経済学と経営学で、コンビニとフランチャイズなどについて考えてみる
「24時間営業はもう限界だ」。
総務省が2019年2月1日に公表した「労働力調査」によれば、2018年平均の完全失業率は2.4%となり、8年連続の低下となっている。また、完全失業者も9年連続の減少だ。ゆるやかな景気の回復基調と企業の人材獲得競争。あるコンビニエンスストアのオーナーが、人手不足を理由にコンビニの24時間営業をやめたことが話題となった。
当記事では、コンビニエンスストアの課題として、デジタルエコノミー時代における店舗型小売業のビジネスモデルの構築の必要性が提言されている。
人手不足からコンビニの24時間営業が難しくなっている問題に対して、経済産業省は大手4社に行動計画を要請することも話題となった。当文中では、人手不足や賃上げの問題、フランチャイズの現状、コンビニの新しいビジネスモデルなどについて考えてみることとしたい。
1. フランチャイズシステムについて
小売業やサービス業、外食産業の分野において、フランチャイズシステムによって事業を展開するケースは多い。たとえば、当記事において話題となっているコンビニエンスストアもフランチャイズシステムによって経営されていることがほとんどだ。
フランチャイズの歴史は古く、1850年代に、米国においてシンガーがミシンの流通を促進するためにフランチャイズシステムを確立したのが始まりだと言われている。その後、コカコーラによるソフトドリンクのボトラー、フォードによる自動車ディーラー等へ広がっていったとされる。これらの伝統的なタイプの契約関係は、「商標・商品型フランチャイズ」と呼ばれている。
また、もう一つの経緯として、米国で1930年代にレストランの分野で始まり、1950年代にダンキンドーナツ、マクドナルドなどで始まった新たなタイプのフランチャイズシステムは、「ビジネスフォーマット型フランチャイズ」と呼ばれている。この新たなフランチャイズシステムは、フランチャイザー(本部)がフランチャイジー(加盟店)と契約を結び、、自己の商標を使用する権利に加えて、本部が開発した事業や店舗経営に関するノウハウを使用する権利等が与えられ、本部と加盟店が同一のビジネスフォーマットのもとに共同で事業を進めるものである。
私たちが一般的にイメージするフランチャイズシステムは、「ビジネスフォーマット型フランチャイズ」だろう(下図参照)。
2. 日本のフランチャイズの現状
日本においても広く一般的に活用されているフランチャイズシステム。ここでは、日本のフランチャイズの現状について確認してみることとしたい(下図参照)。
「2017年度JFAフランチャイズチェーン統計調査」によれば、コンビニエンスストアにおける2017年度の売上高は11兆252億円となっている。経済産業省から公表されている「商業動態統計」によれば、2017年度のコンビニエンスストア販売額等は11兆8019億円となっていることから、多少の差はあれど、フランチャイズシステムが大きな役割を果たしていることが分かる。
さらに、コンビニエンスストアの成長のプロセスを確認してみることとする。1983年度には6126億円だった売上高が、2014年度に10兆円の壁を越えている。また店舗数は、1983年度の6308店から2017年度には57956店となっている(下図参照)。
この20年、30年ほどで、私たちの生活に占めるコンビニエンスストアの重要性は高まり、インフラとしての機能を果たしていると考えることもできるだろう。
次に、企業がフランチャイズによって事業を拡大する理由について確認することとしたい。
3. フランチャイズ契約の理論仮説
企業が直営ではなくフランチャイズによって事業を拡大する理由については、さまざまな研究がある。
たとえば、本部による加盟店のモニタリングとコントロールという点からフランチャイズの選択を説明し、本部を依頼人(プリンシパル)、加盟店を代理人(エージェント)とするエージェンシー関係による考え方もある。
プリンシパル・エージェント理論によると、フランチャイズ契約のもとでは、加盟店は自己の成果にもとづく報酬を受け取るため、成果に依存せず固定的な賃金が支給される直営店の場合に比べて、加盟店には成果を上げようと努力するインセンティブが与えられる一方で、加盟店は販売に伴うリスクにも直面することにもなる。このため、加盟店に対して努力へのインセンティブを高めることが重要であるほど、また、加盟店側のリスク負担のコストが低いほど、直営よりもフランチャイズを採用することが有利であると議論されてきた。
