「緊急入院!ズッコケ病院大事件」の感想

ついに医療モノである。全てのジャンルを網羅しようという那須先生の意気込みが感じられる。
といってもズッコケ三人組たちにメスを握らせるわけにはいかないので、当然彼らは患者だ。とはいえ、ただ入院するだけでは大事件にはならない。なんと、原因不明の病気で緊急入院するのだ。

と、この辺までは、勘が良ければタイトルだけで察しがつきそうだ。しかしさすが那須先生、タイトルで予想させておいて冒頭でいきなり裏切る。
物語は、とある殺し屋がミドリ市に潜入するところから始まる。こんな始まり方を誰が予想できるだろうか。殺し屋は暴力団のチンピラに迎えられ、隠れ家へと向かう。その隠れ家の近くにある池で、三人組がブラックバス釣りをしている。そして、謎の病気にかかってしまう。

一見バラバラに見える出来事が、少しずつ繋がっていく構成は全く見事である。しかも、入院時の生活を読者は追体験できる。ズッコケ三人組を読むことの良さのひとつに、彼らが読者の代わりに色んなことを経験してくれることがある。これは、ズッコケ三人組に限らず物語はそうなのだけど、特にズッコケで感じる。同一のキャラクターが色んなことを経験してくれるのは、シリーズものならではだし、一話完結のパラレルワールドだからこそなし得ることだ。海外旅行や震災や入院、色んなことをやってくれるので、読者は擬似的にそれらを経験することができる。人生におけるある瞬間に、これはズッコケで読んだぞ、という場面がもしかしたらあるかもしれない。本を読むことの素敵さのひとつだと思う。

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