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#9【イヤホンの向こう側/フリー脚本(60分・演者8人)】

【あらすじ】
物事をポジティブに感情のまま捉える自分とネガティブで理屈っぽく捉える自分。
両者が頭の中でぶつかり合うけれど、取り得る行動の選択肢はたったの一つ。
物語の世界じゃないから、都合良くはいかない。外で溢れる会話の音に耳を傾ければ、たくさんの気配が伝わってくる。心地が良くもあり、時には雑音のようでもある。
【登場人物】
高崎好美…女の子。会話によるコミュニケーションが苦手。
人に気を遣い過ぎてうまく人と仲良くなれない。主人公。
NA…高崎好美のなかの別人格。好美の理屈っぽくて批判的な部分。
先生…若い教師。生徒の信頼が厚い。
住吉君…覚えたての知識はすぐに披露する。好奇心の旺盛な男子。
人との距離感をすぐに詰められる人。
こう君…声がでかい。愛すべきおバカさん。住吉君の友人。
武本さん…好きな人に対するアプローチの仕方が常軌を逸している。
住吉とは幼馴染であり、好意を抱いている。
お母さん…高崎好美の、ちょっと変わったお母さん。
その他生徒複数人(台詞があるのは生徒A、B、C、D)

イヤホンの向こう

場面1:卒業式

♪卒業ソング(静かな曲)
中学校の卒業式にて。グラウンドなのか、教室なのか。最後にクラスの記念写真を撮ろうと先生含め生徒数人(10人程度)が舞台中央に集まっている。
各々思い出話やこれからの話に花を咲かせていて、楽しそうである。
本作の主人公はその集団の少し上手側でじっと立っている。
下手より、先生が歩いてくる。
生徒Aが先生の元へ駆け寄る。

生徒A  先生!

先生   おぉ、佐倉。式中お前わんわん泣いてただろ?
教師席の俺のところにまで届いてたぞ。

生徒A  うん。

先生   卒業おめでとう。

生徒A  うん。ありがとう。

先生   なんだよ~、また泣くのか?泣き虫だなぁ、

生徒A  うん。その、、(涙で言葉が上手く話せない様子)

先生は優しい表情で生徒の話を待つ。


生徒A  私たちは、先生からたくさんのことを学びました。
勉強以外にもたくさん相談に乗ってくれました。
だから、、私達全員、先生から教えてもらったこと、心に留めて、頑張りたいと思います。

先生   お~ありがとう。
佐倉も、いままでクラスをまとめてくれて、ありがとう。先生もたくさん助けられました。

生徒Aはこらえきれなくなって、涙を流す。

先生   泣くなって~。苦手なんだよな、こういう辛気臭いの。
最後くらい、笑って、送り出したいからさぁ。

先生も感極まって言葉が出にくくなっている。
生徒Bが先生に記念アルバムと小さな花束を手渡す。

生徒B  これ、今日の為に皆で写真を集めて作りました。あと、花束も。。

先生   あ、ありがとう。(無理に笑顔を作って)
このタイミングでプレゼントはずるいよぉ~!も~!
しかもお前(生徒B)から花束を受け取る日が来るなんてなぁ。あんまり高校ではやんちゃしすぎるなよ!

和やかな雰囲気。
時間は刻々と過ぎている。


生徒C 最後にさ、集合写真撮ろうよ。

生徒D そうだね。撮ろう!


生徒Dがスマホを取り出す。


先生  おい、スマホは持ち込み禁止だぞ!

生徒D 停学にしてくれても結構ですけど!

先生  (静かに笑いながら)もうこんな会話も最後だな。


生徒Dがスマホを取り出すも、どのように撮影するか迷っている。
主人公・高崎好美は静かに一言。


好美 あの、私が撮ろうか?


皆が一斉に主人公の方を見る。
.一瞬会話が途絶える。

生徒D 、、ごめん、好美ちゃん。お願いしてもいい?

好美  うん、いいよ。

生徒C ありがとう!好美ちゃん!


生徒Dはスマホを主人公に渡し、写真を撮られる態勢に。
好美、そのスマホで写真を撮る。

生徒D ありがとう!

スマホを生徒Dに返す。
好美はそれ以上話をしたくないかのように、その場から逃げるように立ち去ろうとする。

先生  高崎さん。

好美は立ち止まる。


先生  これを受け取ってほしい。


一枚の手紙を手渡す。


生徒B ラブレター?(ニヤニヤ)

先生  ち、違う!お前たちにも用意してるからな!