しかし、エージェンシー関係にも問題は生じる。たとえば、アドバース・セレクション(逆選択)やモラルハザードがある。アドバース・セレクションは、プリンシパルとエージェントが持つ情報量に格差が存在するため(情報の非対称性)、より多くの情報を持つ主体が、より情報を持たない主体に対して優位に立つことなどから生じる。また、モラルハザードはプリンシパルがエージェントの行動をすべて管理監督することができないことから、エージェントがプリンシパルにとって不都合な行動をとる問題である。
たとえば、政治家と官僚の関係もプリンシパル・エージェント理論で考えることができる。官僚(エージェント)は政治家(プリンシパル)に対して情報優位に立つ。そして、官僚と政治家にズレが生じる場合がある。このズレをエージェンシー・スラックと呼び、政党優位論か官僚優位論かの対立の議論などもある。
話題が逸れたので、話をもとに戻そう。
このようなプリンシパル・エージェント理論のほかにも、フランチャイズ方式を採用する理由として、資金の制約やフランチャイズビジネスから得られる利益のシグナリングなどに着目した研究がある。また、フランチャイズ契約におけるロイヤリティや加盟金の構造については、本部と加盟店の双方のモラルハザードがロイヤリティの導入を促すという仮説などもある。
フランチャイズ方式の採用に関する理論仮説を、下図のようにまとめてみた。
たとえば、フランチャイズの採用に関する通説として、資金制約の議論がある。すなわち、本部が直営店によって店舗を拡大するための資金調達が困難であるとき、本部は加盟店を募集し、フランチャイズシステムによって店舗を拡大するというものである。
このほか、フランチャイズ契約は、本部と加盟店間の効率的なリスク分担のために採用されているという仮説がある。また、ロイヤリティはリスク分担の手段として採用されるという仮説もある。加盟店の商品の販売リスクが増大すれば、本部は固定的な加盟金に加えて、需要の変動に応じたロイヤリティを設定する契約を採用して、本部も販売リスクを分担する必要があるというものだ。
次に、日本のコンビニエンスストアの現状を確認することとしたい。
4. 日本のコンビニエンスストアの現状
まず、コンビニ大手3社(セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン)の日販について確認することとしたい。
平均日販(全店及び新店)の推移は下図のとおりとなっている。
また、2017年度の平均日販は、次のとおりである。
・セブンイレブン(2017年度)
(全店)653,000円、(新店)546,000円
・ファミリーマート(2017年度)
(全店)520,000円、(新店)501,000円
・ローソン(2017年度)
(全店)536,000円、(新店)491,000円
さらに、売上に占める商品別の構成比のグラフを作成してみた(下図参照)。
このグラフからわかることは、セブンイレブンは「ファスト・フード」が強く、ファミリーマートは「日配食品」の売上の割合が高いということだろうか。
続いて、それぞれの売上高総利益率および売上高営業利益率の推移を確認してみることとする(下図参照)。
2017年度の売上高総利益率は、次のとおりとなっている。
・セブンイレブン(2017年度):91.5%
・ファミリーマート(2017年度):84.6%
・ローソン(2017年度):90.1%
フランチャイザーの売上高総利益率は、直営店とフランチャイジーの構成比によって変わってくる。フランチャイザーの売上高総利益率を簡略化して書くなら、(直営店利益+ロイヤリティ収入)/(直営店売上高+ロイヤリティ収入)とできるだろう。すなわち、フランチャイザーの売上高総利益率はフランチャイジーが多く、またそこから得られるロイヤリティ収入が高いほど、フランチャイザーの売上高総利益率は高くなる。
フランチャイザーはプライベートブランドのより良い新商品などを開発し、より多くの消費者を獲得できるようにする。一方、フランチャイジーは良い店舗運営を行って日販を高めることで、フランチャイザーにより多くのロイヤリティを支払う。また、フランチャイザーおよびフランチャイジーの双方は、モラルハザードを回避するための努力等を行う。フランチャイザーおよびフランチャイジーの双方の努力等により信頼を高め、正のサイクルが回ることで、競争の好循環をもたらすことにつながる。
5. コンビニエンスストアの新しい形とは
米国のセブンイレブンは、ダラスに実験店舗をオープンしたことが話題となった(「セブン-イレブン、Amazon Goへの対抗店舗オープン」)。同店舗には、タコス・スタンドやワイン・セラーもあるとのことだ。
