日本型教育の特徴と教育改革などについて

幼児教育や高等教育の無償化の議論等、教育への注目は高まっている。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)や人生100年が叫ばれる時代である昨今。教育の利益は、学校卒業後に安定した職業に就けるようにすること、労働所得の増加、さらに労働所得の増加により社会福祉に対する依存が弱まり、関連する政府支出の抑制や犯罪の減少などが考えられる。アジア人初のノーベル経済学賞の受賞者であるアマルティア・セン氏は、教育と健康は、人間の生の発展における本質的な能力、すなわち「ケイパビリティ」であるとする。そして、ケイパビリティなしでは、自由やウェルビーイングといった概念は意味をなさないとする。また、私たちが教育について関心を持つとき、親や子どもは「学力が高くなる」、「良い仕事に就ける」ことなどもあるだろう。このように、教育は個人や社会の厚生を増大させるものであり、より望ましい教育政策が採用されるべきである。

当記事では、大阪府大阪市が同府および同市が実施する独自のテスト結果を基に、小中学校の校長の人事評価に反映させる制度を、2020年度から本格導入する方針を決めたことが話題になっている。

同市は2018年度の全国学力テストの結果が政令指定都市において最下位だったことを受け、全国学力テストの結果を教員等の給与に反映させる意向があった(「教員評価 大阪府市のテストで19年度試行 市長方針」『日本経済新聞』電子版2018年9月14日)。その後、この意向を変更していた。

ここではブログ記事等を引用し、日本型教育の特徴や大阪市の教育改革などについて見ていくこととする。

目次
1. 「日本型教育」の特徴

 1-1 教育支出は多い?少ない?
 1-2 教員はやっぱり忙しい⁉︎
2. 大阪市における教育改革について
3. まとめ

1.「日本型教育」の特徴

当文中では主に「サルタックの教育ブログ」を参考にする。

まず、「日本型教育」の特徴について、確認してみる(「OECD教育データが物語る「日本型教育」の特徴」「サルタックの教育ブログ」2018年10月9日)。

1-1 教育支出は多い?少ない?

(1)生徒一人当たり支出額(学習者一人当たり、どの程度の資金が投入されているか)

実際に日本は初等教育から高等教育まですべて合わせて考えると、学習者一人当たり12,120米ドルで、OECD平均の10,391米ドルよりも高くなっています。
(「OECD教育データが物語る「日本型教育」の特徴」より引用)

(2)国全体の経済力(GDP)のうち教育セクターに投入されている資金の割合

これを見ると日本(4.1%)OECD平均(5%)よりも低くなっています。
このうち、初等教育~中等教育に絞るとOECD平均3.5%に対して日本は2.7%就学前教育(3歳児以降)に至ってはOECD平均0.6%に対して日本は0.2%に過ぎません。
さらに、一般政府総支出に占める教育支出の割合は、初等教育~中等後教育段階については日本が6.3%OECD平均が8%高等教育については日本が1.7%OECD平均が3%となっています。
(同上)

(3)教育支出を「誰が負担しているか」

日本の場合、初等教育~中等教育については、多くのOECD加盟国と同様に、9割以上の支出が公的資金によって賄われています。
しかし高等教育になると私費負担の割合が非常に大きくなり、総支出の68%は民間支出で、OECD平均(30%)の二倍以上となります。且つ、この民間支出の内訳に着目すると、日本の場合は総支出の52%が家計負担であり、OECD平均(21%)と比較しても、特に学習者やその家族が高等教育セクターを財政的に支えている(負荷を負わされている)ことが分かります。
就学前教育についても、総支出のうち52%は民間支出、そのうち65%が家計負担です。
(同上)

(4)教育支出に関する財政の質(どのように当該支出が使われているか)

日本では他国と比べると教員給与等の人件費などに対する支出割合が小さく、逆に初等教育~中等教育段階における総教育支出に占める資本的支出(インフラ支出)の割合は13%で、OECD平均(7%)の約2倍に当たります。
どのような支出構成が望ましいのか、という点についてはさらに細かな検証が必要になるため、なかなかこうしたマクロ統計だけでは論じきれませんが、少なくとも教育支出について考える際には、こうした質的な要素についても目を配りたいところです。
(同上)

1-2 教員はやっぱり忙しい⁉︎

例えば小学校のクラスサイズ(1クラス当たりの平均児童数)を見てみると、OECD平均21人に対して日本は27人で、チリ(30人)に次いで多くなっています。
さらに中学校になると、日本は1クラス当たり平均生徒数が32人OECD平均の23人より9人も多くなります。
(「OECD教育データが物語る「日本型教育」の特徴」より引用)
日本の教員(就学前~中等教育)の法定労働時間は平均年間1883時間に上り、OECD平均(約1600時間)より200時間以上も長くなっています。
(同上)
必ずしも長い勤務時間が学習指導に割かれているわけではなく、生徒指導や部活動、その他の事務作業等も含めて対応している結果として、長時間労働になっているという点です。
(同上)

上記で指摘されている教員の長時間労働の要因のひとつである部活動について、公立中学校の場合、週3日以上の休養日を設けるなど、教員の負担軽減策を実施している学校に対し、部活動指導員の配置補助金を優先的に配分する方針を文部科学省が決定することも話題となった。

また将来的には、たとえばJリーグのクラブと自治体によるまちづくりとして、部活動の支援や外遊びのきっかけなどが拡大していくことも予想されるだろう。

2.大阪市における教育改革について

2018年に大阪市長が全国学力テストの結果を教員等の給与に反映させる意向を表明したのち、NPO法人サルタック理事の畠山勝太氏が、次のような記事を書いていた(「大阪市が目指す教育改革は「最先端から2周遅れ」の間違った改革だ」『現代ビジネス』2018年8月8日)。

畠山氏が指摘する点は、主に次のようなものだろう。

まず、学力に対する過剰な重視。学力は重要であるが、現代は学力以外のスキル、たとえばソーシャルスキルや非認知能力なども高めるべきであり、学力の過剰な重視は他の目標の実現を阻害する。

次に、教員の給与制度である。教員の職能成長のカギである教員間の連携や協働性が阻害される。また、メリットペイによる不正行為や不公正性も挙げている。

また、学力テストだけで教員の能力を測ることが難しいことなども挙げられるだろう。

3.まとめ

たとえば、「あの人は東京大学の卒業か」ということはテレビ番組の企画などを見てもよくあることだろう(私は夜間学部の大学の卒業ですが...)。

教育はメリトクラシーとの議論や、学歴という個人におけるセンシティブな問題などに関わる(私の経歴は逆に珍しいかもしれない...)。また教育と文化資本は個人の格差、たとえばハビトゥスなどによって現れることもある。このため、より望ましい教育を受ける、受けさせることにより個人の厚生の拡大はより大きくなるだろう。

大阪府大阪市の教育改革では教員等が注目されているが、教育については教育を受ける生徒等も考慮した議論がなされるべきである。これからの教育ではICT等を活用した教育が拡大することも予想される。たとえば教員の主な役割は、ティーチングからファシリテートに変わっていくことも考えられる。また、生徒も0→1(ゼロイチ)や1→10(イチジュウ)で思考できるように学ぶこともあるだろう。

さらに教育では教員、生徒や学生における議論が多いが、ビジネスパーソンも学び続けることで、苦役としての労働(Labor)から働くことを活動とする(Action)への解放につながる。

学ぶ姿勢を持ち続けることもまた、教育や文化のひとつとして重要だろう。

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