生徒B え、マジで!やったー!

好美 あの、有難うございました。

先生  高校でも、頑張るんだぞ。

恥ずかしさから手紙をポケットに突っ込み、
その場からすぐに離れて、上手へ向かうとする。


先生はその様子を不思議がりながらも、
主人公以外で和気あいあいと話をしながら下手へ退場。暗転。
好美にスポットライト。


逃げるようにその場を離れたこと、先生やクラスメイトに十分に別れの挨拶が出来なかったこと。
自分の不甲斐なさに落ち込んでいる様子。

好美  今日で最後か。


カバンに手紙と卒業証書等を突っ込み、いつものように音楽プレイヤ―を取り出し、イヤホンを耳に当てる。
再生ボタンを押し、聞こえてくるのは卒業ソングではない。
♪バンドの音楽
好美は舞台の中央まで歩き、観客の正面を向く。
観客のいる方向へ続く道を歩き続ける。(歩く動作をする。ピンスポット)
上手から、下手から、次々と交互に歩行者があらわれる。

歩行者1  今日ニシチュウも卒業式だってよ。

歩行者2  だからか、道理で人の通りが多いわけだ。


好美は外部の音を遮断したがる。プレイヤーを操作してより大きい音量になる。
歩行者はそれぞれ話をしており、イヤホンをしているせいで何も聞こえない。
歩行者は同じ年くらいの中学生。主婦とその子供。カップル。電話中のサラリーマンなど。
最初の中学生の会話以外はほとんど音が聞こえない状態。(口パク)

自宅に到着。
カバンを開けて、先生からもらった手紙を取り出す。
立ち上がって自宅の棚の中に投げ入れる。そのまま座り込んで、すすり泣く様子。

下手よりNA登場。

NA ねぇ。

好美が顔を上げてNAをみる。


NA  読まないの?それ

好美  うるさい。今は話かけないで。

NA  だって、先生から手紙もらうことなんて、滅多にないよ。

好美  今は何も考えたくないの。

NA  憧れだったんでしょ?整った顔のわりに天然なところ、気に入ってたじゃない。

好美は黙り込む。


NA  写真、先生ととれなくて残念だったね。

好美  別に先生と撮りたかったわけじゃないよ。

NA  嘘でしょ。やせ我慢しなくていいよ。全部わかるもん。

好美  記録に残さなくても、先生に教えてもらったことは今後に活かせる。
写真で記録に残らなくても、私は先生に感謝してる。それだけで充分。

NA  でもそれが先生に伝わってなかったら?意味がないと思わない?

好美は黙る。
NAはそのまま悪びれる様子もなく会話を続ける。


NA  はぁ、それにしても今日の卒業式は疲れたねぇ。
校長話長すぎるし、卒業証書授与全員分見せられるの退屈よね。
どーせ後でまとめて渡すのなら、いちいち壇上に上がらなくてもいいじゃん。

好美  卒業式って、卒業証書を授与するための式だから。

NA  だからって、リハーサルまでして点呼と授与と合唱って。退屈だったわ~。

好美  私は、いい思い出になったけど。

NA  順番が逆。
卒業式がいい思い出になるんじゃなくて、いい思い出があるから卒業式に意味が生まれるんだよ。

好美  あなたの理屈っぽい考え方、嫌い。

NA  仕方ないよ、それが私だから。あなただって身に覚えあるでしょ?

NAが好美に近づいて、校長の真似をして話しかける。


NA  「私達ニシチュウの子供たちは地域の方々達からも褒めて頂くことがたくさんありました。
もしかしたら勉強は他の学校の子供に劣る点があるかもしれない。
しかし、わが校で培った明るさと誠実さ。
人にとって最も大切なコミュニケーションの能力では、他の誰にも負けない力を持っていると、職員一同心より確信しております。」

NA  ・・・校長のいう「ニシチュウの子供達」に私は含まれていると思う?

好美  もうやめてよ。何が言いたいの?

NA  あなたも本当はわかってるんでしょ。
先生だって人間だし、仕事だよ。生徒皆に愛情をもって接せられるなんてありえないよ。

好美  やめて!


