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誕生日にまつわるエトセトラ

北海道苫小牧市でアートを通して地域や社会と関わる活動に取り組んでいるNPO法人「樽前artyプラス」。メンバーでオーストラリア・メルボルン在住の小河けいが、オーストラリアの日々を綴ります。

家族や恋人、友人が誕生日に気づいてくれなくてがっかりしたことありますか?FacebookやLINEのお知らせ機能がある最近は、そういうこともあまりないのかな?

がっかり経験のあるあなた!!オーストラリアに住めば、そんながっかりとはおさらばです。だって、ここでは、誕生日祝いの準備は誕生日の人自身がすることだから。

たとえば、会社なら、自分でケーキを持って行って、切り分けて、職場の仲間にふるまう。我が子が通う幼稚園では、学園長が大量のカップケーキを持って教室に現れ、子どもたちに配りながら、自身の誕生日を祝った(らしい。子どもから聞いた)。

この「誕生日ケーキは誕生日の本人が準備してふるまう」というオーストラリアの習慣は日本人がビックリする定番ネタとなっているのか、私が日本からメルボルンに来て数日後に参加した日本人の集まりで最初に教えてもらったメルボルン生活で気をつけることの一つだったし、昨年だったか共同通信アジア版のコラムでも取り上げられていた。

それにしても…
メルボルンで暮らすようになって、いったいどれだけの誕生日会に行っただろう?

メルボルンに来て数か月後に息子の幼稚園生活がスタートしたせいでもあるのだろうけど、かなり色々な誕生日会に参加した。

まず、入園時にもらった幼稚園生活の注意事項に「誕生日会をするならば、必ずクラス全員を招待してください。招待状の配布は園のスタッフがやります」とあり、「教室でケーキなどを持参してお祝いしたい場合、園のスタッフがサポートします。クラスの先生に相談してください」ともあった。

ど、どうすればいいんだ…?

全く何も知らなかった当時、困惑しつつ、10月の息子の誕生日までほかの子の様子を「しっかり見なければ!」と思った。

そして…幼稚園の連絡ボックスにポツリポツリと招待状が届いた。誕生日が近い子の親たちは前もって調整しているのか、日程が重なったことは一度もない。

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プレゼントを持っていくのか?いくらくらいの?何を?親も参加するのか?妹も連れていっていいものか?いや、家族全員で行くべきなのか?手土産を持っていくべきか?いや、入場料が必要なのか?

…わからないことばかり。

招待してくれた子の顔は何となくわかっても、親は知らない…というようなこともままあり…「全部断った方がラク!」って気持ちにもなったものの…
「しっかり見なければ!」の決意を思い出し、何か予定がある場合を除いて、ほぼ全ての招待を受けた。

プレゼントは、子育てブログなどを調べて、30ドル前後と決め、何にするかは毎回、息子に選ばせた。その買い物はいつも、すご~く時間がかかったけど、クラスメイト1人1人がどんな子で何が好きそうか息子に話を聞くいい機会になった。「この子は知らない。話したことない」「誕生日会に呼んでくれたんだよ!話しかけてごらん!」なんて、やり取りをしたことも。

そうして、いざ、お誕生日会へ行ってみると…
ほとんどの子が参加してる。お母さんかお父さんと。兄妹も一緒に。

その会場が、また、驚きの連続。

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ある時は公園でBBQ、ある時はボウリング場、ある時はトランポリンセンター、ある時は巨大すべり台やボールプールのある室内遊園地、ある時はピザ屋さんでピザづくり、ある時はテニスコート、ある時は自宅の庭に設置されたウォータースライダー(レンタルだそう)で、ある時は料理教室でお菓子づくり、ある時は自宅前に路上駐車されたカラオケ&ディスコトレーラーハウス(レンタルだそう)でフェアリーたちとアートワークショップ。

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とにかく、様々な業種(?)が誕生日盛り上げ事業に参入している感じ(笑)

会場や料理を提供するサービスはもちろん、自宅でのパーティにウサギなどのふれあい動物(ヘビやトカゲまで!)だとか、タッチプールだとか、プリンセスやスーパーヒーローなどのキャラクターに扮したエンターテイナーだとか、バルーンアートやフェイスペインティングなどのアーティストだとか、面白科学実験だとかの出張派遣サービスも。

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息子の通った私立幼稚園は、人種も文化的背景も多種多様だし、家庭の事情もそれぞれなのですべての子どもが盛大な誕生日会をやるわけではなかったし、公立の幼稚園や保育園のことはわからないけれど、都市部でも住宅密集地でも郊外でも、いたるところで見かける「お誕生日パーティのプランはウチにおまかせ!」的な看板からすると、誕生日を盛大に祝うのはオーストラリアで一般的な文化なのだと思う。

ちなみに、費用は主催者…つまり誕生日の子の親の負担で、もちろんどんな会場のどんなパーティかで全然違うけど、子ども1人10~30ドル×参加人数、保護者の入場と飲み物は無料サービス…くらいの設定をよく見かける。
それでクラスメイト全員を招待って…子どもが産まれたら誕生日会貯金をしないと。

小学校に入ると、「クラス全員を必ず招待」という学校からの指示はなくなり、仲良しさんだけで集まったり、お泊り会をしたりと幼稚園時代よりはコンパクトに、でも親密さを増した祝い方になってきた。けれども、10代には10代のパーティが、また日本の20歳のように18歳と21歳は盛大に、そして、それ以降、30、40、50…と10年の節目にはビッグパーティをやるのが一般的らしい。

はじめの頃は、誕生日会に呼ばれて返事して参加するだけでイッパイイッパイだったけれど、いくつか参加するうちに、ハタと気がついた。

動物園、水族館、劇団や大道芸人、音楽家、造形やメイクアップのアーティストの出張派遣って…日本なら幼稚園や小学校の体験学習、あるいは商業施設の集客イベントでやっているようなことじゃないか!!

