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鳥より、蟹さんへ(#交換日記の多発:返信1)

 蟹さんの声掛けで交換日記をすることになったので、まずは自己紹介です。野咲タラという名前で文章を書いたりしている30代後半です。物語を書きたいのが最終的な目標です。仕事は事務員です。本を扱う仕事をしています。でも本屋ではありません、と言いたいですが、それは嘘になります。でも、だいたいの人が想像する本屋の仕事とは違う仕事内容をしていると思います。そもそも私は本屋さんのしている普通の仕事を知らないと言えます。繁忙期がいつだとか、お店で本を売るためのコツだとか、そういうことはほとんど知りません。棚出しとか、レジ打ちとかもしません。事務員なので。だけど、仕事柄、本のことは他の人よりも少しだけ知っているかもしれません。事務員も本も興味がある仕事だったので、ちょうどいいとも言えますし、本屋だけど本屋とは言い切れない、ひねくれた仕事は、自分の性格に向いているかもしれません。
 誰かと交換日記を少し前にやってみたいと思っていました。交換日記をしたくて、岩波文庫の『ゴングールの日記』に返信を書こうかと思ったこともあります。でもクソリプみたいになるだけなので、文豪との交換日記は辞めました。その時に、こうも思いました。交換された日記を読んだ上で書かれた文章が読みたいのかもしれない、と。書いたことへの直接な返事でなくてもいいのです。共有された認識で積み重ねていく文章を読んでみたいです。だから今回の「#交換日記の多発」企画の提案に飛び乗ったわけです。でも、いざ交換日記を書こうとすると、日々の出来事のうちで、例えば映画を見たとか、本を読んだとか自分が楽しかった話は聞いて欲しいけれどリア充っぽさもあるな、とか、なんでもない話も好きだけれど、人が聞くとなんでもなさすぎて退屈かもしれないな、とか、ちょっとした議論めいたことで意見を深め合いたい気もするけど、相手が同じことを問題として意識しているとも限らないな、とか。考えると交換日記への不安が色々出てくると言うことは、短所は長所、考え方を変えるとる交換日記にはいろんな可能性がある気もします。書く人次第というよりも、読む人次第なのかもしれません。だからこちらはいろいろと書いてみようと思います。
 企画を提案された蟹さんについて。いつも蟹が吐き出す泡のように言葉をつぶやいて紹介されている、短編を含む小説の多くがとても好みです。真似をしてるようになっているな、と思いながらも、おもしろい作品をおもしろいとたくさんいうことは、作品には多分いいことなので、自分なりの感想を考えれたら言おうと思っています。同じ作品を読んでることについて、先日改めて考えていると、図書館の貸出カードみたいだなと思いました。貸出カードにいつも先に書いてある名前、蟹さん。そう思うとTwitterが大きな図書館みたいな気もしてきます。webに発表されている文章だと特にそうかもしれません。でも本当は呟いているその何十倍も本を読んだ中で呟いてるんだろうな、とか、それから最近出版された2冊の編著のSF短編集やその他の文章に関するお仕事とかのことを考えると、とても尊敬しています。
 それから蟹さんが名乗っている名前のことも少し前に考えたことがあります。でもどうしてその名前を名乗っているのか、その理由を考えれば考えるほど、結構ややこしくて、まだ謎です。自分で謎の答えに考え着きたい気もするし、機会があれば、じっくり本人から命名の理由を聞いてみたいとも思います。ちなみに私の名前は、以前旅行で出かけた松山にある大衆洋食屋の名前を拝借しました。ヒレカツ定食を食べながら、いい名前だと思ったからです。アイコンの鳥の絵は、以前トビリシに旅行した時に街を歩いていたら、この鳥の絵が街頭の建物の壁に大きく描かれていたのを見つけて、思わず写真を撮ったものを使っています。名前とアイコンの由来について改めて書いてみると、私は旅行先の何かから出来ているのかもしれません。
 この交換日記の最初に個別の質問をもらいました。これまで何度か美術の話を投稿しているのを読んでくださっているらしく、「西日本の「ひそかなオススメ」のアートスポットがあれば教えて下さい。」と言うものです。どこをオススメしたらいいか今日はずっと考えてました。日記はその日に起きた出来事を書くだけでなくて、その日考えたことを書くのも日記だと最近思ったので、質問の答えが今日の日記です。
 今、京都の主に個人書店さんなんかで、「京都町中華倶楽部」という書籍がとても流行っています。この本は太秦にある小さな印刷屋さんが企画して作られた本です。「京都の町中華(昭和な町の中華屋さん)をアーカイブする目的で作られた冊子。町中華から京都の町の歴史をさかのぼる。」もうなくなったお店なんかも紹介している本です。それから最近、都築響一さんの編集された『Neverland Diner――二度と行けないあの店で』という本も刊行されました。改めて問われると、現存する場所については選びきれないので、今はもうない場所を紹介するのも良いかもしれないと思い、行けない場所をご紹介しようと思います。