好美はイヤホンを耳にさして音楽をかける。


曲がかかると同時に、NAの声は聞こえなくなる。
何かを好美に語り続けるが、聞く気のない好美の様子をみて、諦めるように下手より退場。

暗転。

♪BGM F.O
♪学校のチャイム音


場面2:高校時代
学校の教室。
下手側に黒板。上手側に生徒の席が並んでいる。
好美は、後ろの席で本を読んでいる。

男子生徒三人が下手側から教室に入ってくる。


こう  そそそそそのさ、なんだっけ、おおおおおおお

住吉  おっぱい。

こう  ば、ばか!口に出すな!他の誰かに聞かれたらどうすんだよ。

住吉  知られたとしたらお前のせいだけどな。

こう  それで?おおおおおおお

住吉  おっぱい。

こう  だから!この教室に女子がいたらどうすんだ・・・おい。(小声)いるじゃん。どうすんだよ!

住吉  大丈夫、イヤホンしてるみたいだし、聞こえないよ。お前の声量ならまだしも。

こう  で、でで、そのこれ(ジェスチャー)これが?なんだって?

住吉  俺が話をしたいのはね、疑似おっぱい体験って言って。

こう  うんうん。

住吉  時速60kmの車に乗って窓から手を出して、こう(手を広げるジェスチャー)な。すると、女性の胸をもんでる感覚と一緒になるらしいんだ。

こう  え?

住吉  でもな、人によって40kmの方が、とか、100kmの方が、とか理想の速度が違うらしい。

こう  ふぅん。

住吉  そんな話聞いたらいてもたってもいられなくて。調査してみたのよ。

こう  実践したの!?

住吉  兄ちゃんに車に乗せてもらって、20km、40km、60km、80kmで実際に試してみた。

こう  お前、、バカだな。

住吉  そしたら、とんでもない結果があらわれた。

こう  ほう?

住吉  実はな、20kmと80kmではな?

こう  うむ。

住吉  教えな~い!

こう  は!?!?

住吉  バカ扱いする奴に教えるかよ。

こう  くそ~~。気になる。でもまあいいや。

俺はてっきりお前が誰かと付き合い始めて、そういう展開になったのかと思ったから食いついたのに。くだらない。

住吉  くだらないとは何だ!人の知的好奇心ゆえの行動にケチつけるな!

こう  だってさ~。お前もんだことないだろ?

住吉  うん。

こう  お前が何を言おうと説得力がない。

住吉  、、、くそーー。ぐうの音もでない。

好美が席を立つ。机が動く音がして住吉とこうはそれに気が付き、振り返る。
好美、二人のことを一瞥して、上手より退場。


こう  いや~。危なかったな

住吉  聞かれてたかと思って焦ったわ~。

こう  あの様子だと、聞かれてないよな?

住吉  だな。間違いなく。

住吉・こう  はっはっはっは。

住吉  ていうか、さっきの女の子誰か知ってる
俺このクラス結構足を運んでるから、ほとんどの奴と話したことあるんだけど、彼女だけよく知らない。

こう  あぁ、彼女はね。高崎さん。あんまり人と話をしたがらない子みたいよ。

住吉  へぇ。一匹狼的な?そんな風には見えないけどな。

こう  一匹狼というか、感情が薄いらしい。

住吉  感情が?

こう  そうそう。話しかけても煙たがられるし、空き時間にはいつも音楽聴いてるから。
話しかけにくくて、仲がいい子も少ないから、このクラスのミステリアスなキャラ。

住吉  ずいぶん詳しいんだな。

こう  Twitterでよく話題になってる。彼女はアカウント持ってないみたいだから、好き勝手いってるやつもいる。

住吉  それって陰口じゃ。

こう  ほら、このクラスの武田とか杉森とか。
クラス委員でまとめ役のあいつらからしてみれば、扱いにくいタイプの人間なんだと思うよ。
それに便乗して、他の奴らも。

住吉  ふうん。二組って主権者独裁政治的クラスなんだな。

こう  あ?急に難しい単語使うなよ。

住吉  でもさ。

こう  ん?

住吉  彼女そんな風にみえた?

こう  どゆこと?

住吉  いや、いう程嫌な奴には見えなかったんだけど。

こう  まぁな。確かに噂通り音楽は聴いてたけどな。もしや、惚れた?

住吉  あほか!

こう  それより、さっきの話さ、

住吉  うん。

こう  ある程度スピードがあればいいんだよな。

住吉  おう。

こう  自転車じゃだめかな?

住吉  興味深々じゃねぇか!

こう  その~、けやき公園の前に坂あるじゃん?

