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不定形パネルと触覚について 往復書簡#14

画家・小河泰帆さんとの往復書簡14回目ですよ。
前回は完成を決めるタイミングについてのお話でした。

完成を決める難しさ、本当にそうだよなと思いました。

自宅の壁に飾っての検証は、時間が許すかぎり私もよくやります。
この作業、私は作品を忘れないとできないので、数日のあいだ絵を隠しておきます。
描いたばかりの作品は、自分と一体化してしまっている感覚があります。たっぷり絵具を含んだ筆を滑らせた時の快感や、ある色をおいた瞬間にもたらされたドラマチックな画面変化など、制作過程の記憶が邪魔をしてしまい、完成品に対する良し悪しの判断が全くつかなくなっていることが多いのです。
いちど自分と剥がさないと駄目ですね。

さてさて、小河さんからの質問はこちらです。

タシロさんは自分でパネルを制作してから描かれていますが、ただの四角ならまだしも、不定形のキャンバスって結構大変だと思うんですよね。なぜ不定形なのかやパネルの制作にまつわることなどをお伺いしたいと思います。
往復書簡#13より

パネルは厚みを出す、角を丸くする、全体的に歪ませるなどの加工をしたものを使用しています。自宅のお庭で、ジグソーやサンダーなど電動工具を使って自作します。
小品ならともかく、1辺1mを超えてくると結構な大工作業なのですが、やるとやらないとでは大違いなので毎回頑張っていますよ。
自分の描きたい世界にかなった形だと考えています。

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《used#30》
14×18×5.5cm/パネルにアクリル、鉛筆、樹脂、砂/2017年制作

通常の四角い絵には、画面の奥へ広がる背景の一部をトリミングした感じがありますが、四角を少し歪ませた形にかえると、もっと手前に物体がある感じに変わると思うのです。絵の枠線が便宜上におかれた線ではなく、現実にある物体の輪郭線になるんですよね。物としての存在感が強調されて、とても面白いです。


小河さん前回の冒頭で、私の絵に対して「絵の具の質感や盛り上がり方にフェティッシュな美しさを感じる」って書かれてましたが、どきっとしました。
図星と言うか、私はツルツルとかザラザラとか、触覚にまつわる物理的な刺激を偏愛しているところがあるんですよね。

そもそもにあたる、絵画制作の動機となっている感情も、日用品という直接肌が触れ合う距離にある手垢まみれの物体に対する偏愛で、ご承知のとおり《used》(古着、使い古した)シリーズから始まってます。

なので、パネルを不定形に加工することで、描きたいものをそのまま持ち込んでいる感覚があります。絵の具にはメディウムを足して、物理的に質感を与えていますし、描写によってではなく存在感や質感をじかに持ってきて絵を描いているので、やっている仕事はコラージュに近いのかもしれません。
私の表現にとって、物としての存在の強さは、無くてはならないものですね。

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《relationship#19》
24.2×33.3×3.5cm/パネルにアクリル、鉛筆、樹脂/2019年制作


さてそれでは、お次の質問です。


自分の偏愛ポイントが普通にばれていたので、小河さんのそういうのも聞きたいです。
多くの画家にとって絵画制作は、苦しくもありますが、それと同等もしくは勝る快感をもたらすものだと思うのですよ。だから小河さんも描き続けてるわけですよね。

特にこの工程が好きなんだよね、というものをぜひ熱く語ってください。

愛用している画材道具のお話とかでもいいです。