 一つ目は映画館です。大阪の梅田には大きな商業ビルもたくさんありますが、駅から少し歩くと商店街がいくつかあります。商店街を抜けて、ピンク色のお店を通り過ぎてマンションの多い静かな場所に入口がありました。階段を降りて半地下になった場所は映画館で、古い映画をフィルム上映している場所でした。狭いスペースにパイプ椅子が並んだ小さな映画館です。私はそこで一時期フィルム映写の仕方を教えてもらいました。グリフィスの作品を上映したり、『極北のナヌーク』という作品を字幕をつけながら上映したこともあります。フィルム映写の字幕付き上映は、観客室の後方の狭い映写室から行います。というか、建物の構造としては、入口から入ると映写機が置いてあるスペースを通り、椅子が並べられたスペースにたどり着きます。上映の時は音がうるさいので、扉一枚をしめて観客席と映写室に分けられます。で、フィルムをカタカタと回して上映をしながら、映写機の横に座って、あらかじめスタンバイさせていたスライドを投影していきます。スクリーンに文字の部分が写ったらそのタイミングで、スライドの発光ボタンを押して、映像に日本語字幕を被せていくのです。ものすごくアナログで奇妙なことをしていた気もしますが、それがおもしろかったのを覚えています。その方法は、フィルムという上映形態のこともよくわかります。『極北のナヌーク』は1922年に作られた映画で、アラスカで生活する人々をドキュメンタリ的な手法で撮影していますが、かなり演出が加えられています。それにまず『ナヌーク』という名前が架空の名前だそうで。そもそもドキュメンタリという考え方がなかった時代の作品で、、と考えると、いろいろとおもしろかったです。そこにいた時期は短かったですが、濃厚でした。今はおしゃれなカフェが併設された場所に移転しているようですが、私はまだ行ったことがありません。
 もう一つは、同じく梅田にあった大阪造形センターという場所です。ここは完全になくなったので固有名詞を出しました。梅田駅から徒歩5分くらいの場所でした。建物の1階は普通の店舗が入っていて、2階と3階がワークスペースになっています。4階まであって、4階はギャラリースペースになっていましたが、4階部分は後から勝手に付け加えた違法建築だったと聞いています。大学卒業後に私はそこでデッサンを習っていた時があり、毎週木曜日の仕事終わりに電車で大阪へ出かけて、夕方から終電ギリギリまで5時間くらい、鉛筆で絵を描いてました。具体的には、ガラス張りの窓を境に、そこから見える梅田のビルや街とガラスに映る教室の中の風景を見たまま描くことにたどり着いて、それを淡々とするのは楽しいことでした。今になって振り返ると、見たまま書くというのは、そのあとの文章を書くことでもずっとやっていることなので、手法としてかなり好きなようです。でも読む方は、どうやら深読みが好きで、なかなか書かれているものを書かれている通りに読めず、困ることが多いです。
 そこへはデッサンをしたいから通っていたのではなくて、美術が何なのかという疑問があり、その情報収集をするために通っていたという、少々遠回りな事情がありました。でも、デッサンはデッサンでおもしろかったです。
 ちなみに、活動としての場所は、なくなった後も別の場所にどんどんと形を変えて移行していくように思います。そこにいた人たちが動くので、自然とそうなるようです。なのでなくなったからといって、ノスタルジーに浸るようなこともあまりない様に思います。
 でも場所の種類によっては、その場所がなくなることで一緒になくなるものというのも確かにあって、一つは「お店の味」です。街中華の話ではないですが、味は場所とともに結構あっけなくなくなってしまう気もしています。好きだった中華料理屋さんが突然なくなったり。お店がなくなると同時にもうそこの味が食べられなくなるのは、後で後悔してとても残念です。それからまだ食べたことのないお店も。最近は気になってるけど行ったことがまだないお店に、ちょっと行ってみたりするようになりました。味を覚えておくためです。でもそれは年齢のせいもあると思います。それに、住んでいる場所から近くても遠くても、初めて行く場所というのは楽しい感じがして、最近一層そうそう思います。場所ってなかなか不思議です。



 昨日の出来事のもう一つは、服を調べていました。友達とのとある企画で「春めいた服」を着て出かける用事があるのですが、家に全然春めいた服がないことに気づいて、探すことにしました。同じ服ばかりが家にあるのにもそろそろ飽きてきています。他の人がどんな風に服を買っているか気になります。「春めいた服」って何色で、どんな素材で、どんな形で、どんな風に着こなしているのか。今日はいろいろ用事を終わらせて、服探しに街の方へたどり着けたらと思います。先日出かけた韓国の印刷物のデザインを紹介する展覧会に行きました。展示されている大量の印刷物のデザインを見る時の感覚と、服探しに昨日見ていたインスタグラムの好きなブランドの服を見る感覚が似ていて、どちらもとても気持ちが盛り上がります。本を読むよりも、好きなデザインを見る方が、とても刺激が強いのかもしれないと思ったりもしました。

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//文章 //最新刊『ぬなはおふ池に映る夜』(20200704刊) //冊子「牛冷す川で泳ぐ魚の話」(20190928刊) //人物図鑑目次 2015〜続 //SF創作講座3 //現在