住吉  行くか。

こう  行こう。

こう・住吉  げへへへへへへへへ。

笑いながら、二人とも下手から退場。
好美、上手から入場し、二人の退場した方向を目で追ったのち自分の席へ。
再び黙って本を読み始める。
♪静かな音楽
暗転。

明転。
♪雨の音。
好美は帰宅途中に雨が降り始めたので、ベンチに座って雨宿りをしている。
男子2が下手から登場し、偶然通りかかる。

住吉  あ、さっきの。(少し気まずそうに)

好美  あ、、どうも。

住吉  あ、(びしょ濡れであることに気づいて)家どの辺り?

好美  え?

住吉  いや、送ってこうか?傘ないんでしょ?

好美  でも、私の家隣町のドラッグストアのあたりで、遠いので、大丈夫です。

住吉  その薬局、俺の父ちゃんが経営してる店。

好美  え・・?

住吉  こんな偶然あるんだね。どうする?

好美  でも、、大丈夫です。多分すぐに止むと思うので、、。気遣い有難うございます。

住吉  そう。それじゃあ、気を付けて帰ってね~。


住吉はあっさりと先に進もうとする。
一度上手まで退場したのちに、改めて好美の元に戻ってくる。


住吉  あのさ。

好美  はい?(驚いて)

住吉  教室にいたときから気になってたんだけど、(指をさして)何を聴いてるの?

好美  ・・・・。

住吉  僕も結構音楽好きなの。なんていうアーティストの?

好美  ・・・ホットサンドビート。

住吉  へえ、聞いたことないや。

好美  知らないと思いますよ。インディーズのバンドなので。

住吉  ちょっと曲聴いてもいいかな?


住吉は好美の隣に座って、イヤホンをせがむ。
好美は住吉の急な接近に驚いて立ち上がる。

住吉  え?

好美  あ、ごめんなさい。急に近づいたもんだからびっくりしちゃって。

住吉  あぁ。(苦笑)ごめんね。


好美はゆっくり元の位置に座り、片方のイヤホンを差し出す。
それを受け取り、住吉は曲を聴き始める。


数秒間、静寂。

住吉  へぇ。高崎さん、ロックが好きなんだね。少し意外だ。

好美  ・・・汚いんです

住吉  へ?

好美  あ、えっと、その、泥臭くて汚いから好きなんです。


好美はケータイを取り出し、一枚の画像を見せる。
そこにはホットサンドビートのボーカルの写真。


住吉  この人がこの曲のバンドのボーカル?

なんていうか、梅干しみたいな顔してるね。いくつなんだろ。

好美  50歳らしいです。私も、初めて見たときに梅干しそっくりだ、って思いました。

住吉  、、、好きなんだよね?

好美  はい。

住吉  どういうところが好きなの?

好美  私はもともと音楽に興味が無かったんです。
このバンドのライブ映像を初めて観たときにも、「梅干しみたいな顔してる」以外の感想が浮かびませんでした。

住吉  じゃあなんで、好きになったの?

好美  私は、、、実は会話が苦手なんです。
話しかけてくれても、自分が一言発する度に自分の顔がこわばっていくのを感じて、話せなくなるんです。
そのたびに、自分が恥ずかしくて仕方ない気持ちになります。
住吉  ・・・・。

好美  でもこの人は違う。
こんな梅干しみたいな顔しながら、ライブでは観客のこと「お前ら」とか「ブス」とか言いたい放題言って茶化したりして。
かっこよかったんですよね。私には絶対真似できないと思ったんです。
ピアスしたり、タトゥー入れてたり、自分の好きなままに生きて、大好きな音楽を本気で演奏してるんだって。
だから、この人の歌を聴いて、元気貰ってるんです。

住吉  ・・・。

好美  ごめんなさい!ながながと興味ない話しちゃって。
住吉  いや。大丈夫だよ。話してくれてありがとう。心底好きなんだろうなって思ったよ。
好美 、、(語ったことが恥ずかしくなって)雨もやんだみたいなので、帰ります!ありがとうございました!
住吉 うん、またね~。

好美は上手より退場。

住吉 、、、面白い子だなぁ。

住吉も上手より退場。

好美はその後上手から登場。
下手からはNAが登場。
冒頭の会話とは異なり、なごやかに会話が進む。

NA  いやー、びっくりしたね。私ってこんなに情熱的に語るタイプだったっけ?

好美  まさか私もこんな話するとは思わなかったよ。恥ずかしい・・。

NA  あの男の子、先生に似てたね。(ニヤニヤ)

好美  それは関係ないでしょ!

