してくれ」と頭を下げた。桃次郎は「瑛子さんに渡してくれって言ったじゃねえか、このトンチキ」と怒鳴るが、それを千秋が目撃してしまう。千秋は気丈に振舞うが、心の中では泣いていた。

 ジョナサンが食堂「おふくろ」で食事をしていると、ボルサリーノ2が手下を連れて現れ、「まだ俺のことを思い出してくれねえのか」と言う。ボルサリーノ2は、宮城県警交通担当で花巻の鬼代官と呼ばれていた頃のジョナサンにパクられたことを責め立てた。桃次郎は「いいかげんにしろよ。昔はどうでも今は仲間じゃねえか」と止めに入り、ボルサリーノ2と殴り合いを始めた。

 桃次郎に「トラック野郎の風上にも置けねえ」と言われたボルサリーノ2は、「トラック野郎なら俺の気持ちが分かるはずだ」と感情的になった。彼は18歳の時に父親を亡くして病気の母親を抱え、全財産の畑を売って、借金をしてトラックを買った。
 月賦に追われ、違反しないと稼げない中、ジョナサンに目の仇にされた。泥の中に頭を突っ込んで土下座したが、「市民の安全を考えろ、このクモスケ」と罵倒された。猛スピードで追われてトラックはメチャクチャになり、免停6ヶ月を食らった。借金だけが残り、母親は病院を追い出されて死んでしまった。そんなことがあったので、ジョナサンを激しく恨んでいたのだ。

 ボルサリーノ2はジョナサンに「テメエ、トラック野郎ならハンドルで勝負して来い」と言い放ち、赤穂まで40キロのレースを要求した。すると桃次郎は「俺との勝負が付いちゃいねえ」と告げ、ジョナサンを殴って気絶させた。彼はボルサリーノ2に「俺が相手だ。俺が勝ったらジョナサンから手を引いてもらうぜ」と述べた。
 2人が勝負していると、ジョナサンがトラックで割り込み、「俺が勝負する」と叫んだ。2人の友情に心を打たれたボルサリーノは、トラックで走り去った。

 桃次郎は瑛子をトラックに乗せ、長崎へ出掛けた。途中で薫と雄一を乗せて、天草を観光した。瑛子は「富士山に行こうと思っていたけど、天草の方がいいわ。勇気が無いのよね。肝心なところで、いつも踏み切れない」と言う。桃次郎は「勇気は人に貰うものじゃありません。自分自身で踏み切るものです」と告げた。一行はジョナサンと合流した。
 ジョナサンは薫と雄一に、父親から届いた手紙を渡した。そこには、今年中に帰って来ることが書かれていた。父親の写真を見せられた桃次郎とジョナサンは、松吉だと気付いた。

 瑛子は光二と会った。光二は瑛子の姉の元夫で、富士山で観測技師をしていた。2人は愛し合っていたが、瑛子は光二が姉の元夫であることから、心に迷いがあった。
 光二に「来て欲しいんだ」と言われ、瑛子は「出来ない。姉さんに済まない」と断る。「お互いに、もう充分苦しんだじゃないか」と光二は説くが、瑛子は「もうこれ以上、苦しめないで」と告げて、その場を去った。

 悪酔いした赤塚は桃次郎のトラックを停止させ、彼に手錠を掛けようとした。突き飛ばされた赤塚は、「僕は千秋さんが好きなんだ」と喚いた。それを千秋が聞いていた。兵庫県警のパトカーが現場に現れ、赤塚を連行した。
 懲戒免職になった赤塚が警察署を出て来ると、桃次郎が待ち受けていた。桃次郎は赤塚をトラックに乗せ、食堂「おふくろ」へ連れて行く。すると、トラック野郎たちは赤塚と千秋の披露宴を用意していた。

 ジョナサンは桃次郎に、君江を相手役にしてプロポーズの練習をさせた。明日は大晦日だ。ジョナサンは薫と雄一の元へ、晴れ着やお餅を持って向かった。桃次郎は姫路へ行き、勇気を出して瑛子にプロポーズしようとする。だが、瑛子は気持ちに踏ん切りを付け、光二と結婚することを決めていた。瑛子は「さようなら、良いお年を」と告げて立ち去った。
 落ち込んだ桃次郎がトラックを走らせていると、松吉が目の前で車に飛び込んだ。切羽詰まった彼は、当たり屋で金を作ろうと考えたのだ。桃次郎は「バカ野郎」と殴り付け、「子供が帰りを待っているんだ。よし、俺が長崎まで送ってやる。乗れ」と、強引に助手席へ引きずり込んだ…。

 監督は鈴木則文、脚本は鈴木則文&澤井信一郎、企画は天尾完次&高村賢治、助監督は澤井信一郎&馬場昭格、撮影は飯村雅彦、編集は鈴木宏始、録音は井上賢三、照明は山口利雄、美術は桑名忠之、擬斗は日尾孝司、音楽は木下忠司、主題歌「一番星ブルース」は菅原文太&愛川欽也。

 出演は菅原文太、愛川欽也、あべ静江、春川ますみ、加茂さくら、なべおさみ、田中邦衛、夏八木勲、研ナオコ、山城新伍、由利徹、笑福亭鶴光、園佳也子、織本順吉、西来路ひろみ、ラビット関根(現・関根勤)、大泉滉、三原葉子、佐藤京一、相馬剛三、小林稔侍、団巌、藤山浩二、佐藤晟也、叶優子、城恵美、土山登士幸、大木悟郎、飯塚文雄、笠井うらら、宮崎あすか、亀山達也、きくち英一、三上良、小川レナ、岡田京子、清水照夫、沢田浩二、幸英二、司裕介、高並功、高月忠、宮地謙吾、横山繁、宮崎靖男、奈辺悟、梅地徳彦、梅津昭典、白取雅子、菊地優子、高橋直美、千葉由美、薄田拓己、角所由美、吉崎勝一、小牧準、大久保純ら。