日本国内の小売業では、ドン・キホーテが好調との話題もある。ドン・キホーテは先日、海外では米国、シンガポールに次ぐ3か国目のタイに出店することも話題となった。近年、コト消費も注目されたが、コンビニエンスストア等もワクワクする演出や体験が大切なのかもしれない。
また、コンビニエンスストア等では物流のサプライチェーンマネジメントも重要だ。さらに、RFIDと呼ばれるICタグが普及すれば、棚卸の作業時間の短縮や効率化等ができると言われている。サプライチェーンとロジスティクスの点から、生産性を高めた小売業の新しい形をつくっていくことも重要だろう。
たとえば、小売業でもロボットの活用は考えられる。商品・在庫管理をロボットが行い、在庫管理コストを削減することや管理ミスの減少につながる。また、オペレーションの自動化もあるだろう。Amazon Goにおける決済の仕組みは、消費者の購買体験を新しくする。また、小売業のカスタマージャーニーはオフラインとオンラインにより創出される。さらに、オフラインではローカライゼーションされた店舗が人気になる可能性もある。たとえば、北海道にはセイコーマートというコンビニエンスストアがあり、人気だ。セイコーマートのポジションは、マイケル・ポーター教授が提唱した差別化戦略に近いだろうか。
消費者の嗜好が多様化した現代では、熱狂的なファンやコミュニティなどが企業に競争優位をもたらす可能性もある。
6. 人手不足と賃上げについて
人手不足なのに賃金が上がらない理由としては、さまざまな議論がある。
経済学では、名目賃金には「下方硬直性」があると言われる(つまり、名目賃金は下がりにくい)。名目賃金の下方硬直性を説明するものとして、(1)効率的賃金仮説、(2)メニューコストの理論、などがある。このような名目賃金の下方硬直性の不可逆性として、名目賃金の「上方硬直性」も注目されるようになった。
名目賃金の上方硬直性を簡単に説明すると、次のようなものである。すなわち、賃金を引き下げると労働者がやる気を失い、生産性が低下してしまう。このため、景気が回復した場合でも、賃上げに積極的になる企業は少ないというものだ。賃金が伸縮的な企業ほど、景気が回復した場合に賃金を上げる傾向があることもわかっている。
また、労働分配率の低下の要因としては、米国のマサチューセッツ工科大学のデイビッド・オーター教授がFacebookやAmazonのような「スーパースター企業」の興隆を挙げている。さらに、財務省の財務総合政策研究所からは、次のようなレポートも公表されている(「労働分配率の低下に関するサーベイ」)。
英国の事例では、最低賃金を引き上げて低生産性の企業の退出を促し、参入を減らして生産性を高くした研究もあるようだ(「Minimum Wages and Firm Profitability」)。
7. まとめ
2019年3月26日、経済産業省から「コンビニ調査 2018」が公表されている。同調査では、前回調査よりも従業員が不足していると回答した割合が高くなっている。また、従業員が不足している理由は、「必要な一部の時間帯に勤務できる人が少ないから」「募集しても来てくれないから」が多くなっている。
今後の少子高齢社会では、コンビニだけでなく多くの産業で人手不足が増えると予想される。また、人を採用しても育成のための教育訓練等も重要となる。
私たちはデジタルの活用などにより生産性を向上させ、人に頼りすぎない効率的な仕組みを導入していくことが大切になっていくのかもしれない。
【参考文献】
『日本労働研究雑誌』2017年1月号(独立行政法人労働政策研究・研修機構HP)
沼上幹、一橋MBA戦略ワークショップ(2015)『一橋MBA戦略ケースブック』東洋経済新報社
ROLAND BERGER(2016)「小売店舗の未来-リテール分野におけるAI・ロボットの活用-」
「フランチャイズチェーン統計調査」(一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会HP)
「コンビニエンスストア統計データ」(一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会HP)
「セブン&アイ・ホールディングス IR情報」(株式会社セブン&アイ・ホールディングスHP)
「ユニー・ファミリーマートホールディングス IR・投資家情報」(ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社HP)
「ローソン IR情報」(株式会社ローソンHP)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?