NA  でも向こうから話しかけてきたわけだし、多少私に脈はあるんじゃないかな?

好美  たった一回話をしただけでしょ?

NA  音楽好きだってね。趣味逢うんじゃない?
気遣いもしてくれるし、顔もそこそこイケてるメンズだと思うけど?

好美  クラスも知らないし、ましてや名前も知らないよ。

NA  でも、これから会う機会があるかもね。

好美  そうね。でももう彼女さんいるかもしれない。

NA  確かに。他の女が放っておかないよ、あれは。確かめなくては。

好美  いいよ、別に。

NA  そうやってチャンスをみすみす逃していいの?

好美  う~ん。

NA  じゃ、さっそく作戦会議ね。
前テレビ番組でやってたの思い出して欲しいんだけど、夜の方が告白の成功率が高いらしい。

好美  告白!?気が早すぎるよ。それに、告白って男性がするものじゃないの?

NA  好きなら、自分から行動するのがいいに決まってるよ!

好美  そういうものかなぁ。


好美とNAはこの調子で恋の話をしながら下手より退場。
♪和やかなBGM

場面4:家
舞台は帰宅後の実家。
母親がテレビを観て笑っている。

母親 あはははははは!ふふ、ふはははっははは!

好美 ただいま~。

母親 おかえりー!はぁ。最高ね、あきら100%。今度の町内会で真似しようかしら。
好美 お願いだからやめて!!

母親 、、、冗談よ。冗談。ご飯の支度するね。

好美 ・・・。


ご飯の用意をしながらこっそりおぼんで「見えそうで見えないネタ」を練習する。


母親  はいお待たせ。あのさ、私これからちょっと下の自販機でマックスコーヒー買ってくるから。

好美  はいはい。

母親  じゃあ、行ってくるね。

好美  はい。


母親は家を出る。
好美は一人で食事を食べている。
おもむろにテレビのリモコンをとりチャンネルをかえると、
アナウンサーが登場して今日のニュースを語り始める。


NA   はーい!こちら福島県郡山市に来ております~!
本日は遂に気温が30度を超える猛暑日となり、地域ごとにスイカ割り大会が開催されました。
スイカを割るだけでは面白くない、とのことで、地域によってはスイカを投げ合う「スイカ合戦」が行われ、15名もの負傷者がでました。
(急にマジトーン)命に別状はないとのことです。続いてのニュースは、、、、。

テレビを観ている逆の方向から、一人の女子生徒が好美のことを覗いている。
明らかに様子は不審者やストーカーのそれである。
どこの窓から侵入したのか、こっそりと机に忍び寄り、ちゃっかり好美のご飯を食べようとする。

NA    本日のトピックはこれにて終了です。スタジオに返しまーす!

NA退場。


武本  スイカ投げたら危ないよね。

二人、目が合う。


好美  いやぁああああああああ!

武本  いやいや、私幽霊じゃないから。

好美  誰ですか!?!?

武本  五組の武本っていいます。よろしくね。

好美  え。。西高の?

武本  そうそう、あなたと同じ学校。同じ学年。

 
好美はパニックで頭が回らない。

好美  私のこと知ってるんですか?誰ですか!?

武本  だから、五組の武本です。よろしく。

好美  なんでここにいるのですか?

武本  まぁとりあえず落ち着いて、声のボリューム抑えてくれないと通報されちゃうから。
好美  そうだ警察、警察呼びますよ!?

武本  やめてって、私も西高の同じ学年。武本です。名乗ったんだからいいでしょ?

好美  違法侵入ですよ!?てかどこから入ってきたんですか!?

武本  まぁいいじゃない。
てか私もこんなにセキュリティのあまい家どうかと思うよ。
本物の泥棒きたらマジでやばいよ。やりたい放題だよ。

好美  何が目的?

武本  目的が無きゃ家に入れてもくれないのかよー

好美  当たり前です。

武本  そうだよなー。
でもさ、人の家に入って、好き放題するのが駄目なのであって、「法律で決まってるから」人の家に勝手に入っちゃいけませんってわけじゃないでしょ?
そう考えると、私はまだ何もしてないんだから、セーフでしょ?

好美  アウトです。

武本  そっかー、ダメかぁ。お茶飲んでもいい?