―――――――――

 シリーズ第2作。前作が予想外に大ヒットしたため、シリーズ化されることになった。監督は前作に引き続いて鈴木則文。
 桃次郎役の菅原文太、ジョナサン役の愛川欽也、君江役の春川ますみは前作からの続投。瑛子をあべ静江、千秋を加茂さくら、赤塚をなべおさみ、ボルサリーノを田中邦衛、光二を夏八木勲、写真館のカメラマンを由利徹、蝶子を園佳也子、松吉を織本順吉、釜太郎をラビット関根(現・関根勤)、ボルサリーノ2の手下を佐藤京一&小林稔侍が演じている。

 冒頭、研ナオコ演じる女教師と女学生たちが観光バスに乗っていると、「いい声してるね。でも処女じゃありませんね」という声が入り、後ろから桃次郎号とジョナサン号が登場。「失礼しました、今のは新設した無線機のテストでした。お詫びにリクエスト申し受けます」と促され、女学生が「ナオコ先生に捧げる歌」と言う。
 先生は「『愚図』でしょ」と持ち歌を言うが、女学生は声を揃えて『心のこり』をリクエスト。するとデコレーションの「里の秋」の文字が「しくらめんのかおり」「浪曲子守唄」と入れ替わり、「心のこり」になる。桃次郎とジョナサンが歌い出すと、女学生も合唱する。冒頭からデタラメだけど、すげえ楽しそうだ。

 次のシーンでは、「スマタ三四郎」「トルコの帝王」という飾りの付いたデコトラが走っている。運転手は山城新伍演じる須間田三四郎。セーラー服のダッチワイフを抱き締め、「アホやなあ、ジュンコ。パパ、運転しにくいやないか」とブチュー。通り掛かったジョナサンにダッチワイフをセールスする。
 「一番星、すりむけたって言ってたぞ」と言われると、「こないだは砂利運んどったから砂が入ってたの。でも今日は油運んでるから、滑りがエエよ」と、下ネタ満開だ。ちなみに、ジョナサンと君江が桃次郎の代わりとして千秋に勧める見合いの相手は三四郎。おいおい、千秋に失礼だろ。

 桃次郎はパリッとした格好に着替えてバラを持ち、見合い写真を撮影する。桃次郎にしろジョナサンにしろ、自分ではイケてる服装にしたつもりの時は、必ずダサい姿になっている。
 で、桃次郎はトルコ嬢に刺し身を振る舞いながら、「トルコの女は千人以上やってるが、処女はやったことがねえんだ。それが俺の夢なんだ。早く星がチカチカってしねえかなあ」と、女性に対してかなり失礼なことを、ものすごく嬉しそうに喋っている。

 桃次郎が瑛子と出会うと、彼女の周囲には星がチカチカと瞬いて見える。蝶子に「ウンチやろ」と言われると、「ウンチ?下品な。そんなモン、僕は出さないですよ。鼻風邪ひいたもんですから」と下手な嘘をつく。
 瑛子が太宰治を好きだと聞くと、「僕も大好きなんです。あれはとっても美味しいです。美味しい太宰の詰め合わせを買ってきます」と、トンチンカンなことを言い出す。

 太宰が小説家だと知った桃次郎は、ビニ本売りの笑福亭鶴光に尋ねる。だが、単なるビニ本売りが太宰など知るはずも無く、「そんなつまらんモンより」と『オナニー女子大生』なるビニ本を勧められる。
 太宰の本を手に入れた桃次郎は、詰め襟姿で食堂「おふくろ」へ赴き、瑛子を見つけると大声で「太宰は面白いなあ」と喚く。で、「人間失格ね」と言われると「それが返事ですか」、彼女が「生まれてすみません」と口にすると「子供を産んだんですか」と、いちいち勘違いする。

 シリーズの定番である排泄ネタの一つとして、桃次郎はバキュームカーの糞尿まみれになり、千秋の部屋で風呂を借りる。で、そこへ赤塚が来て、ドア越しに2人の会話を盗み聞き。桃次郎が乾いていないフンドシを取り、千秋は「こんなに濡れてる。せっかちなんだから」と言う。ズボンを履いた桃次郎が「さあ、行くぞ」と口にする。
 それらを全て、性交渉だと勘違い。で、「ああ、痛い」「血が出てるじゃねえか、拭いてやるよ」という会話に、処女貫通だと勘違い。でも実際は、千秋が指を切っただけ。

 薫と雄一が登場すると、お涙頂戴のターンへと移る。このシリーズ、『男はつらいよ』シリーズを参考にして作っているので、下ネタや排泄ネタばかりじゃなくて、人情ドラマも必ず盛り込んでくる。
 ボルサリーノ2がジョナサンに苦しめられた過去を語るシーンも心に訴え掛けるものがあるし、「この日本に、市民なんてどこにいる?金持ちと貧乏人の2通りじゃねえか」は名言だね。

 他にも、トラック野郎たちが赤塚のために披露宴を開くシーンとか、ボルサリーノ2がパトカーに追われる桃次郎を助ける終盤のシーンとか、おバカでオゲレツなノリの中に、チョイチョイとトラック野郎の心意気、人情ドラマを盛り込んでいる。
 桃次郎が松吉をトラックに乗せ、自分の幼い頃の境遇を語った後で「おっかあのいねえ子は寂しいもんだぜ、せめて親父が傍にいてやらるえとな」と、懐から無造作に札束を取り出して渡すのも、ホロリとさせるシーンだね。

(観賞日:2010年8月4日)

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?