オーストラリアのこういった出張派遣は、日本のように学校の教室やイベント会場向けのプランも同時にやっている業者もあれば、パーティを専門にしている業者もある。

けれど、日本で体験学習の出張派遣をやってるところが、個人のお誕生日会向けプランを提案してるっていう例は…知らない。探せばあるかもしれないし、頼めばやってくれるところはあるだろうけど。

樽前arty+のメンバーは、「アート」と「日常」についてしばしば話し合う。「アートのある日常」とか「日常の中のアート」とか。じゃあ、「アート」って何?とか、「日常」って何?とか、「特別」って何?とかとかとか。
いたるところで日々目にする、耳ざわりのいい、なんとなく素敵なキャッチコピーを考えているわけではなくて、「アート」と「日常」について、真剣に考えて、議論する。

メルボルンで、お誕生日を盛り上げる仕事を日常的に目にするようになって、「アート」と「日常」…この場合、「アーティスト」と「私の生活」と言い換えてみいいかもしれない…について、これまで欠けていた新しい見方を得たような気がする。

お察しの通り、パーティな日々はコロナ以前の話。お誕生日を盛り上げる仕事はコロナで大打撃を受けた。ロックダウン中、誕生日会を主催することも、毎週末のようにハシゴすることもなくなった親たちは、肩の荷が下りた気持ちと寂しいような物足りないような気持ちと両方だったと思う。ロックダウンは解除され、メルボルンでの生活はコロナ以前に近いものになっているけれど、以前と全く同じに戻ることはない。だけど、親しい人と集まって、楽しい時間を共有するのが好きなオーストラリア人気質は、きっとずっと変わらない。だから、お誕生日盛り上げ業(笑)は新しい盛りあげ方を模索しているに違いない。

ところで…肝心の我が家。毎年毎年、来年こそは、と思いながら、盛大なお誕生日会を主催することはないまま。我が子らを喜ばせたい気持ち、子どもたちのお友達やご両親と仲良くなりたい気持ちはあるけれど、我が家だろうと、どこかの会場だろうと、多勢を迎えて英語でおもてなしするなんて…私にはムリ!頼りの夫は超シャイだし。

せめてもと、毎年、ケーキは息子と娘からの難題に応えるようにしてきた。

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幼稚園に入って最初の誕生日のとき、息子のリクエストでTV番組Go Jettersのマジパン人形がのっかったケーキを特注したけれど、幼稚園の教室に運んで先生に託したから、「すごく美味しかったわよ!」と先生は言ってたけど、200ドルもしたのに、どんな味だったか私は知らない。
その反省(?)もあり、翌年からは手作りに移行。

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アレルギーのクラスメイトに配慮して卵とナッツ不使用のクッキーを研究して、人数分焼いて持って行ったり、息子が小学校に入ってからは教室でケーキを食べることもなくなり、娘は幼稚園の最初の年がコロナで、園のルールも大変革、お友達とシェアする食べ物を持ち込むことはしなくなって、誕生日ケーキはお家で家族で食べるだけになったけど、PJ MASKS(これもTV番組)やライオンキングと我が子らをデザインしたチョコプレートを作ったり、息子と彼の好きなスポーツ選手の人形を作ってケーキトッパーにしたり、流行りのドールケーキを作ってみたり。

盛大なお誕生日会が出来ない申し訳なさを、派手なケーキ作りを楽しむことで埋め合わせて(誤魔化して?)います。

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苫小牧市美術博物館の広報紙『びとこま』で『メルボルンるんだより』※1を書いています。『びとこま』は子ども記者たちが中心になって作っていて、子どもにも大人にも楽しめる記事が盛りだくさんです。


夫の転勤でメルボルンで生活するようになって5年目、息子の野之助は7歳、娘のこがねは4歳になりました。異国で暮らすと驚くこと知らないことばかり。日常のささやかな発見や驚きを紹介しながら、読んだ人がふだん当たり前と思ってることに「あれ?この当たり前は本当に当たり前かな?」と「?」をもつような「メルボルンるんだより」にしたいと思っています。

苫小牧市美術博物館の広報紙『びとこま』最新号、ぜひ見てください!

今回の『メルボルンるんだより』 では、メルボルンからフェリーでひと晩で行けるタスマニアのことを紹介しました。タスマニアはユニークな自然環境を観察するための整備がよく整っていて、カンガルーやハリモグラ、カモノハシなどの野生動物に出会えたり、『魔女の宅急便』のパン屋さんのモデルになったと言われるベーカリーもあり、歴史ある建物が並ぶ街並みも美しく、この地を気に入って移住するアーティストも多いため文化的にも興味深く、オーストラリア人にも日本人にも人気の観光地です。

※1 『メルボルンるんだより』=びとこま創刊に携わった小河が、苫小牧からオーストラリアに引っ越した後も現地から寄せているコラム。

#この街がすき #子どもに教えられたこと #アート

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