好美  駄目です。

武本  駄目かぁ・・・。(悲しそうに)のどが渇いたなぁ。。


好美は黙ってこっそりコップを彼女に渡す。


武本  いいの?ありがとう。

好美  、、ご用件は。


様子をうかがって静かになる。
好美は武本の挙動に敏感になる。


武本  あのね、、これからする話は友達の親友のお父さんの従弟に聞いたんだけどね。
その人好きな人がいたんだって。
運動も勉強も、全然得意じゃなくて。
顔もかっこよくないんだけど、いつも付き合ってる友達は数人しかいなくて。モテなくて不器用で、理屈っぽい男の子。

好美  、、。

武本  ある日の学校からの帰り道、いつも通りその子は男の子の後ろから観察していたの。
そこで、仲良さそうに自分以外の女の子と話している様子を目撃した。
彼女は男の子の周りに女性関係のにおいを感じたことが無かった。
だからその不審な女のことを調べたいと思ったわけ。それで、

好美  家までついてきたってことですか?

武本  よくわかったわね。

好美  、、、。

武本  だから私はあなたがどんな人なのかを知りたくてここまで来たの。何か文句ある?

好美  私はその男の子とはさっき初めてあったんです。

武本  ・・・え?

好美  だから名前も知りませんし、親しくありません。

武本  そうなの・・・?

好美  はい。


間。
武本は自分が衝動にかまえた失礼な行動をしていることを思い出し、冷静になる。

武本  ・・・お邪魔しましたー。

好美  あの!

武本  はい?

好美  その方は名前なんて言うんですか?

武本  ライバルになる可能性がある人に、教える義理はない。

好美  、、警察、先生、親御さん

武本  住吉君です。

好美  武本さんは、その、住吉君のことが好きなんですよね?

武本  はい。そうです。

好美  ・・・私に、何か出来ることありますか?

武本  え?

好美  手伝えることがあれば、頑張ります。

武本  何でそんなことしてくれるのさ。

好美  私は好きの気持ちを貫く人が好きなんです。だから、応援させてほしいです。

武本  本当に?下心無しで??

好美  うん。その代り、私と仲良くしてくれませんか?

武本  ・・・高崎さんって、面白いね。噂と全然イメージ違う。

好美  噂って?

武本  あ、なんでもない。いいよ、仲良くしよ。よろしくね。

母親が帰ってくる。


母親  ただいま~。(間)いやぁああああああああ!!

武本  お母さんまで同じリアクションですね。

好美  こうなるのが普通だと思う。

武本  武本といいます。高崎さんとは今友達になりました。

母親  ・・・はぁ。友達?

好美  うん。

母親  じゃあいいわ。コーヒーかコーラしかないけど、どっちがいい?

武本  コーヒーで。

好美  飲み込みはやすぎ。

母親  武本さん、だっけ?今私練習してるものがあるんだけど、ちょっと見てくれない?

武本  あ、はい~。


♪BGM
照明もゆっくりFO。母親はサイレントでおぼんの芸。
失敗しても、成功してもオイシイです。


場面5:告白の日
教室。先日一人で本を読んでいた席に、武本と一緒に座って話をしている。

武本  高崎さん今まで彼氏は?

好美  いたことないです。

武本  あちゃあ、頼りないなぁ。

好美  そういう武本さんは?

武本  愚問。

好美  私と一緒じゃないですか。

武本  (ムキになって)でも、ラブレターならもらったことあるよ。

好美  へぇ。素敵ですね!

武本  まあな。

好美  というか住吉さんとはどういう関係性ですか?

武本  あぁ、幼馴染の腐れ縁だよ。幼稚園からずっと一緒なの。

好美  じゃあもうかなり親しいんですね。どうして好きになんですか?

武本  それは、ある、寒い日のことだった。(唐突に)


武本が寒そうにしながら歩いている。
上手から何枚も上着を重ねて超厚着をした住吉が登場。


住吉  おーい武本!

武本  すすすみみみよよよしししおははよよう。

住吉  お前、なんでこんな吹雪の日に半袖なんだよ。風邪ひくぞ。てか、死ぬぞ。


住吉は、厚着の一番上の一枚を武本にかけてあげる。
武本は住吉に好意の目を向ける。


武本  あの日の住吉は、まさに命の恩人、救世主だった。あぁ、これが、恋に落ちる感覚なんだって、あいつのラグビー選手みたいな背中をみて思ったんだ。


好美  気遣いの出来る方ですね。でも半袖で吹雪の中歩いてれば誰でも声かけるとおも

武本  それだけじゃない。(さえぎって)


武本は再び歩く。今度は夏で厚そうにしている。
下手からタンクトップでサンダルの住吉が歩いてくる。

住吉  おーい武本!

