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最近みた展覧会、リヒターとか 往復書簡#24

画家・小河泰帆さんとの往復書簡24回目ですよ。
前回はこちら。

友人たちとミニシアターでオールナイト興行、とても楽しそうです。映画館の椅子の感触と眠気もセットで、良い思い出ですね。
私、オールナイト興行は15年くらい前に、タランティーノとロドリゲスの映画数本立てを見に行ったことあります。両監督による「グラインドハウス」という、60-70年代アメリカB級低予算映画へのオマージュ作品の、日本公開にあわせた上映会でした。この映画は仕事上がりの疲れた頭で、ポップコーンとコーラ片手に劇場でだらだら見るのが正しいスタイルかしらと思って、そういう環境をつくって、うつらうつらしながら大音量にたまにビクッとしつつ見ましたよ。鑑賞体験は、味わうシチュエーションも結構大事ですよね。

DIC川村記念美術館「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」、私も行きました。素晴らしかったです。なんていうか、目に入った瞬間に身体と頭が喜ぶ感じがあります。色が感情に与える力は本当に強いと思ったし、圧倒的な美しさに心酔しちゃいますね。脳内麻薬が大量にでました。前回の書簡で小河さんが「作品空間の中に制作者の私も、鑑賞してくださってる方もどんどん開いて行って、一緒に没入してほしいという欲望を持っている」って書かれてましたけど、そういう種類の体験ができる展覧会でした。

タシロさんの最近いった展覧会の感想も聞いてみたいです。おすすめの展覧会などありましたら、是非教えていただけると嬉しいです。

往復書簡#23より

国立近代美術館の「ゲルハルト・リヒター展」は、開幕早々に友人と見てきました。今回まとめてアブストラクト・ペインティングの大作をみて、こんなに硬質な絵だったっけと思いましたよ。画面が迫ってくるとか吸い込まれるといった感じは希薄で、共感によって気持ちよくなることを拒否してる絵にみえたんですよね。今までは、厚塗りのマチエールの面白さや部分的なかっこよさの方に目がいってて、そういうふうには思わなかったです。
特にビルケナウの4枚は色調とサイズのせいもあって、もはや砂嵐の壁にみえて、しかも部屋の正面には《グレイの鏡》ですよね。とどめを刺しにきてるのかなと思いましたよ。不意に自分の姿を見せられるって、一般的には興ざめする体験だと思うんですよね。現実世界へ強引に引き戻される感じ。《グレイの鏡》の反対側の壁面に展示されているのは強制収容所の写真だから、映る自分の背後にはその写真があるわけで、両脇には砂嵐の壁、正面をみるとガラス越しに自分と目が合って。お前はそこで何を思うのかと、問われているような。
他の作品についても色々と思うことは多かったですよ。考えることを強制してくる作品群ですよね。

ほかに今開催中の展覧会で面白かったのは、アーティゾン美術館「写真と絵画-セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策」です。
二人の写真家の展覧会で、絵画作品との関係を問うというものです。絵画的な写真って確かにあって、何をもってそう感じるんだろというのは、自分でも気になっていたので面白かったです。展覧会の入り口付近の柴田敏雄さんの写真、完全に抽象画家の目で撮影された作品でした。

リヒターのフォト・ペインティングみても思うんですけど、写真と絵画の領域の線引きって、今までも曖昧なゾーンはあったけどそれでもなんとなく棲み分けがあったのに、レタッチソフトの登場した現代では領域が重なりすぎていて、違いがよくわかんなくなってる感じがします。なんとなくの棲み分けラインの前提を共有できている世代じゃないと、わからない感覚がありそうに思います。
あと、鈴木理策さんの、ハーフミラーごしに撮影した肖像写真シリーズがあって(モデルからはカメラマンが見えなくて、モデルはミラーと向き合っている)、とても面白かったですよ。鏡をみている自分の顔を鏡越しに撮られるって、むちゃくちゃ恥ずかしくないですか。想像しただけで、ギャーってなるんですけど、こういう感覚も、日常生活に撮影行為がどれだけ入り込んでいるかで違うのかもしれません。

そろそろ会期終了ですが、町田市国際版画美術館「彫刻刀が刻む戦後日本-2つの民衆版画運動」も良かったです。版画の展覧会で、戦後の日本で展開した民衆版画運動を紹介したものです。大好きなケーテ・コルヴィッツの版画が2点展示されていて、大喜びですよ。しかも1点は町田市国際版画美術館が所蔵だった、町田市いいもの持ってらっしゃる。
この展覧会、展示されている版画も面白かったのですけど、美術史ってなんだっけっていうモヤモヤを少し晴らしてくれるというか、一部のお金持ちたちがつくる美術の歴史以外にも、美術の歴史ってあるよねとちゃんと言ってくれるのが素晴らしいなと思いましたよ。
美術館の仕事って、流行りの作家の作品を並べることだけじゃないはずで、竹橋でリヒターをみれるのは嬉しいですけども、リヒターはギャラリーでも見れるわけですからね。しかも無料で。
地方の公立図書館の郷土資料編纂室の仕事などにも近いのですが、もと司書としては胸があつくなる感じの展覧会でした。


図録はつい読みふけってしまいますね


さてさて、次の質問。
先日SNSで小河さん、教職免許もってるってつぶやいていたような気がします。
教育実習いったのですか。絵画教室とか、単発のワークショップとか、美術予備校とか、絵を指導するお仕事っていろいろありますけど、そういうのに携わったことがもしあったら、思い出話聞かせてください。