武本  住吉!今日も暑いね。

住吉  お前、なんでこんな日差しの強い日に半袖なんだよ。日に焼けて真っ黒になるわよ。


住吉は日焼け止めを武本に渡す。
武本は住吉に好意の目を向ける。
住吉は退場せずにタンクトップのままステージ上でとどまっている。



好美  なんていうか、住吉君お母さんみたいだね。

武本  でもね、そういう気が利くところが好きなの。付き合いが長い私しか知らない、彼の唯一のいいところ。

住吉  唯一とはどういうことだ!

武本  す、住吉!回想担当じゃなかったのか!?

住吉  、、、なんのことだ?


住吉は回想から、二人の会話に入ってくる。
好美は二人の様子を見て、この場から立ち去ろうとする。


好美 私、ちょっとトイレに行きますね。


好美は走って場を立ち去る。

武本 待って!、、、。

住吉 お前、あの子と仲よかったっけ?

武本 いや、先週初めて知り合った。

住吉 俺もだよ!面白い子だよな。あんまり喋らない子かと思ったら、音楽の話になった途端に饒舌になってた。
よっぽど好きなんだろうな。

武本 話聞いてた?

住吉 ん?

武本 さっきの。

住吉 、、、うん。

武本 そっか。

住吉 お前がそんな風に考えてるなんて、思いもしなかったけど。

武本 けど?

住吉 嬉しかった。

武本 うん。それで?返事は?

住吉  少し、考えさせてもらってもいいか?

武本 、、わかった。



暗転。好美とNAが登場し、向かい合っている。
NAと好美にスポットライト。


NA ねぇ。久しぶり。

好美 うん。

NA 最近の私の行動、おかしくない?
私ストーカーされた上に、好きな男との関係取り持ってあげてるよね?これおかしいよ。

好美 おかしくないよ。友達に協力するのは当たり前のことじゃない。

NA そもそもなんで友達になろうと思ったの?不法侵入者と仲良くなるなんて、イかれてる。

好美 ずっと、一人だった。私は、話し相手が欲しかった。あなた以外の話し相手が欲しかった。

NA だからって、、、。理解出来ない。

好美 あなたは一人でも生きていけるっていうけど、私は寂しかった。だから友達が欲しかったの。

NA そう。じゃあ、なんで今こんなに悲しい気持ちになるの?彼女と彼が仲良くしているのを知って、わいてくるこの感情は何?

好美 それは、、、私にもわからない。

NA 嫉妬。嫌悪。羨望。結局綺麗事並べても心は正直だよ。

好美  それだけじゃない。
武本さんは私の友達だから、二人の仲が順調なら私は素直に喜ぶ。

NA  素直じゃないなぁ。あの子の恋が実らなければいいって、本当は思ってるくせに。

好美  思ってない!

NA  私は思ってる!あなたは偽善者ぶってるだけ。
本当は声をかけてくれたあの男の子に興味があって、
きっかけが欲しくてあの子と仲良くしているだけでしょ?

好美  そんな理由じゃない。私はあなたと話がしたくないの。

NA  そんなの無理だよ。私も、あなたも、一緒なんだから。


静寂。


好美  私、初めて友達が出来たの。

NA  知ってるよ。中学の時から、話の合う子いなかったもんね。

好美  それも全部私が悪いのはわかってる。
昔からあなたと議論するうちに、頭のなかが一杯で何を話すべきなのかわからなくなって、
伝えたいことがそのまま伝えられなかった。

NA  だから、会話で苦しむなら、人を傷つけるくらいなら、人と会話をしない、っていう決断をしたんだよね。

好美  うん。でも、この前好きな音楽の話をして、
武本さんの好きな人の話を聞いて、伝わらなくてもいいから想いを言葉にしてみたいって思ったんだ。

NA  それでまた傷ついてもいいの?

好美  わからない。けど、向かい合ってみたいんだ。

NA  じゃあどうするの?いくら考えても、選択肢は一つしか選べないよ。
あの子の恋をこのまま応援する?それとも、好きな男の子のことを追いかける?

好美  私は・・・。



暗転。


場面6:高校の卒業式
♪卒業ソング(静かな曲)
高校の卒業式。中学校の卒業式を思い出させるような雰囲気。
異なるのは、好美が生徒のグループに加わって、会話をしている点である。


こう  いやぁーーー

住吉  ん?

こう  なんかさ

住吉  うん。

こう  実感ねぇなぁって。

住吉  実感、ねぇな。

こう  俺達卒業するんだって。

住吉  卒業するんだってさ。

こう  もう少しバカやってたかったな。

住吉  別に会えなくなるわけでもないし、変わらず遊びに行こうぜ。

こう  いーや。たぶん住吉は俺の為に時間を割いてくれなくなる。
(他のグループにいる武本を横目で見ながら)

住吉  そんなことねぇよ。また、色々、遊び回ろうぜ。(ゲス顔)

こう・住吉  げへへへへへへ


下手から高校の先生登場。



こう  先生!

先生  こう君。珍しく派手に間違えてたわね。流石に卒業生代表挨拶は緊張した?

こう  そうですね。途中までは良かったんですけど、感極まっちゃって。

武本  俺的にはお前が俺らを代表するってこと自体ビビってるけどな。

こう  こうみえても(頭を指でさして)いい出来してるんで。

武本  くそ~、実績があると何も言えねぇ。


冗談を言い合っても許される間柄。和気あいあいとした雰囲気。
武本と住吉は他のグループからこうと武本の元に来る。


武本  鈴木先生!数学の授業ではお世話になりました。
おかげさまで第一志望校受かったんです。

先生  そうだったの!おめでとう!よかったわね。

武本  塾に通わないで大丈夫かって心配だったんですけど、先生のおかげで何とかなりました。

先生  私はきっかけを作っただけで、あとは武本さんの頑張り次第だよ。よく頑張ったね。

住吉  塾通わないで第一志望校受かったとか、すげぇよ。正直羨ましい。おめでとう。

武本  うん。ありがとう。

先生  高崎さんも進路が無事決まって、よかったね。


皆の視線が好美に集まる。中学の時とは異なる、優しい視線。


好美  はい。先生にもお世話になりました。

先生  皆にそういって貰えると、先生も頑張って良かったって思えるよ。こちらこそありがとう。

こう  よかったら最後に写真でも撮りませんか?

武本  そうだな。撮ろう!


こうがスマホを取り出し、集合写真を撮ろうとする。
近くにいたクラスメイトに撮ってもらうように頼む。


こう  どうしよっかな。あ、よっしー。悪いんだけど写真撮ってくれないかな。

生徒  いいよ!


クラスメイトが写真を撮る。


好美  よっしーも一緒に写真撮る?私変わるよ?

生徒  撮りたい!ありがとう。

好美が撮影者になる。
写真を二枚。


こう  ありがとう。よっしー後で写真送っとくわ。

生徒  よろしく。


クラスメイトは元のグループへと戻る。


好美  じゃあ、私はそろそろ帰ります。

先生  元気でね。

武本  後でまた連絡するね。次会うのはクラス会かな。

好美  ううん。私クラス会いけないから。

武本  そっか、残念。でも絶対また遊びに行こうね。

好美  うん。

住吉  またね、高崎さん。

好美  武本さんと長く仲良くいられるといいね。

住吉  おう。

こう  式には呼んでな。

住吉  うるせぇよ!

こう  照れてるねぇ。

和やかな雰囲気。


好美  それじゃあ。


好美は皆に背を向けて歩き始める。
一度振り向いて手を振る。そのまま上手から退場。
他の皆も談笑しながら上手から退場。


暗転。

中央にスポットライト。

♪優しい音楽

好美は舞台の中央まで歩き、観客の正面を向く。
観客のいる方向へ続く道を歩き続ける。(歩く動作をする。ピンスポット)
上手から、下手から、次々と交互に歩行者があらわれる。
(歩行者を登場させるか、録音して音声を流す)


歩行者1  今日は高校の卒業式だってよ。

歩行者2  だからか、道理で人の通りが多いわけだ。


中学の卒業式にはイヤホンで外部の音をさえぎっていたが、
今はイヤホンをしておらず、様々な会話が耳に入ってくる。


それぞれの会話を聞いてリアクションをとる好美。



自宅に到着。

いったん落ち着いて、部屋を見渡す。ふと棚へと手を伸ばし、中学生の頃もらった手紙を座って読み始める。


読み始めると同時に下手からNAが登場。
好美に話しかけようとするも、声をかけずに立ち止まる。


好美と背中合わせになって座る。
好美もNAも、静かに笑顔になる。

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